『【あの貸し本屋に立ち寄ってはいけません】
母から毎日のように釘を刺さされた私は、怖い物みたさでつい、路地裏の薄汚い貸し本屋に立ち寄って、はや半年…
貸し本屋に足しげく通い、いつしか感傷的な恋愛小説に没頭し、異性に興味を持つようになった
身体が少しづつ変化した感覚を感じつつも、恋愛に夢見るそんなある日、隣町にある天文台の書物庫でピエールと名乗る院生に声をかけられた
透き通るような蒼い瞳、長髪の栗毛に
スラッとした長身、中性的な高い声で
【気になる星座があったら聞いてね?】
その瞬間!私の全身に電気が走った!
彼に会いたいが為に、私は隣町の天文台まで通う日々が続いた、でも、そんな彼が公爵家の末裔と噂を聞いて、私の初恋は終止符を迎えようとした
でも…
この気持ちを抑えよう抑えようと…
何度自分に言い聞かせても、心の何処かでピエールの中性的な声、蒼い瞳、
仕草…さりげない気配り…ピエールの全てが走馬灯のように駆け巡り、その度に涙がポロポロ頬を伝って流れ…
私は原因不明の病に侵された
ベッドから起きる事も出来なくなって1週間が過ぎたころ、母が一通の手紙を私に読んでくれた…
手紙の内容は、私が天文台に来ないのを気にした院生のピエールからだった
母は手紙を読み終えると私にこう言った、【諦めなさい!上流階級の院生が、ウチのような貧しい農民を相手に選ぶことはありえない!】
母に改めて気づかされた
暫くして病気はすっかり治ったが、私の心は空っぽになり、何もかもがどーでもよくなりかけたある日、ベランダで洗濯物を干す手伝いをしていると、向かいの建物の屋根に人影が見えた
よく見るとそこに院生のピエールがいた!何度も何度も目を擦っては疑うように屋根を見たが、正しくそこにピエールがいた!カラカラに乾いた私の心が一瞬で潤いに満たされ、彼への想いが再び全身を駆け巡るほど、私の心の中はピエールで溢れた…
私は考えるより先に彼の名前を叫んでしまった…
【ピエール…ピエール…ピエェェェェルッ!!!】
すると彼は、今からそっちに行くから、そこで待て!と、私に合図をした
私は今まで我慢してきた感情と彼が来てくれる喜びで今か今かと待ちわび、お祈りをした…
彼は屋根から屋根に飛び移り、私の家の屋根に来たかと思えば、上着とシャツを結んでロープ代わりにベランダまで垂らした
ピエールが…今…私の…目の前にいる!!!
頭の中は真っ白になり、呼吸も次第に乱れ、身体の力が急に抜けて、私は彼にもたれかかる様に倒れてしまった
そんな私を彼は優しく抱き寄せ、耳元でこう囁いた
【迎えにきたよ♪ お姫様】
あれから……5年
私は今 ピエールを膝枕しながら
【あの頃が懐かしいねっ】
と、思い出に浸り、彼の耳をイタズラついでに掃除してます』