ヤン少年は十歳くらいまでの記憶が無いわけですが、それなのにこんなに感情豊かなのは、オリトさんやフヨルがいるからなのかなあと……。
オリト:シャコシャコ
ヤン:「オリトさん、どこ磨いてるんですか。それは歯ブラシですよ。歯を磨いてください。歯を」
オリト:「ヤン君、なんだか痛いよ」
ヤン:「そりゃあ歯磨き粉をそんな所に擦り付けたら痛いですよ。シャワーで流してきてください」
オリト:「うん」
フヨル:ガサゴソ
ヤン「あっ、フヨル、お客様用のスリッパを隠したね。この僕に宝探しの挑戦状なんて、いい度胸じゃあないか。フヨルがスリッパを隠しそうな所なんて……あれ?」
フヨル:(フフン)
ヤン:(……無い。本当に無いぞ。でも、この僕がフヨルに負けるなんて……)
フヨル:(アラ、ヒントガホシイノカシラ?)
ヤン:「い、いらないっ! ヒントなんか……!」
フヨル:(ソレニシテハ、ズイブンジカンガカカッテイルヨウデスケレド?)
ヤン:「こっ、これは! まだ覚醒していないだけ! 朝だから! 朝なのだから!」
オリト:ガチャ
ヤン:「あっ、オリトさん」
ヤン:(良かった。オリトさんがシャワーから戻ってきたから、探す手を止める口実ができる。その間に考えるぞ……)
オリト:「ふあぁ」(シャワーで体が温まって眠い)
ヤン:「オリトさん、まだ寝ないでください。皮膚が傷んでいるかもしれませんから、クリームを塗っておきましょう」
ヤン:(よし、だいぶ時間が稼げそうだ)
フヨル:(フン。アナタノコンタンナンテ、バレバレヨ。……デモ……)
ヤン:「はい、オリトさん、服脱いでください」
ヤン:(……って、もう全裸か。ここに保湿用のクリームを……)
ヤン:「うぇえあぁ!?」
フヨル:(ミツカッテシマッタヨウネ……)
ヤン:「なっ、なんでこんな所に!? しかも二つ揃って!? どうやって!?」
オリト:「フヨルがやかんと間違えたんだよ」
ヤン:「え? ……え?」
フヨル:(ナゾハフカマルバカリネ。フフフ)
ヤン:(何も分からない。一体どういうことだ? フヨルはどうやってここに? やかんと間違えたって何? ……うう、もう僕の探偵助手としての人生は終わりかもしれない……)
フヨル:(アラ、ヤンクン、トウメイニナッテキタワ。オリトサン、ナデテー)
オリト:「ん?」
フヨル:(ナデテー)
オリト:イイコイイコ
フヨル:ニコッ
……とにかく、今朝も平和な異世界探偵社クワツなのでした。