ツクヨミと話せた事が嬉しくて、柄にもなく子供達と駆けずり回ってはしゃいで疲れてしまったのか、俺はいつの間にか寝ていた様で気付いたらベッドの中だった。
小さいからか、この子供の身体は以前の中年の身体より感情の制御が難しい気がする。
少年漫画の主人公が皆若いのは、この猛り狂う感情の渦が、熱血とか闘魂とかを生み出して、読者の子供達にも何処にも吐き出す事ができないその感情部分が何某かの共感が持てる部分があるからなのだろうか…とか勝手な事を妄想しながらゴロゴロ身悶える。
つまり俺は、難癖をつけながら少し前に起きた黒歴史を思い出し、恥ずかしがっているのだが、人様の|家《砦》で頭を抱えて大声を出すわけにもいかない。そして残念な事だが、過ぎ去った時間は、この魔法のある世界でもそう簡単には巻き戻らない様だ。
(嬉しくてはしゃいじゃうとか何事?!)
『ふふっ。那由多と話せて私も嬉しいですよ』
(アーーーー!更なる追い討ちをかけないでぇー!)
誰も気にも留めない事だし、そんな恥ずかしがることはないだろうけど、そうじゃないんだ。俺が恥ずかしいと思っちゃうから仕方がないんだよなこればっかりは。
広いベッドでゴロゴロゴロゴロ転がって居ると、俺が起きた気配を察知したのか、客室付きの侍従が扉を叩いた。部屋への入室を促すと、晩餐のお支度をお持ちいたしました…と、新しい衣服に着替えさせられ、そのまま抱えられて晩餐の間へ連れて行かれた。
そういえば、執事さんが晩餐で郷土料理を出してくれると言っていたなぁと思い出した。
すでに晩餐の間では昼食の時と違い、辺境伯家一家も揃っており、順次丁寧に挨拶された。
エルラフリート・ファロ・ブルクハルク・ダリル辺境伯を筆頭に、奥さんのアルナさん、嗣子のヴェーティさんに次男のエイノさんの4人を紹介された。三男のヴィルホさんという方も居る様だが、今は帝都にある全寮制の魔法学院で勉学に励んでいるそうだ。
こちら側もお祖父様が簡単に家族を紹介してくれた。母様と俺の時点で、息子さんたちはびっくりしすぎて言葉を失っていたけどダリル辺境伯の咳払いで我に帰ってお辞儀をしていた。
和やかに…とは行かないが相手側に多少の緊張感はあったものの、ダリル辺境伯に堅苦しいのは好きじゃないから気楽な食事会だと思って…と言われ晩餐が始まった。
俺が勝手に想像していた一品ずつ出てくるフルコース料理みたいなものではなく、一気にドーンと出て来て、そこから給仕に好きなものを盛り付けてもらうスタイルの様だ。
俺は全てが気になったので、まず前菜を大人の一口の半分くらいの量を盛り付けてもらった。パンもとてもカラフルで楽しい。黄色に緑色にピンクに茶色に…何かが練り込んでいるわけではなく、小麦の色自体の色らしい。もしかしてレインボーケーキとか作れてしまうのでは?あとでクヴァルさんに言ってみよう。きっとティーモ兄様が喜ぶぞ。そんな事を考えながら前菜を一口ずつ食べた。
柑橘と人参のビネガー和えはさっぱりとして、クリームチーズと魔魚のリエットはチーズが濃厚で魔魚の旨みとも合う。魔獣のレバーパテもレバーの濃厚さが際立ち、豆のパテは豆の甘みがまたうまい。カリフラワーの様な野菜のサラダもレモンのドレッシングでさっぱりと食べれた。きっと酒と合うだろうな…と思ったら俺とティーモ兄様以外其々好きな酒を飲んでいた。
…くっ悔しがってはいないさ。畜生…
給仕さんにフォレストハネーと大量のレモンを渡し、これで濃いめの甘〜いレモンシロップを作って欲しいとお願いした。そして皮も削って入れて欲しいと頼んだ。レモンシロップを作っているだろうその間俺は、空間魔法で大気中の二酸化炭素を集めて集めまくって30センチ四方の小さな四角い氷の結界内で冷しながら固めて固めてコレでもかと固めまくった。そこに我が家の裏の聖水をいれ混ぜまくるとあら不思議、強炭酸水の出来上がり。そこにレモンシロップを持って現れた給仕さんからレモンシロップを受け取り、結界内に注ぎ込むとさっぱり炭酸レモネードの出来上がりである。
グラスにしゅわっと注いで一口飲めば…
「くぅー!うまい!」
ほろ苦い皮の味が、また良い仕事をしている。レモンサワーの代わりみたいなもんだけど、とてもうまい。喉をパチパチ通る炭酸の心地がまた懐かしい。脂っこいクリームチーズと魔魚のリエットをもう一度貰い、苦味の効いた炭酸レモネードと共に食べる。最高だった。
ずっと周りの人達にポカーンと見られて居るとは思わず、ルンルン気分で次の料理は何を食べようかな…と物色していたらお祖父様と目があった。
「?」
どうしたんだろう…残念そうな顔をしている。俺…気楽にとは言われたけどマナー悪かったかな…?食事中魔法を使ってしまったし…チラッと母様を見ればポカーンと見てる。
いち早く立ち直ったティーモ兄様が、
「僕も飲みたい!」
と言った所で全員我に返り、結局炭酸レモネードは全員に配られてしまった…ずるいぞ大人め…
俺が持って来たビビット色の大きなエビはソテーにされてレモンバターソースがたっぷりとかかり、強面の大きな魚はプロックフィスクルという濃厚な芋と魚介のミルクシチューになっていた。
どちらも美味しくいただき、その頃にはもう炭酸の効果もあり、お腹がくちくなってしまったが、しっかりとパンの様な焼き菓子のデザートも頂き、やがて瞼は重くなり、子供は眠る時間になってしまった。部屋に連れて行かれ、着替えさせられながらどんどん俺の意識は深淵へ沈み込む。
明日は海鮮バーベキュー…だ…早めに起きなきゃ…
(おやすみ、ツクヨミ…)
『おやすみなさい、那由多』