これは、つい先日の話です。
朝食後、食器を下げにキッチンへ向かった私は、冷蔵庫の扉にマグネットでくっついているキッチンタイマーから、だらーっと液体が垂れているのに気が付きました。
慌てて駆け寄って見ると、液体は粘り気があるのか、冷蔵庫の扉に伝ってはいるものの、止まっていて、落ちる気配がありません。
どうやらその液体は、てかてかした油のようです。
よく見ると、茶色い所もあれば、黄色味がかった透明な所もあります。
また少し観察してみると、油らしきその液体が、キッチンタイマーの右上から、裏側を伝って、冷蔵庫の前面に流れているらしいことが分かりました。
きっと、機械油でしょう。
このキッチンタイマーは、百円ショップで買った安物です。それに、購入したのは三年ほど前。
だいぶ前から、若干調子が悪かったのですが、とうとう壊れてしまったようです。
まあ、仕方のないことです。
部品がずれているだけ、とかで、自力で直せそうなら直すし、無理なら新しいのを買おう。今度は、長持ちしそうなものを――。
そう思い、キッチンタイマーに手を伸ばしました。
しかし。
私は、急いで手を引っ込めました。
これ、機械油じゃない――。
だって、キッチンタイマーひとつに、だらだらと流れ出すほどの量の機械油が使われていることなんて、素人ですが、考えられません。
電池が液漏れした時に出る液体は、もっと結晶っぽいというか、粉っぽくなった記憶があるので、違うような気がします。ですが、何か、素手で触ってはいけないような液体である可能性は否めません。
本当に、機械油などであるかもしれませんが、いずれにせよ、何か分からない液体を素手で触るのは危険です。
ここは落ち着いて、これが何の液体なのかを調べる必要があります。
私は改めて、キッチンタイマーと、そこから垂れている液体に向き直ります。
液体の色はさっき見た通り、茶色い所もあれば、黄色味がかった透明な所もある感じ。
そしてやはり、てかてか光っていて、油であるように見えます。
他に調べられることは、匂いです。
一般家庭で使われるものに、強い毒性や刺激のある気体を出す液体を入れる、ということは考えられません。しかし念のため、理科の授業で習った通りに、直接鼻を近付けるのではなく、手でそっとあおぐようにして、液体から出る匂いを鼻の方へ送ります――。
……油の、匂い……?
私は、ぱたぱたと手を動かして、もう一度匂いを確認します。
……やはり、油の匂いです。
ほっと、一安心です。
しかし、この距離では、何の油の匂いかまでは分かりません。
取り敢えず、非常に危険ということは無さそうなので、キッチンタイマーと冷蔵庫にべっちょりと付いている液体に、鼻を近付けます。
あっ。
はい。
分かりました。
朝食に食べた、鶏肉の煮物の匂いです。
昨日作って冷蔵庫に入れておいた煮物を、今朝電子レンジで温め、取り出して、運ぶ時に、汁がこぼれただけでした。
そうと分かれば、油汚れ用のウェットシートで、キッチンタイマーと冷蔵庫を拭くだけです。
綺麗になったキッチンタイマーの動作を確かめてみると、幸い、異常はありません。冷蔵庫も、問題無しです。
キッチンタイマーさん、安物だなんて言ってごめんなさい。
これからも、よろしくお願いします。
お料理の入ったお皿を持って運ぶ――。毎日、何度もすることですが、慣れて不注意になりませんよう、皆さんもお気を付け下さいね。
※分かりやすくするため、多少の脚色はありますが、出来事の大まかな内容はこの通りです。