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徒然なるままにその日暮らし

最近分かったことがある。

以前、時間をやりくりする為に仕事の前にバイオリンの練習をする、所謂「朝練」をしていたのだが、

終了時刻の10分ほど前に、
実に唐突に、なんの前触れもなくスタジオのキーボードが鳴りだしたことがある。

それは不協和音ではなく、何かよく分からないが「曲」になっていた。

私は驚いたものの
なにせ機械に弱いものだから、勝手に演奏を始めたキーボードを前にして

「操作方法が分からない…」と困惑し、

しかし戸惑いつつも「時間がもったいない」ので

スタジオのスタッフを呼びに行くこともせず

そのまま残る時間バイオリンを弾いた。

そして終了時刻が来たので受付に行き、支払いをしたわけだが

その際に「キーボードが突然鳴り始めたんだけど、止め方が分からないからそのままにしています。すみません」と告げると、

スタッフの若者は「……あー……」と分かったような分からないような返事をした。

今日まで私はそれについて何も疑問を感じていなかった。

だからその事を誰にも話したことはなかった。

機械に対する無知が私を平穏無事に暮らさせてくれたのだ。

だが、私は知ってしまった。

スタジオに設置されているキーボードに「自動演奏」の機能などないし、触ってもいないのに勝手に鳴り出すなんてことも絶対にないということを。

それではあれはなんだったのか?

私は魔的で不思議な、怪しい「何か」と俄かに「セッション」をしたことになる。

「暗闇を恐れるのは、想像力があるからだ」とかいう一文を読んだことがある。

「想像力があれば沈黙の中に音楽を聴くことができる」という文章も。

私は自分の想像力を無知が上回っていることを痛感している。

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