• 異世界ファンタジー

非有の皇子×朝市

 街中は封鎖された教会とは打って変わり、人々の活気に満ちた空気が流れていた。人通りは、教会に行く前に通りかかった時より減ってはいたが、まだまだ喧騒に満ちている。

 嫌な気分を切り替えフロトフラストでいつもの様にふわりと浮いて行こうとしたら、お祖父様に捕まり片腕に抱えられた。

 この街の朝市は、フマラセッパとはまた違った品揃えで、この国特有なのか、見たことの無い野菜やハーブもあって、俺の目移りが激しい。
 見るだけの予定だったが、ストレス発散さながら気になった物を買い漁ってしまい、お祖父様に呆れられてしまった。
 ある程度道を進むと自身の結界によって遮断されていた外気の匂い…海特有の匂いが薄らとしてきた。

「潮の匂いだ…」

 アンダーザローズの近くの海を模した物は、塩水のみで、有機物がなかったせいか海特有の臭いはなかったが、この世界に来て初めて嗅いだ本物の海の匂いに、異世界でも同じ匂いがするのか…と妙に感心した。
 お祖父様に奥の方に進んでもらうと、ガラリと露店の雰囲気は変わり、魚介類を取り扱う店が一気に増え始める。

 魚は切り身などは無く、魔道具を使用した箱に入っていて、丸のまま売っていた。日本の魚屋の様に神経締めや、血や内臓を抜いたりはしていなさそうだ。
 明らかに毒を持っていそうな色の巨大な魚や、カラフルな生きている貝に蟹や海老らしき物…極悪な顔をした魚の様な物?など…でも…

「海藻は売ってなさそうですね…」

「海藻?海藻を何かに使うのか?」

「転移…いえ、以前住んでいた土地では、さまざまな物に使用されていました。お菓子やスープなどにして食べたりもしていましたが、土壌改良や飼料、髪や体を洗う洗剤に化粧品、…あとは爆発物が作れるらしいです…勿論、爆発物製作の知識は私にはありませんが…」

 確か大昔に日本の曽祖父からヨードと何かの成分が海藻に入っていて、火薬の原料になるとか聞き齧ったことがあった。

「爆発物とは…その様なものにも使えたのだな」

「食べると身体にも良いですし、お味噌に出汁として入れたり具として入れるととても美味しいのです。ただこの世界…この土地の海藻がどの様なものか見ないとわかりませんが…」

「味噌汁は…ナユタが作っていた独特な風味を持つスープだったな。そうだな…いくら国境護りの辺境伯といえども、我らグラキエグレイペウス一門の皇城への入城手続きに何日か時間が取られる。しかも今回の教会の件も報告すれば国はまた混乱するであろうから、普段の倍は時間が取られそうだ。そうだな…明日にでも皆を連れて海辺へ行って見てみるか?」

「良いのですか?!ついでに漁師から直接魚を買い付けたいです!!」

 流石三大欲求の一つ。食欲と食べ物は偉大で、先程までの憂鬱な事件で負った精神的負担は随分と軽くなり、海辺に行く話に気分は更に上昇し、手土産にビビット色の大きなエビと、強面の大きな魚を購入して、お祖父様のグラニを回収し、アレやこコレやと海について話しながら城へと戻った。


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 城の門兵に見送られながら入り口まで行くと何人かの人たちが待ってるのが見えた。


「お帰りなさいませ。主人から託づかってございます。昼食のご準備が整っておりますので、此方へどうぞ」

「久しいな、コンラート。息災で何よりだ」

「ランガルト様…いえグラキエグレイペウス公爵様。お久しゅうございます。帝都での事を主人からお聞きした時には肝を潰しましたが、ご無事で何よりです」

 お祖父様は、グラニから降りると俺を片腕で抱え、グラニの首筋をポンポン叩き、手綱を馬丁に預けると、親しげにコンラートさんに話しかけながら食堂へ案内された。手土産をコンラートさんに渡すと丁寧にお礼を言われ、今夜にでも手土産を使ってこの領地の郷土料理を作らせましょうと言ってくれた。手土産のはずが自分に還元されてしまったが、とても楽しみである。

 コンラートさんは、この領地特有なのか薄いピンクが入った色…薄いピンクゴールドというのか?…そんな感じの色の髪の毛をかっちりとオールバックにして、黒の|お仕着せに身を包んだ、筋肉質なお祖父様よりだいぶ細身の男性だ。瞳の色は緑っぽい。歳の頃はお祖父様と少し上とそんなに変わらず、小さな頃からダリル辺境伯の付人…侍従をしていたみたいで、学院でも一緒に勉学に励んでいてお祖父様とも学友だった様だ。

 コンラートさんに案内された食堂では既に母様とティーモ兄様は着席しており、クリームがたっぷり乗ったほわほわな分厚いパンケーキを食べていた。クヴァルさんに教えた卵白を泡立て分厚く焼いたパンケーキだ。クヴァルさんが、辺境伯家の料理人と作ったのかもしれない。

 2人はお祖父様を迎える為か立ちあがろうとしたが、お祖父様がそのままで良いと手で制した。

「「お父様、ナユタ、お帰りなさい(ませ)」」
 
「母様、ティーモ兄様、ただいま戻りました」

「何か変わった事はあったか?」

 お祖父様が有無と頷き、問いかけたが、2人とも朝と変わりはなくこの屋敷の女主人…ダリル辺境伯の奥さん、アルナさんと楽しいお茶会をしていた様だ。

 母様を知っているアルナさんは、母様がライカンスロープ化していて最初は驚いていたそうだが、素手でも魔獣と戦えると知ったら羨ましがったそうな…え?母様といい、この国の高貴な女性って武闘派なのか…?俺の地球で培った貴婦人像がどんどん否定されるんだが…いや…まだ早計かもしれないけれど…母様はちょっとしたお洒落も好きだし…育った環境というのもある。うん。

「ああ、そうだ。急ぐと言えども帝都に行くのにはしばし時間がかかる事だし、明日皆を引き連れ浜辺に行こうと思うのだが、2人はどうだ?ナユタが海鮮でばーべきゅー?をしようと張り切っている」

「ばーべきゅー?」

「はい!野営で肉を焼く様に、釣れたての魚や貝を焼くのです!」

「わぁ!面白そうです!行きたいです!」

 母様はニコニコと頷き、ティーモ兄様も喜んで参加してくれそうだ。魚に忌避感がなくてよかった。苦手な人も居るからね。

 メニューが厚いとはいえ朝と同じパンケーキになってしまうのでサンドイッチとどちらにするか聞かれたが、昼食はお祖父様と俺は加工肉類や卵料理などを添えた分厚いパンケーキにトマトソースを垂らし蜂蜜をかけた物を食べた。こんがり焼いたベーコンやパリパリのソーセージと一緒に食べればふわシュワ肉汁あまじょっぱー!である。お祖父様は蜂蜜をかけた時点で眉尻が跳ね上がったが、俺の勧めで少し蜂蜜をかけた物を訝しみながらも食べてくれた。感想は、「思ったよりも良かった」そうだ。

 ふふっ。こうやってじわじわとあまじょっぱい味覚を浸透させ、寒天が手に入りそうな今だからこそ妄想できるが、いつの日か、みたらし団子とか塩大福とか羊羹など…和菓子をふんだんに広めていきたいと思う。

 因みに葛に似た植物も発見したが、葛粉を作るとなると手間がかかるので、もう少し分離のレベルを上げて成分抽出を覚えてから葛粉チャレンジと行きたい。コレが成功したらきっと狙った栄養素、物騒な毒さえも対象物から抽出し分離できるはずだ。

 午後はお祖父様はダリル辺境伯と、そして母様はお付きの人たちと辺境伯夫人とでお話があるので、ティーモ兄様と俺は暇になってしまった。

 ティーモ兄様を連れて、街にまた行っても良いかとお祖父様に聞いたら、護衛を連れて行くならば、と許可をくれたので、早速俺の護衛代わりのエルノさんと、ティーモ兄様付きのベルターさんを引き連れ、それぞれのグラニに乗せて貰い街へと出かけた。
 俺たちの前には街を案内してくれるというマグベルトさんを筆頭に、数人の辺境伯家の騎士が付いてきてくれている。

(うーん。要人って感じ)

 俺はともかく、ティーモ兄様は公爵家の跡取りだからな。目を光らせて周囲を見る騎士たちに囲まれながら俺たちはグラニに揺られのんびりと街へと降りて行った。



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 ちょっと仕事が月末の追い込みで忙しかったので間が空いてしまい申し訳ありませんm(_ _)m

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