• 異世界ファンタジー

幼児×技術

このニ振の双子剣は、ごく僅かに外側に反った直刃の刀身で、ポイントはキリッとしたカマス鋒。フラーにそって鎬の地に1筋、繊細に添樋が入り、非力そうな俺でも持てる様に軽量化が成されている。其々の裏側には星の彫物。素材の大部分がミスリルなせいか、白銀に美しく輝いていた。ミスリル銀と言うだけある。

一頻り直剣に魅入っていた俺は、そう言えば剣鞘の注文を忘れてしまった!と我に返ったけど其処はノーリさん、ちゃんと用意してくれていたよ。
これまた繊細な彫物の成されたミスリルの鞘だ。所々金が入っている。鏡と同じく薔薇の意匠が凝らされていた。お揃いにしてくれた様だ。

「ノーリさん、とても素晴らしい品物をありがとうございました。なんというか…言葉にできない美しさです。つい見惚れてしまいました。お代はいかほどになりますか?」

「気に入ってくれた様で良かった。代金はそうだな…50万lbでどうだ?」

「一つ50万lbと言う事ですね…ではこれを」

思ったより安くてビックリしたけど金貨を2枚差し出す。

「いや。全部で50万lbで良い」

「ええ?!それは安すぎなのでは?!」

この世界で使われているであろう物でもない、こちらから指定した変形の趣向品が50万lbの破格の値段だなんて。昨夜見た、オークション落札額との差があまりにもあって驚きが絶えない。

「材料はナユタが持ってきてくれたモノだし、ナユタには、はじめて知る鍛錬などのやり方を教えてもらった。柔らかい金属を、硬い金属で包み込む事で生まれる細身なのに折れにくい弾力性と切れ味、そしてオリハルコンを芯に入れることによって生じる魔力伝導率の高さ。どれをとっても俺にとって…いや道具を作る我等一族にとって新たなる技術の光となった」

この世界の武器は、ほとんどが重量で叩き切る物が多かったそうだ。なんと言う筋肉の世界。

「魔力伝導率がいいから、元々魔道具や装飾品に多かったエンチャントを組み込んで、魔法を出す魔剣の研究も始まった。何日か前から新しい技術で|親父が浮かれてる。停滞していた古き血族の技に新たなる息吹を吹き込んでくれたナユタは英雄に等しい。俺は無償でも良かったんだがな。自分の技術を安売りするなって親父にどつかれたから…」

「いや。それにしても安すぎなのではないでしょうか?」

「良いんだ。手習の値段としては高いくらいで申し訳がないくらいだ」

「手習なんて…」

俺から見たら、物凄く優美で完成された美学があると思ったんだけど、当の本人にとってまだ上を目指せると思ったのであろう。

「俺は毎日似た様な伝統的な物に飽き飽きしていた。ナユタが購入してくれた俺が作った七曜計の様に、夢で見た物を模倣し、見てくれを変えてみたけど、俺も周りも何も変わらなかった。しかしどうだ?ナユタが今までにない技術を運んできたら皆が夢中になって研究をし始めた。ナユタがもたらした技術でドワーフの技はさらに躍進するだろう」

寡黙かと思っていたノーリさんの、モノヅクリに対する熱い思いに感化され、そっと代金分50万lbをお支払いした。俺も元は、モノヅクリに熱い思いを寄せる、日本企業の営業マンだった男だ。気持ちはわかる。だから代金とは別に金貨を10枚差し出した。

「…これは」

「いつかきっと、ノーリさんが納得いく仕事が完成されたらまた、品物を頼みたいと思いまして。その来るべく日の為の投資です。少ないですがどうか研究にご活用下さい」

「…ナユタ…ありがとう。必ずその想いに報いよう」

金は巡る。良いも悪いも巻き込んで、やがて俺の手元に最良のカタチで戻ってくるだろう。その時を楽しみに待とう。足長おじさんじゃないけどね。

ノーリさんとしばらく話した後、イズンさんにお呼ばれして、お願いしておいた、薬味おろしとか泡立て器やなんかの調理器具を受け取り、代金を支払い(生活雑貨扱いだったので全部で8万lb程だった)家具職人ドゥリンさんの工房への道をメモして貰った。
ドゥリンさんにはポケットコイル型のベッドマットもお願いしたんだ。家具と合わせて楽しみすぎる。


いざ、ドゥリンさんの工房へ!





コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する