俺とティーモ兄様は、気がついたら屋敷のベッドの中で朝を迎えていた。
どうやら途中で寝てしまった様だ。……まさかお子様あるあるで食事中寝てしまったのか…?
(全く覚えてないんだが…)
隣のベッドですよすよ眠るティーモ兄様を見ながら、己の行動を思いだそうと考えたが、ジェラートを食べた後が思い出せない。
『那由多、おはようございます』
(おはよう、ツクヨミ)
『昨夜はワインのジェラートを一口食べ、そのまま那由多が寝てしまったので、屋敷のベットにアネットさんが運んでくれましたよ』
そうだ。酒を薄めた菓子ならちょっとぐらい…と思って食べたんだった。まさか一口で撃沈するとは…やはり3歳児に薄めたワインは早かったか。
(まさか一口で寝るとは思わなかったよ)
『状態異常無効化のパッシブスキルが働いているので、酔う事はありませんが、単に酒精が引き金となり、疲労と、魔力もだいぶ使っていてしまったので回復の為眠ってしまった様です』
(…ということは…俺は生きてる限り酒に酔わないという事か?)
それもなんか寂しい様な気もする。
『残念ながら、そうなります』
まぁ魔法のある世界だし、酔っ払って何かやらかすよりは良いか。
眠っているティーモ兄様を置いて俺は、昨日の片付けと皆様の朝食を作らねばと食堂へ向かった。
一階のメインダイニングに入ると、鍋も皿も綺麗に片付けられ、鍋は調理場の鍋を置く為であろう棚に、食器やカトラリーは調理場横の食器棚が集まる倉庫に全て収まっていた。そしてなにやら良い匂いがする。
ひょっこり調理場を覗くと、クヴァルさんと、女性が2人忙しそうに働いていた。
「おはようございます」
「「「ナユタ様!おはようございます」」」
「もう少しで朝食の準備が整いますのでしばらくお待ち下さいませ」
「は…はい。ありがとうございます」
そうだった。昨日クヴァルさんが、
「ナユタ様のお手を煩わせずに、今後は私と経験者を見繕って調理を致します。その代わりナユタ様の知識の中にある料理を、是非ご教授願いたいです」
と、調理係を引き受けてくれて、そして昨日のうちに水の魔石で冷える魔道回路が組み込まれた食材庫に食材をめいいっぱい入れておいたんだった。
クヴァルさんが、冷えたり常温で置けたりする食材庫を見て喜んでた。故郷のノートメアシュトラーセ帝国の貴族家でも見たことがないほど高度な技術の魔道具らしい。
女性2人の名前は、エルミナさんとイルザさんで、遠い親戚の騎士爵家に嫁いだ娘さんたちで旦那さんと共に戦いながら記憶の森を抜けたということだ。
帝国では雑役女中やキッチンメイドをしていた様で、料理の下拵えなどが得意とのことだ。
(皆さんのご飯を出す日課がなくってしまった…)
朝食ができるまで暇になってしまった俺は自分の家の裏の泉へと向かった。
とりあえず自分で彫った水の神様…神龍様へお酒…御神酒がないのでとりあえずフマラセッパで購入した赤ワインと白ワインをお供えしておいた。
あと…お供えは多めにだったよな…|自宅へ戻り神棚がわりの台へ、果物や炊いて収納に入れておいた白米や和風のおかずなど、多めに出しておいた。
もう一つ台を出し、直剣2振と鏡と勾玉を一時的に置いた。早めにお社を作ろう…
(無事、皆の呪いが解けました事をご報告致します。お力添えありがとうございました…)
俺はいつもの様に祈り礼をする。すると遠慮がなくなったのか、いつもはいつの間にかなくなっている供物が忽然と消えた。
(神使の皆さんお腹減ってたんだな…気が付かないで申し訳ない)
「ナユターーーー!」
お。ティーモ兄様だ。
「はーーい!」
「朝ごはんできたってーーーー!」
「今いきまーーす!」
朝ごはんを用意してもらって呼びに来てくれる。そんな事が若干嬉しくもあり、ニマニマしながらティーモ兄様と屋敷に向かった。
「ナユタ、何で笑ってるの?」
「何でもありませんっ」
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大人たちは、二日酔いの人を省いて一緒に朝食をとった。
朝食が終わり、ふと思って、畑を手伝ってくれる人を募集した。御朱印の能力を使いすぎるといずれ能力が消えてしまい代償が高くつくとの事なので、今実っている物の種を取り、普通に植えようと思ったのだ。
妖精の箱庭から直で植えると成長は早い。が、今回は|箱庭の中で植えようと思ったのだ。ツクヨミ曰く、箱庭の中で植えると通常の成長速度となるらしい。
畑仕事はどうかなと思ったけど何人か来てくれる様だ。
後は、庭いじりをしたい人や、女性陣は手芸をしたい人が多かったみたいだったので、手持ちの糸やら布やらを渡し、足りない道具などの分は、城下町で母様にお金を渡して一通り揃えてもらう段取りをつけた。値段はツクヨミの糸で教えるとの事だ。歩いて行ったら大変かな?と思ったけど母様以外皆様身体強化を使えるようです。貴族の女性とは…?母様は抱っこして連れてって貰えるらしい。中々シュールな光景だった。
いつもの様に狩りにいく人もいる。思い思いの午前を過ごして普通を皆で味わっていた。
お昼前になり、そう言えば昨夜、ポテチを作る約束をしたなぁと思い出した。
ふよふよ調理場へ向かうと既に、クヴァルさんとエルミナさんとイルザさんが昼食の準備をしていた。サンドイッチを作っている様だ。終わるまで待とうかと思ったら、クヴァルさんに見つかってしまった。気配察知ってやつかな?さすが元騎士。
「ナユタ様!如何されましたか?」
「お忙しい所、お邪魔します。昨日言っていたポテトチップスを作ろうかと思いまして…」
「昨日の!既に鍋と獣脂の方は用意してございます!此方へどうぞ」
クヴァルさんは女性陣に具材を挟むのを頼んで、ポテトチップスを作るコンロへ案内してくれた。めちゃくちゃ用意がいい。
「では早速…特に難しくはないのですが…」
「はい!」
よく洗ったじゃがいもの芽を取り、皮を剥く。野菜の皮はブイヨンになるので別の鍋へ入れて収納した。
「皮は捨てないのですか?」
「良いブイヨンが出るので野菜の皮は取っておきます。今回は皮を剥いてますが、ポテトチップスは皮ごと揚げて食べても美味しいんですよ」
「成程。勉強になります」
フマラセッパのイズンさんの工房で作ってもらったスライサー(イズンさんに変なモン思いつくわいと言われた)を出しシャカシャカ芋をスライスしていく。
「これは便利な道具ですね」
サンドイッチを挟み終わった女性陣が合流し、どんどんじゃがいもの芽を取り皮を剥き、スライサーにかけたじゃがいもを一度水に入れ、澱粉がある程度落ちたら更に氷を浮かべた塩水にザバザバ投入して行く。
なぜ水に入れるかなどを説明し、粗方水分を魔法で抽出する。
後はニンニクとハーブ…ローズマリー、タイム、オレガノ…でいいかな?を熱した油に投入し、スライスしたじゃがいもを、くっつかないように一枚ずつ油に入れてゆく。じゅわじゅわ揚る音と広がるハーブの匂いがまた良い。焦げる前にハーブとニンニクを取り出してハーブは粉砕し塩と混ぜ、ニンニクはそのままおつまみで。
カラリとじゃがいもが揚ったら油を切り、半分はさっき作ったハーブ塩と和えて、もう一つは引き立ての黒胡椒に、パルメザンチーズに見立てたチーズを細かくした物と和えて酒飲みの友!ポテトチップスの完成である!端っこに揚げたニンニクを添えて。うむ。完璧。
作った者の特権で、少し摘んだけど大成功だった。
クヴァルさんとエルミナさんとイルザさんは美味しすぎて止まらないって言ってた。
サンドイッチを盛り付けて、付け合わせにポテトチップスを乗せていく。
あと母様を筆頭とした女性陣とティーモ兄様用に、昨日のケーキの残りで有り合わせのパフェも作った。スポンジケーキと生クリーム、ベリー類のジャムにベリーのジェラートとミルクジェラートを乗せた豪華な一品。
昼食にメインダイニングに集まった面々からポテトチップスもパフェも絶賛を受け、クヴァルさんが、ポテトチップスは常時、パフェは定期的に作ることになっていた。
うん。皆…確実に太りそうだな。