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城壁のエメライガー あとがき

 こんにちは、レンズマンです。
 この近況ノートは本作品のあとがきとなります。未読の方、またはこの記事を読んで興味を覚えた方は是非「城壁のエメライガー」本編を読んでみてね。

 仕事を辞め、開いた期間で小説を書こうと決めたとき、真っ先に書きたいと思ったのは異世界ファンタジーの冒険譚と、大きなロボットが戦う話でした。この「城壁のエメライガー」は後者を実際に形にしてみようという試みで始めたものです。そのため、最初は大きなロボットを戦わせようという思いだけがあり、人間の描写はちっとも書く気が起きませんでした。この感覚は執筆時期の後半まであり、特に一章、五章、六章はあまりロボットが出てこない上に明るくもないシーンが続くので書いていてとにかくフラストレーションを抱えていたのを覚えています。また、そういうシーンに限って時間を取られてしまうのが苦しかった。僕は書きたいシーンを先に書くというやり方がなかなかできなくて、地続きでしか文を生成できません。おかげで書いているうちに当初と違う展開に転がったりすることも多く、そういう意味では当初思い描いていたストーリー展開とズレがたくさんあります。けれど、だからこそ僕自身が読んでいて楽しい物語が書けました。
 書きながら、この作品の目玉は巨大ロボットと怪獣のプロレスだとは理解しつつも、それだけでは物語として成り立たない事を痛感します。僕はブレない主人公が大好きで、どんな時でも怪獣なんかぶっ殺してやるぜ! みたいな殺意溢れる主人公を書くつもりでした。その時の名残が志村ケイゴというマイペースの極みのような主人公を生んでしまいます。ところが、やはり主人公は成長するもの。彼がこの作品を通してようやく普通の人間のような感性を得る事が出来たのは、当初の僕も想定していない成長でした。
 また、ケイゴが成長するのと同時に、彼の周囲の人間も驚くべき成長を遂げました。この物語は翠の巨人<エメーラ>のパイロットである志村ケイゴを中心に、彼を通して自らの課題に向き合う人々を描く群像劇となったのです。こうなることは僕自身予想しておらず、プロット段階の登場人物は「ケイゴ」「シンジ(タツローの旧名)」「リョウカ(タチバナの下の名)」の三名しか主要人物に数えていませんでした。カツムラ、イシガミ、ヤジマは本編が進むうちに自然と名前が与えられ、それ以上の活躍や描写が増えていったのです。特にイシガミは、翠の巨人<エメーラ>の前座である筈の量産機のパイロットの一人にすぎず、群蝙蝠と戦う彼の活躍シーンなんて考えてもいなかった。それが宿敵ギガードンに最後の一撃を喰らわせる逆転の一矢を担う事になり、強い存在感を放つことに。彼は僕個人からしてもお気に入りのキャラクターの一人ですが、流石にやりすぎたか、と思わなくもなく。
 しかし、進化した翠の城壁<エメライガー>が宿敵ギガードンに一対一で殴り勝って決着という終わり方は絶対にしないと決めていました。エメライガーのコンセプトは「援護防御」。これは、僕の心を掴んで離さないスーパーロボット大戦における用語で、攻撃された味方の代わりにダメージを受ける技能の事です。僕はこの技能が大好きで、傷ついてでも仲間を救おうとするその姿にヒーローとしての矜持を感じずにはいられません。そして何より、一人で戦っているのではない、仲間と一緒に戦っていることを強く感じられる。これはこの物語を通じて伝えたかったテーマでもあります。飛び抜けた才能を持っている人でもいつだって一人で戦えるわけでは無くて、きっと誰かの力が必要になる瞬間が来る。例えばそれはケイゴを暗闇から救おうとあがき続けたタツローであったり、意地を張って実力を発揮できないイシガミを叱咤するヤジマであったり、重圧に押しつぶされて逃げ出そうとしたタチバナの心を軽くしたカツムラの事かもしれません。全員が力を合わせて戦ったからこそギガードンを倒し、皆が笑っていられる結末に至ったのだと僕は思っています。
 上手に小説を書くコツとして「登場人物を絞る」というのがあるのだそうです。名前がわかるのは最悪主人公一人でも良く、ヒロインと二人、多くて三人でも物語は展開できる。少なくした方が視点を絞ることができるし、何より読者が混乱しないで済みます。この作品で登場人物をカタカナで表記しているのは少しでも登場人物をわかりやすくしようと言う狙いがあり(ロボットものにおいて登場人物はカタカナで表記する憧れも多少あったり)、この点に関しては悩みました。イシガミの存在感が強くなったことでタツローは不要になったのでは? と思って、存在を消してしまおうかとも考えました。しかし、あまりに不可解な志村ケイゴという人間を語る存在として彼の生い立ちを知るタツローはやはり必要で、何より作劇の雰囲気を楽しくするのにタツローの語彙が必要でした。何もできないとわかっているからこそ悩む彼は、何かを成している事に気が付かない。そんなタツローだから描ける魅力もあったのだと思います。何より、これは志村ケイゴと志村ケイゴに振り回される人々の話なので、人数が増えるのは必然だったのかもしれません。

 この小説は第29回スニーカー大賞【後期】に向けて執筆した作品ですが、残念ながら落選となりました。めげずに第9回カクヨムWeb小説コンテストに応募してみます。賞金や名誉も当然ほしいですが、ケイゴ達の続きを書きたいからというのが大きいです。読者の方に、ちょっぴり心が広くて、余裕があって、エメライガーが好きな方がいらしたら。星やコメントで応援してみてください。腕が上がらなくなるまでパソコンにしがみついた一人の馬鹿が浮かばれます。
 だらだらと長文失礼しました。
 ケイゴと仲間たちの戦いが少しでも心に残ったら幸いです。

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