これは、つい先日の話です。
私は、一日のあれやこれやを終え、帰宅して、キッチンで買い物の荷物を片付けながらも、ほっと一息ついておりました。
そこへ――。
ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!
何かの警報らしき機械音が鳴り響きました。
私は、焦ります。
地震? 火事? 泥棒? それとも……?
しかし、警報音以外に、音はありません。
とても、静かです。
ここで、鳴り続ける警報音に少し慣れてきた私は、ある物を見つけました。
点滅する、赤いランプ。
それが、ビィーッ! ビィーッ! という音に合わせて、ビカビカとうるさく光っています。
音の出所は――。
ここだ。
壁に設置された、白い、小さなプラスチックの箱。
ガス漏れ警報器です。
……ガス漏れ警報器?
音の出所が分かっても、私は、なお焦ります。
とにかく、大きな音をどうにかしようと、ガス漏れ警報器のあちらこちらを叩きました。
幸い、音の停止ボタンは触りやすい所にあって、警報音は止まってくれました。
それでも、赤いランプの点滅は止まりません。
ガス漏れ――。
でも、外出前に元栓は閉めました。見ると、今もきちんと閉まっています。
となると、元栓よりも後ろの部分からの漏れ? それとも、外から……?
だとすれば、私にはどうしようもない。早く業者さんを……。いや、その前に、換気をしなければ――。
しかし、キッチンの換気扇のスイッチに手を伸ばしかけた私は、大事なことを思い出します。
以前、ガス会社の方から、ガス漏れをしている時に何かの機器のスイッチを入れると、発生した小さな火花がガスに引火して、大変危険だという説明をされていたのでした。
私は急いで手を引っ込め、窓を開けようと立ち上がります。
その時です。
鼻の奥に、つんとした刺激が走りました。
ついに、ガスが部屋中に充満してしまったのでしょうか。
しかし私は、ふと立ち止まります。
鼻に感じる刺激は、ガスのそれとは、何か違うような気がするのです。
私は、匂いの根源を探して、辺りを見回しました。
下からです。
私は、見下ろしました。
ありました。
ウェットティッシュです。
アルコール配合の、ウェットティッシュです。
スマートフォンを拭く為にパッケージから出したそれが、ガス漏れ警報器のすぐ傍に置いてありました。
白いウェットティッシュが、警報ランプに照らされ、赤く点滅しています。
私は、ひんやりとしたウェットティッシュを掴み、ガス漏れ警報器から遠ざけました。
数秒後。
赤いランプは消えました。
顔を上げると、いつもの穏やかなキッチンが、そこにありました。
アルコールも可燃性のものですから、反応したのでしょうか。皆様も、お気を付け下さいね~
※多少の脚色はありますが、できごとの大まかな内容は変わりません。