年末に近況ノートを書いたような気がしており、年が明けて長編も完結したのでまた書くか、みたいなつもりでした。しかしよく見たら前回のノートは9月だし今は2月だし。半年も経っている。そんな記憶が全くない。近ごろ月日が経つのがとても早いし、今が2025年ということにもいまだに納得いかない。
さて「輪郭線上のアリア」が無事に完結しました。どこらへんが無事なのかはよくわかりませんが。結局、書き始めてから2年と数ヶ月掛かりました。しかも今回はそこまでサボったつもりはなくて、わりとコツコツ書き進めていたはずです。たぶん途中で違うものを書いたり寄り道してたのがいけないんですが。
今後の予定を忘れないように書いておきたいと思います。
・夕木春央『方舟』を読む
すごい仕掛けのミステリーだという風の噂を何度も聞くので、これ以上のネタバレをくらわないうちに読み終えたい。
・『ゾンビつかいの弟子』と『怪獣をつかう者』を紙の本で買えるようにする
ずっと言ってるやつ。Kindleセルフ出版サービスにデータを入稿するだけなんですが、うちにWordも一太郎も無いせいで(あとやる気が無いせいで)、少々時間がかかっております。けどもうすぐ終わるはずです。
・完結していない作品をなんとかする
いずれも続きを書くつもりはあります。以下、主な未完の作品。
『ニッチ』:地方の郊外のリサイクルショップが舞台の推理小説。まだ死人が出てないので、もうちょっと殺人事件などを起こしていきたい。
『子育てエルフ千年の戦い』:短編になる予定です。そろそろ飽きてきたんだけど(書いてないのに?)まだ持ち直せるのでしょうか。
タイトル未定:内容も未定。満州か満州ふうのオリジナル舞台でなにかをやりたい。去年そう言っていた。漠然としすぎている。参考文献になりそうな本をAmazonのカートに入れるところまでは終わりました。
『R.P.A.』:定期的に話を足していく緩いシリーズだったはず。ただそれがなかなか、手が回らないだけで。というか今確認したら去年一回も更新してないんだ……なんか今更感が出てきてますが、なるべく今年は書きます。
家のことなど
ここ2年くらい踏んだり蹴ったりでしたが、なんとか危ないところは切り抜けてだいぶ落ち着いてきたように思います。しかし米が高いのには困っています。仕方なくスパゲティとかパンを食べていましたが、計算してみるとそんなに安くないと気づいて、今週からは芋を食い始めました。もともと根菜が大好きなのでこれは長続きしそうですが、実際どれくらいの節約になってるのかはよくわかりません。もっと他に削る出費があるような気もします。でもまあ、芋は美味しいので……
仕事については特に言うこともなく、快適です。毎日、ビジネスメールを書いています。ある意味では「文章を書く仕事」と言えなくもない。
ボツになった原稿
あまり詳細にプロットを決めるほうではないので、大体の流れは念頭にありつつ、実際に書いてみて予定と違ってもそれはそれ、みたいなことがほとんどです。今回珍しく、最終話のひとつ前のシーンを「予定と違う」という理由で全面的に書き直しました。今の自分の執筆ペースだと(忙しくてあまり創作に時間を割けないこともあって)一ヶ月かかって書いたものを捨ててまた一ヶ月かけて書き直すことになり、大変しんどかった。それくらい、どうしても第一稿に納得がいかなかったのです。
ではその第一稿とやらを改めて見てみましょう。
(興味がある人がいるかもしれないので全文置いてみますが、別に読まなくて良いです)
―――(ここからボツ原稿)―――
一番通路に近いところに寝ていたキバチの方へ駆け寄る。うっかり岩で潰していないか少しヒヤヒヤしたが、無事だった。
両脇の下を抱えてとりあえず引き摺ってみる。岩の床にスニーカーの踵が引っ掛かって脱げ、キバチは迷惑そうな唸り声をあげて目を覚ました。
「うわ、何、なんなんだ?」
「おはよう。目が覚めたんなら手伝ってくれ」
岩のバリケードの向こうで重たく何かを打ちつける音と、銃声じみた鋭い音が聞こえた。鴻野は自分の特技でこの岩を突破するつもりだろう。こっちは意識を失った人質だらけだし、猶予はあまりない。
皆川、小林、ジュウヤ、その他知らない男三人に女二人を何とか奥まで移動させる。大佐戸は体格が良すぎて、俺とキバチの二人掛かりでもあまり動かせなかった。
それでも、とりあえず少しは空間ができた。俺はもう一度岩の輪郭線を剥がし、さっき作ったバリケードの内側に更に岩を落とした。だが、石目にうまく嵌まらなかったようで、落ちてきた岩は中途半端な障害物程度にしかならなかった。通路からの光が遮られて既にかなり暗いので、輪郭線が見えづらくなっている。
あまりやり過ぎると、今度は自分達を生き埋めにしかねない。
「状況を教えてくれませんかね」
キバチは薄暗がりの奥で憮然としている少女と、俺と、床に転がっている連中を順に見やって言った。
「むしろ、こっちが聞きたいんだけど……お前は先にここに来たのに、何も知らないのか?」
「知らない。暗闇の中で階段を降りてたのは覚えてる」
「そこからか……」
「どうなってる? この子供は何?」
「今、話してる暇がないんだよなあ」
バチイッと、何度も聞いた嫌な音が繰り返され、入口を塞ぐ一番大きい岩に亀裂が走った。
「まったく……非常識な奴だな」
単純な暴力という意味では、鴻野は今まで会った特技者の中で一番強いんじゃないだろうか。
くぐもった発砲音が二度立て続けに鳴る。取り巻き達が岩の隙間から狙ったようだが、今のところ角度が合わず、弾はこちらに来ないようだ。しかし、非常にまずい状況だ。
岩の壁がかろうじて盾の役目をしているが、逆にこちらからも相手が見えない。手元の岩から輪郭線を剥がせば、死角になっている部分も能力を通して「見」ながら消していけるだろうが、石目まではコントロールできない。それに、直接見ることができないと、鴻野達の身体や持ち物までは剥がせない。早いところあいつらを無力化できないと、こちらも先がない。
状況を確認するために改めてキバチと他の寝ている面々を見やったが、自分でも情けないほど不安な顔をしてしまっているのを感じた。
「僕の助けがいるか?」
キバチが言った。状況がわかっていないのか、わりと平然とした様子だ。いや、こいつは元から、どれほどおかしな状況でも自分のペースで世界が回っている男だった。
「お前はまだ自分の特技を使えるのか?」俺は一応聞いた。「そこの女の子、というか正確にはその隣の岩みたいな子だけど、そいつが特技者の能力を吸い取って奪うらしい。俺はなぜか大丈夫だったんだけど、今寝てるこいつらはみんな特技を失った可能性が高い」
「へえ。収束点の人か」キバチは自分の右手を持ち上げてじっと見た。「まあ僕は大丈夫な気がする。試してみなきゃわかんないけど。僕は湧き出し点だからね。君も恐らくそうだろうが」
「何?」
「泉のように力が湧き出す場所だ。だから君は無尽蔵に特技が使えるんだろう。通常の特技者はもっと、制約が沢山ある」
「なるほど……?」
通常の特技者が一定量の力を貯めておけるような器であるのに対し、岩に取り込まれたノラは力の吸い込まれる地点、そして俺やキバチは力の湧き出す地点なのだろうか。
その違いはどこで生まれるのだろう。
もう一度バチィッという音と共に岩が揺れ、鴻野が向こうで何かを喚き散らすのが聞こえた。
「うるせえぞ」俺は精一杯虚勢を張って怒鳴った。「環境破壊をやめろ」
「破壊してるのはお前だろ!」鴻野が怒鳴り返した。
まあ確かに。いちいち律儀な奴だな。
不規則な岩の形を確認しながら、手前に落とした岩のそばまで寄る。ここならまだ、撃たれる心配はないはずだ。頭の中で立体と直線を想像し、これからすることを計算しようとするが、緊張と焦りのせいでうまく考えられなかった。
どうせ俺はそこまで頭の冴えた人間じゃない。出たとこ勝負でやるしかないだろう。
足元の岩に、掌を当てた。次の瞬間、そこに鏡が広がった。
キバチからもらった能力は一時的なもののはずだが、まだ有効なようだ。
押し付ける手に力を込める。鏡は足元から両脇の壁、天井に広がり、岩の隙間を伝って鴻野達のいる向こう側へも侵食する。
「うわっ」「なんだこれ」取り巻きどもが騒ぎ出す。彼らの足元が岩の隙間を縫って頭上の鏡に映り、それがまた手元の鏡に映り込んだ。
入り乱れてわかりづらいが、鴻野の顔も見える。
鏡の中に目を凝らす。やはり、映っているものの輪郭線は剥がせない。俺は自分の作った鏡が岩の凹凸に沿って折れているところに手を伸ばし、そこに浮かんできた線を剥がした。
小気味良い手ごたえとともに線が繋がって剥がれ出す。岩の隙間から回り込み、鏡の折れ目を伝って向こう側へ。
誰かの足がちょうど鏡の縁を踏んでいるのが、手元の鏡越しに見えた。そこに繋がるように輪郭線を手繰り、鏡の縁から靴へ、脚へ、身体へ繋ぐ。
「あっ」
何かを誤って倒したときのような、驚きと困惑の混じった声があがったのが聞こえた。
鴻野は先日のビルでの一件を把握しているみたいだから、俺に輪郭線を剥がされた人間がどうなるかは知っているはずだ。
「まずい、下がれ。下がれ!」鴻野の声が岩の向こうで響いた。
「させるかよ」俺は足元の鏡の別な縁からもう一本、輪郭線を剥がす。
素早く手繰りながら向こう側へ繋ぎ、奴らの足元の鏡と岩を丸ごと消す。石目に沿って岩の床が削れ、船底のような窪みができた。
逃げ出そうとしていた鴻野と手下二人が足を取られて倒れる。鴻野の素手が隆起した岩の縁を掴み、窪みから這いあがろうと力を込めたのが見えた。
俺はその岩からまた輪郭線を繋ぎ、鴻野の手の輪郭線を剥がした。
ついでに、連中の一人が取り落とした武器も剥がす。ゴツく角張った本体がぐるんと弾けるように消え、中の部品と弾丸が飛び散った。
まだ無事な二人が、何やら喚くのが聞こえた。が、声が反響しすぎて内容は聞き取れない。
「おい、まだやるのか?」俺は岩の向こうに向かって聞いた。「今すぐ武器を置いて立ち去るんなら見逃してやらなくもないぞ」
返事の代わりに銃声が響いた。岩の隙間から飛び出した弾が鏡に突き刺さる。真冬に氷の張った水溜りを踏んだときのような音がした。
「なるほど」
今さら引けない、というより、たぶん彼らは俺の能力を知らないのだろう。目の前の、無傷なように見える鴻野が既に自分たちの知っているボスではないと気づいてないから、撤退の必要性を感じていないのだ。
いずれにしろ、弾を撃てる状態の敵をこっちも野放しにできない。
もう一度鏡に掌を当てて更にその面積を押し広げる。それから鏡の折れ目に触れ、その輪郭線を剥がした。状況をわかっていない二人を倒すのは容易かった。二人まとめて、鏡に触れていた手の輪郭線を剥がす。途端に二人ともおとなしくなり、辺りにようやく静けさが戻った。
振り返ると、キバチが偉そうに腕組みしてこちらを眺めていた。
「君は強いな。やる気さえ出せば」
―――(ここまで)―――
戦闘シーンを書き慣れていないというか、そもそも読み慣れてもいないらしくて、緊迫した場面でもダラダラしがちです。それはもう、そういう味わい、作風の一つということでも良いのですが、このシーンは「主人公が奥の手を出したことで逆転する」という流れを想定していたのにその肝心の山場がグダっと流れたので、いくらなんでも……しかも、作品の序盤や中盤ならともかく、最終章の最終バトルなのに。ということで、全面リライトとなりました。
書き直すのもすごく面倒で大変でしたので、直し終わったときは大きな達成感があったのですが、一晩経って冷静に読み比べると、まあ、あんま変わってなくね? とは思った。この2ヶ月の苦行はなんだったのでしょうか。
もし時間の余裕があったら「緊迫した戦闘シーン」だけに特化してしばらく特訓をしたい。しかし当分そのような時間はないので結局やらないと思います。せめてカッコいい戦闘シーンをたくさん読んでセンスを磨きたい。戦闘シーンがカッコいいおすすめの小説があれば教えてください。