講堂から出る時に、1人の男から声がかかった。
「もし、失礼しますが、そちらの狼型の従魔のマスターはどちらで?」
「私ですが?何か御用でしょうか?」
俺は訝しながら、母様に止まる様にお願いする。
「いえ。そちらの狼型の従魔よく躾けてらっしゃるので。しかも人の言葉を理解している風ですので、1匹お譲りいただけないかと思いまして。私、魔獣コレクターのヴェルミクルムと申します。今回たまたま、フマラセッパに用がありまして、オークションが開催されるので商業ギルドに訪れたら、運命の悪戯か、目の前の席に人の言葉に反応して、幼獣の耳を塞ぐ従魔がいるではありませんか。私目を疑いましたが…その後も言葉を理解している様子で、大人しくオークションを見てるのが見えましてね。私是が非でも欲しくなってしまいまして。是非是非その従魔お譲り頂きたい。お金に糸目はつけませんよ?どうです?」
すごい。息継ぎも無しに一気に捲し立てたぞ?魔獣コレクターって何だ?確かにオタクという種族は自分の好きな事となると、物凄い長文を生き生きしながら早口で語り出すが…お祖父様とティーモ兄様は鼻に皺を寄せ牙を剥き出しにして、サイレントウーで怒ってる。母様からもビリビリと怒りが飛んでくる。顔を見るのが怖い。
「申し訳ありませんが、この従魔は家族の様な…いえ、家族ですので譲るとかお金で売買などは考えられません。ご要望にお応えできず申し訳ありません」
「…そうですか…とても残念です。引き止めてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ。それでは失礼します」
そう俺は言い、話は終わったとばかりに母様に案内のギルド職員について行って欲しいとお願いした。
背中にねちっこい視線が絡みつく気配がして、気持ちが悪い。
『那由多…』
(ん?)
『あの魔獣コレクター…那由多の一族と同じ血の匂いが付いてます』
(え?俺の身体の親戚って事?)
『違います。皮膚に染み込んだ匂いというか。良くない気配がします。此奴*^.?#•*の加護がついた何かを持っていて私では探れません』
(…あとで母様とお祖父様に言ってみよう)
『それが良いでしょう。当事者たちも何か匂いを感じ取ってると思われます』
(うん)
突然、他人の従魔を欲しがるとかとんでも無いやつだし。用件が終わったら、しばらくお祖父様とティーモ兄様の2人はフマラセッパに連れてこない様にしよう。何かあったら嫌だからね。
何となくモヤモヤしながら、副ギルドマスターとのお話し合いに向かった。
ギルド職員に通されたのは、以前通された…セレブ?部屋だった。毛穴の奥底から、衣服の繊維一本一本まで洗浄するかの様に浄化をかけたよ。めちゃくちゃすっきりした。癖になりそう。
俺の家族の3人も、バッサバッサと尻尾をフリフリしてらっしゃる。いつもと違う浄化魔法が気持ちよかったんだね。
俺は依然、母様に抱えられながら(◯っこちゃん人形|再び)、副ギルドマスターの正面の高級椅子に座った。
「さて。御足労頂き有難う御座います。早速本題ですが、この度は貴重なローズコインの出品感謝いたします。今回開催された商業都市、オストハウプトシュタット国、商業ギルド本部のギルドマスターも、率先して張り切ってオークショニアとして取引に参加させて頂きまして、ご覧の通りの結果となりました」
お。副ギルドマスターが商談モードに入った。
さっきまで他のドワーフと同じく、ガサツな感じだったけど、商談モードになるとガラリと口調から雰囲気までも変わったよ。
ちなみにお名前は、カリブンクルスさんだ。オークションげ始まる前にご挨拶を頂いた。
あのオークショニアは商業ギルド本部のギルドマスターだったのか…成程、オークション会場での場のイニシアチブ掌握がすごかったしな。
『やれやれ。品物を鑑定しても、人物を鑑定する癖は一向につきませんね…』
(プライバシーって大切だと思うの。人権ですよ)
「あのオークショニアは商業ギルド本部のギルドマスターだったのですね」
「はい。一世一代の大仕事だって張り切ってましたよ」
「競売が一つのショーみたいで、思わず魅入ってしまいました」
「オークショニアとして、魅せらたと言われるのは褒め言葉ですので、本部のギルマスも喜ぶと思います。まぁ商品そっちのけでオークショニアが落札されても困りますけどね」
副ギルドマスターは含みを持ったジョークを言うとニッコリとして、補佐のギルド職員を呼び書類を取り出した。
「さて、今回の出品物の売上金の内訳です。税金や手数料の諸経費は、落札価格に上乗せして落札者側の負担となります」
「はい」
成程。落札価格はそのまま出品者に振り込まれるって事か。
「今回、第三者〈リンランディア〉と〈フマラセッパの商業ギルド〉を通しての出品となりましたので、以前の契約通り、〈リンランディア〉に20%、〈フマラセッパの商業ギルド〉に10%分の計30%を差引いて那由多様の口座に振り込ませて頂きます」
「はい」
「それでは内訳ですね」
銅貨 192万
大銅貨 1589万
銀貨 7800万
大銀貨 1億4000万
金貨 21億5000万
大金貨 58億2000万
合計 82億581万lb
「落札価格そのままのお値段です。こちらをご確認お願い致します」
「…はい確かに」
「?那由多様は変わった指の動きで計算するのですね」
「あ…あはは、子供の頃に特殊な計算機を使ってまして…癖で…あはははは!」
またもや秘技「笑ってその場逃れ」を発動してしまった。
昔の子供アルアルで、俺もそろばん塾へ通わされた1人だ。桁が多いとつい手癖で出てしまうのだ。
「特殊な計算機…とても気になりますね。そちらの方も後程、お伺いしても?」
「はいー…喜んでぇ…」
デスヨネー。声が上擦ってしまった。お伺いが尋問とかそう言うのに聞こえるのは何故だろうか…。
俺は粛々と尋問…いやお伺いを了承した。