俺は、はやる気持ちを抑え、ジオラマ部屋の魔法陣に乗りアンダーザローズまで降りた。
以前はツクヨミが、俺の家付近に、ジオラマ部屋からの出入り口用の門を設定してくれていたが、今は新しく設置した屋敷内にある俺の平屋近くの四阿に、門を設置してくれたのだ。
俺は四阿を飛び出し、ホップステップジャンプの要領で、皆んなが居る筈の屋敷の前の庭へ転移する。
希望の場所へ転移した俺は、無事狼から人間の姿に戻っている人たちを確認した。
(全員人に戻ってる…良かった…)
当事者達は、抱き合って泣いている者、雄叫びを上げる者、歓声を上げる者、其々三者三様だ。
「ナユタ!!お帰り!!」
いち早く俺の存在に気付いた、薄水色のおかっぱ髪の美少年が俺のすぐそばまで走ってきた。もしかしてティーモ兄様か?レビテーションを制御し、ティーモ兄様の目線まで降りる。
「ナユタの実験って僕たちを元に戻す事だったんだね!!凄い!!凄いよ!!!眩しい光が僕たちを照らして過ぎ去ったら、僕たち人間に戻れたんだ!!」
興奮したティーモ兄様に、ガツリと両脇を掴まれ持ち上げられ、ティーモ兄様が凄い凄いと笑いながら高速でぐるぐる回る。
(あわわわわ〜目が回るぅ〜)
三半規管の弱さは、こちらの世界の身体でも健在なのか、すぐに目が回ってしまった。このまま俺は回されまくって、いつしかの虎のようにバターになってしまうのか。この世界に来て短い人生だったが割と楽しめた…もののふたちよ…俺の屍を越えて行け…キュウ…
『那由多!しっかりして下さい!ちゃんと状態異常無効化のパッシブスキルが働いてますから!』
(え…そうなの…?でもぐるぐる目が回るぅ〜)
「ティーモ。そんなに回ったら、ナユタが目を回してしまうよ」
俺があわあわ(思い込みで?)目を回して心の中で遺言を残していたら、なんと言うか…ぞわぞわする声が聞こえた。
日本に居る妹だったら「尾骶骨に響く良い声だわぁ」とか悶えて言ってそうな美声だ。もしかしてお祖父様か?狼語の時は感覚として理解できたから音声で聞くと、これまた凄い破壊力である。
「お義父様!」
ティーモ兄様は興奮しきりで、ブンブン俺を振り回し、お祖父様と思わしき男の前まで俺を連れて行く。
幼児ですので、お取り扱いは注意してくださーーい!
俺を反転させズイッとお祖父様の前に、俺を差し出すティーモ兄様。余韻で俺の足がぶらぶら揺れる。
これ完全にあれだ。崖の上で猿に抱えられたライオンの子が、掲げられるシーンだ。命の輪廻!ハクナ・マタター!
「ナユタのお陰で、一族の者達の呪いが解呪された。それだけではない。この一月近く。国を追われた我らを保護、そして生活の援助までしてもらった。この恩に感謝を示したい」
俺にパッシブスキルが効いていようとも、目を回して正気を失っている間に、お祖父様と思わしき男性が、肩膝をついて左手を胸に当て頭を下げる。他の人達も落ち着きを取り戻し、お祖父様と思わしき男性の後に続き男性はお祖父様と同じ体勢で、女性は両膝をつき、組んだ両手を額に当て頭を下げている。
『貴族や騎士の最上位の礼ですね。仕える王や神に対してのみされる北の地方の作法です』
なんと。
「いえ、困っていたらなんとかしたい、って思うのが人情ですし!自分のできる事をしてあげたい、って言う自己満足と言うか偽善というか…そこまで礼を尽くされるのはちょっと気が引けるというか…なんというか…」
「足手纏いを切り捨ててきた我らには少々心が痛む言葉だ…。しかしその偽善で我らは救われた。是非我ら一族の礼を受け取ってほしい」
「えっと…」
『那由多!そこで!わかったというのです!!』
(ええっ?!…)
「わ…わかりました。謹んでお受け取り致します」
『那由多!ぐっじょぶです!』
(は?ツクヨミが言えって言ったんだろ?なにを…)
「「「「「「我が一族、命、燃え尽きるまで、貴方の為に戦いましょう」」」」」」
「え?」
右手が突然熱くなり、思わず右手を見ると雪の結晶と盾の紋章がクッキリと右手の甲に浮き上がっていた。
「何これーーーー!」
「我ら一族の忠義、しかとお受け取り下さい」
よくよく顔を見れば、俺と左目以外同じ色彩の偉丈夫がニッコリと俺に笑いかけていた。
『47名の家臣!大量に!ゲットだぜ!』
いやいやいや!そんなボール投げて捕まえたモンスターじゃないんだから!
え?!家臣ってどういう事なの?
カッコいいね!凄いね!と興奮したティーモ兄様に左右に振られ、脚をぶらぶらさせながら、俺はまた混乱するのであった。
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近況ノートへ書きましたが、まだ動揺が晴れないまま書いたのでちょっとわざと明るくしたつもりです。空回りしてしまってすいません。
輪廻の輪。ハクナマタタ。愛ある限り戦いましょう。命燃え尽きるまで。なんかグルグルしてます。
大幅に書き直しが入るかも知れません。