マグベルトさんはまず最初に、街のシンボルと言うか、水の魔道具で制御された噴水がある広場へと案内してくれた。噴水の中央には空中に浮いた巨大なクリスタルで出来た七曜計がある。
「わぁ!見てナユタ!大きな七曜計が浮いてるよ!!」
「これは凄いですね」
チラリと【神眼】で見てみれば、この噴水から、街中の至る所に点在するあの魔法陣との動力線と言うか繋がりが見えた。魔法陣の発動は、この噴水とクリスタルの七曜計が何がしか関係があるのかもしれない。
【光の噴水広場】ヤクトシュタインの大噴水
民の憩いの場。愛の告白の定番スポット。
この広場で収穫祭などの催し物がよく開催される。
▶︎新代の魔法陣【吸魔の陣】中継点
本丸(ヤクトシュタインの砦)からの魔力を分散する中継点。
七曜計に見せかけた人工魔石クリスタル。魔力がある程度蓄えられている。この街には他に8箇所人工魔石クリスタルが存在するが地中に存在し外観からは見る事ができない。
成程。あのクリスタルの七曜計は分魔?器兼充電式の乾電池みたいな役割があるのかもしれない。あの魔法陣は【吸魔の陣】って言うのか。魔力を吸った相手の魔力を活用してまた砦を経由してクリスタルに溜まる…ある意味魔法使いがくれば来るほど永遠に作用する永久機関だな。たとえ一機見えているクリスタルが壊されても地中のクリスタルがその代わりになる様だし。ある意味噴水のクリスタルは囮なのかもしれない。
しかし人工魔石…うっすら光を帯びて本物の水晶みたいだ。もしゲームとかだったらこう言う場所がセーブポイントとかになるのだろうか…?
「ここは街の中心的広場、【光の噴水広場】になります。北に領主の砦、ここから見える東門が海岸に出る道に続き、西門は転移門に続き、南門は旅人などが利用する帝都へ続く大道へ行く道がございます」
「私たちが入ってきたのは西門ですね!私くらいの子供が沢山居ました!」
「そうです。西南方向に孤児院があり、そこで子供たちは伸び伸びと過ごしております。西門は滅多に開かないので随分と子供達ははしゃいでいたでしょう?」
「馬車を追いかけながら手を振ってくれました!」
嬉しそうに話すティーモ兄様に、ニコニコと好々爺の様にうんうん頷いて見守る俺と護衛一行たち。
「そうだ!ナユタ!!」
「はい、何でしょう?」
何となく次のセリフがわかった。おおかた…
「孤児院に行こう!」
だよね!フマラセッパで大勢の子供達と遊んだ事が楽しかったんだろうな。
「はい!」
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マグベルトさんの案内で、ヤクトシュタインの孤児院に来た俺たちはまず、院長さんのアルムスさんを紹介してもらった。アルムスさんはおっとりとした中肉中背の中年の男性だ。何やら親近感が湧く。
ヤクトシュタインの孤児院には他にも数名の職員と、手伝ってくれる近所の奥さんが何人かいるらしい。
俺はついついフマラセッパの孤児院での癖で、寄進を申し出たり、食料は足りているか困ったことはあるか、足りないものはあるかなど聞いてしまった。
院長さんは、ほやんとした顔で驚いていたけれど、お小さいうちからなんと言う立派な…とか言って称賛してくれた。
俺を抱っこしている護衛役のエルノさんは、鼻の穴をムフーと膨らませてドヤ顔を極め込んでいたが、思い起こせば俺の今の年齢は3歳。知らない人から見たら随分とマセた子供みたいな感じだったに違いない。ちょっと顔を赤らめてしまった。
この地は領主が治める街なので、孤児院への食料供給は他の街の孤児院よりだいぶ良いらしいが、国自体が北に位置する土地で、作物が育ちにくいと言うのもあって野菜不足があるとか。今は初夏の様なもので、苺(この地ではベルの形をしたベルベリーと言う)などを森で摘んだり、初夏にとれる野菜などを加工して一年持たせる作業をしている最中だとか。
ならばと、アンダーザローズで加工した小麦粉と野菜もたくさんではないけれど、寄進したら喜んでくれたよ。多分見た事がないであろう白い大根などの根菜は塩漬けや酢漬けのピクルスにすると美味しいと言っておいた。ついでだからフォレストハネーや自作の回復と解毒のポーションなども進呈したよ。風邪引いた時とかお腹壊した時に使って欲しい。
フマラセッパの孤児院とこの孤児院の違う所は、獣人や妖精族がいない所だ。人族…それも魔力が高い子は居ない。
俺が院長さんと話す前に、ティーモ兄様は早速孤児たちと遊んでいた。ティーモ兄様はコミュ力が高い。俺が教えた「エルノさんが転んだ」や(三文字ならどんな名前でもいいと言ったらエルノさんにされて、エルノさんが私は転びません!って言っていたけど)、影踏み、しりとりなどを孤児院の庭で実践している様だ。子供達の喜ぶ声が聞こえる。
「ナユタ様はティーモ様とご一緒に遊ばれないのですか?」
「私は見てる方が楽しいです」
「さようですか」
ティーモ兄様の様に子供達と活発に遊んで欲しいのか、エルノさんはちょっと残念そうにしていたけど見ている方が中々面白いのだ。スポーツも自分でするより観戦の方が好きだったし。
ツクヨミだったら…
『友達100人作りに行きましょう!』
って言うに違いない…あれ?
(ツクヨミ?)
『ハイっ!喚ばれて!飛び出れないけど!!ツクヨミです!!!』
「えー!」
「ナユタ様?!どうかされましたか?!」
「はっ?!いえ!ちょっと思い出しびっくりです。何でもありません!驚かせてしまい、申し訳ありません」
「思い出しびっくり…何もないならば安心いたしました」
いや、本当にすいません。でもだってさ。
(ツクヨミ、浮上してきて大丈夫なの?)
『はい。那由多がこの辺境で一番、 *^.?#•*の力が宿っていた像を分解して浄化をかけてくれたので山から触手を伸ばしこの地の支配権を奪りました!』
(は?!そんな簡単に?!)
『|*^.?#•*が力を…魔力を吸収したいが為、各都市に設置した物なので、土地を支配したい訳ではなく、女神像さえなければ気が付かれず大した労力もなく土地の支配権は奪えました。この世界に無数にある像の一つなので*^.?#•*も気にも止めないでしょう。彼奴は基本瑣末な事は気にしない主義ですから』
(それにしてもびっくりしたよ)
『そろそろ私と話せなくて、那由多も寂しいかな?と思いまして』
まぁ。確かに。なんだかんだで、この世界に来てからずっと一緒にいたしね。ちょっとだけだけど物足りないとは思っていた。うん。
『さぁ!那由多!思いっきり駆け回って子供らしく遊びましょう!』
(やだよ。疲れちゃうよ)
『なに爺むさい事を言っているのですか?!さぁ!護衛の腕から飛び降りて遊びましょう!』
仕方ないな。
「エルノさん」
「はい?」
「ちょっと下ろしてもらっても良いでしょうか?」
「はいっ!」
エルノさんはニッコリしながら下ろしてくれて、俺は多分顔を赤らめながら、遊ぶ子供達に仲間に入れてもらった。
こんなに駆け回って遊ぶのは40年ぶり以上だった。
鐘が9つなった。多分、光の9の時間。すなわちおやつの時間だ。世話役の女性たちがおやつをどうですか?とお誘いしてくれたので、俺とティーモ兄様は喜んでご馳走になった。
「こんな真っ白な小麦粉はここ数年食べてません」
と、小麦粉を渡した時に院長さんが言っていたけど、この北の地の小麦粉は黄色かったり赤かったり、緑色だったり茶色かったりする様だ。逆にそのカラフルな小麦が気になる。
今日は俺の持ってきた白い小麦粉で、この地方伝統のパンヌカックというオヤツを作った様で、四角い甘くないパンケーキの様な薄い生地に、ベルベリーのジャムがたっぷりと乗ったオヤツを頂いた。ベルベリーのさっぱりとした甘酸っぱいジャムが美味しく、何枚でも食べれそうな気がした。まぁ流石に孤児院でがっつきはしないが…ティーモ兄様も他所行きの所作の綺麗さで丁寧にオヤツを食べていた。こう言うところが、やはり俺と違って貴族なんだなぁと思ってしまう。
孤児院で十分遊ばせてもらい、オヤツまで頂いてしまった俺たちは、この後子供達は洗濯物を取り込んだりお手伝いがある様なので孤児院をお暇し、気になったカラフル小麦粉を買込み、あとは通りがかりに見つけた宝飾店で、大きなパールがメチャクチャ安かったので母様にお土産に買って帰路に着いた。
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※書き忘れましたが中代とか新代←とか出してますが自分の造語なのであしからず…調べても地層が出てくるだけです…地層から拝借したので…