先ずは各々好きなアペロをグラスに注ぎ、乾杯だ。
上座には俺と母様、両脇にお祖父様、ティーモ兄様が座り、後は元の貴族的地位の高い人から座っていた。
突如とした国からのやむを得ない出奔だったので、序列は彼らの中に国にいた時と同様に変わらずあるようだ。
上からお祖父様の公爵家、お祖父様の父の兄弟が継いだ伯爵家、そのご先祖様が継いだ子爵家、男爵家、騎士爵家などなどで、記憶の森を横断できた魔力が強い、ある意味猛者達が集まっていた。
貴族家当主夫婦は勿論、親戚の中で爵位が高かった公爵家に、たまたま行儀見習いで侍女に来た者や、高位貴族嫡男なのに食に傾倒して自ら料理人になった変わり種の騎士団出身の者など、様々な御親戚さんの集まりだった。母様のお付きの人も行儀見習いのまま公爵家に居着いてしまった侍女さんらしい。
皆さん無事、人の姿に戻れたことを喜び、両手が自由に使えグラスから飲み物を飲めることに涙していた。
「さぁ皆さん、今日は無礼講です。給仕は残念ながらいませんが、どんどん楽しんで、好きな物を飲んで食べて下さいね!」
そう俺が言うと、皆さんは待ってましたとばかりに食事をとりに行く。
男性陣は肉やシチュー、酒のつまみになる物をガッツリと持っていき、女性陣は一番気になったらしい、土台を俺が作って調理経験者の方…えーっと…そうだ、クヴァルさんだ。クヴァルさんに飾り付けてもらったショートケーキに群がっていた。
クヴァルさん曰く、この周辺諸国ではこの様なふんわりした生地にクリームを塗ってフルーツを盛り付ける軽い菓子は珍しく、どっしりとした日持ちする焼き菓子が多い様だ。
飾り付けも楽しんでやっていたので、女性が喜びそうな随分と華やかな栄えるケーキが仕上がっていた。
急遽追加で薬草茶や紅茶を置いておいたが、役に立った様だ。
ティーモ兄様もケーキを気にしていたが、群がる女性に恐れをなして、遠巻きに見ながらローストしたフォレストブルの肉を取っていた。
見知った女傑たちの集いの中に入るのは勇気のいる事に違いない。
「ナユタ、あのお菓子はナユタが考えたの?」
ティーモ兄様が慎重に持ってきたお肉を、自分の場所に置き一息付くとケーキのことについて尋ねてきた。
「私がと言うわけではなく、日本…えっと故郷にあった菓子の再現です」
「ふぅん。他にも見た事ないお菓子いっぱいあったら食べてみたいなぁ」
くっ!そんなキラキラした無垢な目で俺を見ないでくれっ!
「この世界の菓子をまだあまり見た事がないし、私自身も菓子職人では無いのでそんなに多く作れるわけでは…」
「私も気になります」
「母様…」
母様までそんなキラキラした目で…
母様の手元にはしっかりショートケーキが確保されていた。
「お前達…揃ってナユタを困らせるんじゃない」
「「お(義)父様」」
「して、ナユタ」
「はい?お祖父様、何でしょうか?」
「ナユタが以前いた世界に甘く無い菓子はあったか?」
おっ…お祖父様まで…
「はい。一応ポテトチップやおせんべい、ポップコーンなどがありますが…」
「「「ポテトチップ?」」」
「芋を薄切りにして油で揚げるのです。そこに香辛料や塩をまぶして食べるのですが、酒のツマミによく合います」
「なんと!」
お祖父様まで目がキラキラしている…!!って周りを見れば男性陣がキラキラした目でコチラを見ている…おつまみはチーズとか砂肝のニンニク胡椒和えとか干し肉とか出したのに!
「あ…明日…明日クヴァルさんとご一緒に作ります!」
俺の言葉に気が付いたクヴァルさんが嬉しそうに頷いてくれた。良かった…
でも心なしかお祖父様が残念そうにしている…お祖父様の頭に狼の耳が、ヒコーキ耳になってる幻影が見えるのは何故なのか…皆さんが人に戻って喜ぶ反面、もふもふロスに陥った感情が少なからずある今の俺には、効きすぎる攻撃だ。
「今日は食後に、お祖父様へスパイスを入れたワインのジェラートでもお作りしますよ」
「ナユタ」
「あ…母様…いえ皆さんに…ティーモ兄様にもベリーのジェラートを作ります」
「「「ありがとう、ナユタ!」」」
氷菓子は一度しか食べた事がないよー!楽しみ!!とかティーモ兄様がニコニコ言いながら和やかにささやかなパーティーの時間は過ぎていった。
(俺が異世界の料理を楽しむ様に、皆んなも俺がいた世界の料理やお菓子が気になるんだな…)
お祖父様もショートケーキを食べ、これは軽くて良いなとお褒めを頂き、そろそろ皆さんお腹もくちくなってきたかなと言うところで、ティーモ兄様に教えてもらった俺が入れるくらい小さめにした球体の【氷の結界】を3つだし、1つに中にクリーム用に脂肪分をとった牛乳、粉砕したナッツ、フォレストハネーを入れ、もう一つには、脂肪分をとった牛乳、粉砕したベリー類、フォレストハネーを入れ、もう一つには赤ワイン、粉砕したベリー類と柑橘類を少し、そしてフォレストハネーを入れ、氷の結界で冷やしながら中身を高速で撹拌する。食後なのであっさり目にしてみた。
「ナユタ、凄い!私はこんな事を思い付かなかったよ!」
「そもそも、結界を料理に使う発想がないな」
と、ティーモ兄様とお祖父様に、お褒めと言うか呆れと言うか評価をいただき、みんなでジェラートを食べた。大人はしっかり3種類食べてて、ティーモ兄様がなんか!ずるい!と言っていたので、明日特別にティーモ兄様にパフェでも作ろうかなと思う俺だった。
何か気配がして、ふと見たら母様が俺ににっこりと笑っていて何か寒気がしたがジェラートを食べたせいだと思いたい。
『いや完全に私の分もお願いね、の顔ですよアレ』
(なんなの?!母様俺の心が読めるの?!)
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次回もちょっと異世界様式美ターンでポテトチップとパフェが入ります。引っ張ってすいません。
その次から新章に突入予定です!