• 異世界ファンタジー

幼児×浪漫

 翌朝_______________

 身支度を整えた俺たちは、宿屋の食堂に降り、朝食をお願いする。昨晩のうちに、従魔達の分の朝食は俺と同じ物を多めに、とお願いしておいた。
 小さいと言ってもティーモ兄様は、超大型犬並みの大きさだ。お祖父様に至っては馬くらいあるのでは?と言う大きさなのだ。

 この世界の人々は、獣人などをふくめ大きな身体をしているせいか、部屋の間取りも随分と広い。しかもこのお宿は古の時代から従魔と泊まれるのが売りだそうで、岩壁を改造して広めに間取りをとっているそうだ。こうして気が遠くなる様な間、従魔と共に数多の冒険者や商人がこのお宿で泊まったと思うと、また口では表現出来ぬほどの感慨深さがある。

 暖炉で温めた雑穀パンに、カリッカリにグリルしたソーセージやベーコン。とろけたチーズが乗ったトマトやキノコなどの野菜のグリル。野菜や豆、ベーコンの端切れのごった煮スープ。そこに俺が、記憶の森から採取してきた柑橘類を足して、なかなか豪勢な朝食となった。

 お祖父様とティーモ兄様は熱かったのか、霜を降らして冷まして食べてる。

 俺もハフハフと、とろけたチーズが乗ったグリル野菜と厚切りのベーコンをカリカリに温められたパンにサンドして頬張る。うん。良い塩梅の塩加減で美味しい。

 母様は、自前の銀のカトラリーを使い、もっふもふの大きな手で優雅に食べてる。高貴な方々は、ゲストの会話に直ぐ応えられる様に、一口に対して直ぐ飲み込める量しか食べない。日本でも大口を開かぬ様、箸先五分とは言うけれど、そんな上流の所作は庶民の俺にはなかなか間近でみる機会なんてないに等しかったから、つい目で追ってしまい母様と目が合う。目が合うと、どうしたの?と言う様に笑いかけられた。ちょっとこそばゆい。

 そんな風に俺たちは、なんともまったりした朝食を済ませて、いざ依代を受け取りに、ノーリさんがいるイズンさんの工房へと向かった。


 時刻は光の3の時。大体日本で言う9時ごろ。大通りのお店や工房が開く頃だ。

 この世界の時刻は、光の時と、闇の時で別れ、日の出の時間から光の1の時が始まる。季節で変わる様だが、そこから10から14まで光の時が刻まれ、日没の時刻になると闇の1の時から日の出まで10から14の闇の時が刻まれる。季節で変わるのは、地球で言う古代ローマの不定時法やヨーロッパのサマータイムみたいなものかな?と思った。大凡、体感24時間な気もするけれど、もしかしたら違うかもしれない。異世界だし1分が60秒とは限らないからね。

 時間関係で良かった事と言ったら、水星の様に1日が地球時間176日で、1年が地球時間88日という訳のわからない自転公転だったりしなかったことだ。生き物が生息するには、自転や公転、太陽との距離など、地球と似た様な環境が適しているのかもしれない。

 そんな事を考えていたら、イズンさんの工房に着いた。勿論、俺は母様の片腕に抱えられ、ダメ人間…いや、幼児期を謳歌している。

「こんにちはー!」

 耳栓代わりのイヤーマフを全員で装備して、ドアを開け腹から声を出す。ドアの隙間からでも聞こえる金属が叩かれる音と、よく通る掛け声、以前と同じ様に熱気溢るる活気ある工房だ。

「おお!小僧!よく来たな!ノーリは奥で最後の仕上げをしているぞ!頼まれた調理道具と絨毯、家具も大体出来上がってる!ウチの工房にある分ももっていけ!」

「イズンさん、こんにちは!もう頼んだ品物が仕上がってきてるのですね!後程お伺いします!」

 今日のイズンさんは、機嫌が良さそうだ。イズンさんの工房には調理器具やなんかをお願いしたんだ。
 見習いなのか、(たぶん)若い男性が、働く男達の脇をすり抜けノーリさんがいる奥の部屋へと案内してくれた。

「ありがとうございます!」

「ごゆっくりどうぞ!」

 奥の部屋に入ると、活気ある工房の喧騒は薄まり、シュッシュッと刃物を研いでいる音が聞こえた。

 集中している所に声をかけるのも悪いかと思い、静かに見守っていると、人が出入りする空気の揺らぎに気が付いたのか、ノーリさんが振り返って此方を見た。

「ああ、いらっしゃい。頼まれていたものだが、鏡と玉は出来てる。剣がもうちょっと良い感じに仕上げたくてね。時間を少しくれるか?」

「はい、構いませんよ」

「其方に鏡と玉がある。確認してみてくれ」

「はい」

 ノーリさんに言われた場所を覗くと、柔らかそうなビロードの上に乗った、まん丸なふせられた鏡と勾玉のネックレスが置いてあった。

 鏡は15センチ位の小さな鏡だが、裏は真ん中に太陽の半球、その周りに3つの月とツクヨミを表した半球、その間に異世界ナイズされたフェニックス、エンシェントドラゴン、ユニコーン、地龍の四霊が彫られている。周りは唐草紋様でも良かったけど、せっかくアンダーザローズという空間にいるのでイバラの紋様を入れてもらった。鏡面はピッカピカで、はっきりと俺の姿が映った。うーん。まだガリガリの、目ん玉ギョロギョロの痩せっぽっちだ。

『3年間、魔力でエネルギーを賄っていたから、食べ物で栄養を取る事がなかなかできない体になっているんでしょうね。気長に治していきましょう』

(うーん。頑張っても体がついてかないんじゃしょうがないな。気長にいきますか)

 気を取り直して、勾玉に手を伸ばす。
 勾玉は俺がつけれるくらいの小さなネックレスになっていて、ヘッドが勾玉になっている。石は古式ゆかしくジェイドにしてもらった。

 素材はフマラセッパに来る途中発掘した金属と鉱物だ。ツクヨミが言っていた通り、質は良くないがオリハルコンも発掘出来たので、後から精製して質を上げ、鏡と直剣はミスリルとオリハルコンの合金にしてもらった。

 ノーリさんに、オリハルコンだなんてどうしたのかと聞かれたから、フマラセッパに来る途中に発掘したよ?と答えたら驚かれたけどね。
 今研いでもらってる剣は、ミスリルの芯にオリハルコンを入れてもらった。覚えている限りの日本刀の造り方を伝え、焼き入れをしたら反ってしまうけどなるべく反らないよう真っ直ぐな片刃の直剣を注文した。

 ノーリさんの気が済むまで仕事を見守り、程なくして遂にノーリさん納得の仕上がりになった様だ。

 直剣は2振、俺の背丈に合わせてある小さな直剣だ。護身の剣と、破敵の剣に見立てて作ってもらった。美しい刀身に、紋様は、護身の剣にサザンクロス、破敵の剣にプラウを彫ってもらったよ。
 いやー。古代浪漫が甦りますなぁ。満願成就したかの様な満足感です。

 どの品物もあまりにも見事すぎて、もしリンランディアさんに出会わなかったら、この依代を作ってもらうご縁も、資金も無かっただろうと再認識した。
 有難いご縁に感謝しつつ、美しい刀身に魅入る俺だった。

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