• 異世界ファンタジー

幼児×聖水の泉

 まだ日が出てるけど、一旦屋敷に戻って心配してるであろう一族の皆さんの所へ母様をお届けして、あとは暴れ足りなそうな暴れん坊狼様御一行を連れていつもの狩りと俺は採取をして朝を待とう。

 はやる気持ちを抑えていつもの様に過ごす。

 大きな狼を半分覆える様な布を48枚。
 一時的に使うサッシュベルト48個。
 男女の平民服48枚(母様見立)。それに着替えや下着をとりあえず3回分。

 貴族の様に各個人に合わせた服では無いけど、新品の物をちまちまと街に来る度、時には注文をして揃えた。比較的物価の高いフマラセッパでの買い物はどえらい出費(合わせて大金貨1枚位)になったが、俺はここしか街を知らないし、精霊族と思われて変に詮索されないから良い。

 お祖父様が、一族の分は自分で用意すると言っていたけど、俺の秘技⭐︎ティーモお兄様監修かわい子ぶりっ子ぷるぷるお祖父様孝行ウェーブ⭐︎でどうにか凌いだ。お祖父様は若干難しい顔をして、そこまでやるのであればと引いていたが、瑣末な問題だ。もちろん俺の羞恥心はとうに息絶えているのがポイントだ。

 お母様をお付きの狼さんたちに送り届け、身体を動かしたい狼達を連れて森へ出て各々狩りや採取に向かう。

 ティーモお兄様はいつもの様に俺について来てくれた。中身はどうあれ俺の外見はまだ3歳。いくらツクヨミの聖域結界で護られているとはいえ、最初は心配して着いてきてくれてたけど、今ではお祖父様に秘密で空間魔法を教えている。
 代わりに俺が、水と氷の魔法を教えて貰っているのだ。本当は言えば魔法全般ツクヨミが教えてくれるけど、近しい年齢の子と教え合いっこもいいなと思う。ツクヨミは、

『友達100人への布石ですね、わかります』

 とか言っていた。
 今ではティーモ兄様も気絶した魔物から小さな魔石を転移する位はできる様になった。ツクヨミ曰く、短い期間で転移を習得するとは将来有望な子だ。との事。
 元とは言え、ティーモ兄様は神様のお墨付きをひっそりと貰えた。

 日が暮れ、辺りが夕色の帳に包まれる頃、お祖父様達の遠吠えで帰宅を促されザシークレットガーデンまで転移をし、青い屋根の屋敷に帰る。

 いつもの様にみんなの夕飯をたっぷり用意し、風呂にゆっくり浸かり就寝する。

(発表会前の子供みたいだ)

 中々寝付けない俺は、スプリングの効いた真新しいベットで寝返る。
 ベットマットが気に入った母様もちゃっかり居るけど、俺の頭を撫でながら寝入ってしまった様だ。
 国から逃げて来て、日帰りは何度かあったけど、泊まりがけで出かけるのはなかなか気の張る事だったに違いない。

(ツクヨミ…)

『大丈夫です。明日のことでしょ?』

(ああ)

『その為に毎日ずっと那由多の魔力を蓄積させてましたし。大丈夫ですよ。必ず成功します』

 失敗したらと何度も思う。

『いつものアネットさんの様にずっしり構えとけばいいんですよ。頭空っぽにして成功する事だけ考えるんです。簡単でしょ?』

(簡単じゃないって)

『考えすぎることは、それを不可能にしてしまいますよ。成功を感じるんです』

(ははっ。また人の記憶読んだな?ブ◯ースリーかよ。考えるな。感じろって?ちょっと用法が違うけどね)

『那由多の記憶中枢の奥深くに潜って、映画鑑賞も出来ましたよ!良作の宝庫!私を誰だと思ってるのですか?那由多が居た世界の月の神様の名前を頂戴した元神様ですよ?運が瞳の中にいるのですから何も心配する事はありません』

 左目からドヤァの気配が伝わってくる。

(ここ最近静かだと思っていたら、人の記憶で映画鑑賞してたのか…記憶を持ってる本人でさえ詳細は覚えてないのに)

『忘れてるだけで奥深くにはちゃんと残ってますよ。地球に居た那由多の記憶が』

(そっか)

『そうです。今まで、そしてこれからも記憶が脳へ蓄積して行くのです。たとえ失敗したとしてもね』

(失敗とかいうなよ)

『フフッ那由多が忘れても私がずっと見てあげます』

 ツクヨミと話していたら気が抜けて瞼が重くなって来た。あとは勇気だけだ。

『おやすみなさい、那由多』

(おやすみ…)



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 俺の朝は日の出と共に始まる。

 姪っ子が小さかった時は早朝からやってるアニメが見たくて早く起きていたみたいだが、俺の場合痩せすぎて、身体が痛いので長時間寝れないというのもあるが、テレビも何も無いし、夫夜遅くまで起きてる理由もない。俺と母様以外は獣姿なので一族の皆様も寝るのがすこぶる早い。皆様朝から駆け回って運動?しまくってるし、超絶健康生活だ。

 朝一に依代一式に浄化をかけて、ツクヨミに地上の太陽の一筋の光を入れてもらい、泉にかかる様にして貰ってそのまま依代を聖水に浸す。

(うまくいきます様に…)

 泉は何も無いと寂しかったので、剣山の様にニョキニョキ生えた大きな青水晶塊たちを奥まった所に配置して、一番大きな水晶の原石に、7個の玉を集めたら願いを叶えてくれそうな神龍を、荒いながら透かしで彫ってみた。何度も失敗してスキル『細工』の派生から『彫刻』が生えた。ついでだったので丸い水晶も七つランダムに転がしておいた。さらに泉の周りにレアな薬草や樹木を植えた。

(うーん。何度見てもゲームにありそうなセーブポイント…まさにファンタジーの風景…我ながら良い仕事をした)

 泉の風景を見ながら1人悦に入っていると、屋敷周りの庭で走り回っていたティーモ兄様がひょっこり覗きに来た。

「キャウ?(ナユタは何をしているの?)」

「ティーモ兄様。聖水に依代を浸してるんです。夕方から皆んなで実験するので楽しみにして下さいね」

「キャウ?!(何の実験?楽しそう!夕方が楽しみだね!)」

「皆さんを驚かせたいので内緒ですよ」

「キャン!(わかった!内緒にするよ!)」

 ティーモ兄様はフリフリ機嫌良さそうに尻尾を振りながら屋敷の庭に戻って行った。

(ありゃ言う気満々だな)

『さてどうでしょうね〜』

(さて。朝食の準備をしますか)

 朝食のメニューは、白い小麦粉を使ったパンをカリッと炙って、ローストして砕いた木の実を散らして森林蜂蜜をたっぷりかけた甘いパンと、カリカリのベーコンに胡椒を効かせた目玉焼きと溶けたチーズを乗っけたものとシンプルなサラダを用意した。あとはコーヒーと行きたいところだが無いので、柑橘のジュースと狼達には足りなかろうと、孤児院で作って貰った大量のロールキャベツのトマト煮と、焼いた肉をたっぷりと。

 そして軽食を置いて、いつもの様に狩りに行く者や、採取に行く俺やらに分かれ夕方まで過ごした。


俺たちはいつもの様にお祖父様の遠吠えで帰路に着いた。

今日はやる事がある。皆さんに屋敷の前に集合して貰って、布を被ってもらう。

「キャウ?(コレがナユタが言っていた実験?)」

ティーモ兄様に応える様に周りが、朝ティーモ様が言っていた例の…と言っている。

「そうです。リラックスしてしばらく布を被って下さいね。何があっても被ったままにして下さい」

「キャン(わかったよ。あとで何の実験か教えてね)」

「はい」

一度お祖父様を見て、アイコンタクトを取る。お祖父様は頷いて送り出してくれた。

母様は、

「落ち着いたら自分でぶん殴りに行くので、このままの姿で良いです」

 とか言ってるのでとりあえず保留にした。ぶん殴る…いや深く考えたらダメだ。母様は獣化するのは月の光がないと出来ないが、人の姿に戻るのは自分で出来るので、か弱い人のままよりその方が良いみたいだ。ぶん殴りに行くが頭をよぎる。


(よし)

俺は俺の加護、極小が最大限に発揮されるジオラマ部屋へと向かった。

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