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生まれてくるんじゃなかった。

生れて来てよかったと、ああ、いのちを、人間を、世の中を、よろこんでみとうございます。
太宰治『斜陽』

 先日、誕生日でした。お祝いしてくださった方々ありがとうございました。

 けれど昔はそんなふうには思えなかったなとしみじみしました。中学生の頃から希死念慮に魅入られ、死のみがこの世界からの出口だと強く強く信じていました。生まれてこなければよかったと、よく泣いていたのを思い出します。

 そんな折に太宰治に出会いました。まだ中学生ですから、太宰の小説の一部も分からなかったとは思いますが貪るように読みました。彼の小説はたしかに暗いのですが、その暗さのなかに灯された一本の蝋燭のように希望が描かれていました。

 太宰が手を伸ばしてくれたように感じたのです。私はその手をつかんで、辛うじて息ができるような気がしました。

 それでも人生に意味が見いだせず、毎日が苦しかった。大学にはいってこの希死念慮の正体は「生まれてこなければよかった」という立場、反出生主義と呼ばれているのを知りました。

 あるときカウンセラーにこの話をしました。すると彼はこんなことを言いました。「子どもは親を選んで生まれてくる。受胎する前に自分の人生の青写真を描いてから生まれてくる。そんなことを言うもんじゃない」と。
 彼の言いたいことは“一般論として”とてもよく分かります。けれど人生に青写真のような意味があるかは疑問です。

 これはネーゲルという哲学者が挙げた例ですが、人間は人間の肉を好んで食べる他の生物の食料になるために育てられたことが判明したらどうかと言うのです。人生に意味が与えられたとは考えにくいですよね。同様にもし生まれてくる前に青写真を描いていたとしても、それを覚えていない時点で無意味なのです。

 かと言って、いい加減「死にたい死にたい」と思うのも疲れました。そこで村上春樹の書く主人公のように「やれやれ」と呟いてはどうかと思うのです。この言葉は事実を受け止め、諦念し、それでも歩いて行く感じがします。

 誕生日か、やれやれ。という具合に。

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