小学四年生くらいの頃、母のおさがりのガラケーで小説を書いていた。千字という文字制限がある中で、メールボックスがパンパンになるまで何本も何本も書いていた。
内容は、
実家が八百屋の女子高生・木遥(私)の部屋に、突如異世界の扉-ゲート-が開く。扉-ゲート-から現れた魔道士のユアンに「一緒に幻の秘宝・エクスカリバーを探してほしい」と頼まれて――!?
という、当時大好きだったゲームのキャラクターの夢小説である。主人公は自分。キャラのあまりの可愛さに小四ながら目覚めるものがあって、誰に教わったわけでもないのに、気づいたら私は立派な夢女になっていたよね。一定以上のインパクトを受けると自然と小説を書くようになるし、早口になるし、作品の口調を真似しちゃったりするよねオタクって。
実家が八百屋っていうのも当時読んでいた週刊誌の作品の設定だし、異世界の扉が開くっていうのもめちゃくちゃハマった作品の影響。大好きな要素をひとつにまとめて自分の思い通りに動かすことが本当に楽しかった。学校から帰ったらすぐにガラケーを開いていた。夕飯を食べたらすぐに書いて、宿題を終わらせたらまた書いて、風呂から上がったら髪も乾かさずに書いていた。
そしたら、私がガラケーで何をしているのか、兄がとっても気になってしまったらしい。
「何してるの?」と聞かれただけで、大慌てで携帯を隠して「見んといてぇぇえ!!!!?」とキレ散らかすのだから、そりゃあ気になると思う。
絶対に見られたくなかったから、ガラケーを使わないときは隠すようにした。
それなのに、ある日、突然兄が「エクスカリバーを探して…」と小説の一節を語り始めた。私が隠しておいたガラケーを探し出して中身を見たらしい。しかも暗唱できちゃうくらい読み込まれている。
私は顔から火が出るほど恥ずかしくて、親にバラされたら…という恐怖が追い討ちをかけて、兄の「親に言われたくなかったら小説全部消せ、二度と書くな」という理不尽極まりない条件を渋々飲んだ。兄に言われた通りに、何十時間も没頭して書いた小説を全て消してしまったのだ。
あの時、なんで小説を消さなくちゃいけなかったんだろうなぁと思う。兄を妄信していたことも、言われるがままに簡単に自分の頭の中の世界を捨ててしまったことも、当時の私はとてもかわいそうだなぁ……とひとごとのように思う。すごくライトに疑問。
結局、中学生になって自分の携帯を買ってもらった私はまた小説を書いていた。大人になってもそれは続いて、カクヨムなんかにも出会って、ちょっと公開してみたりして、流れに流されて、今は映像を作ったりしている。映像を作ることは、今まで書いてきたことと繋がっている。
私の映像作品を見た兄は、面白いと言って私を褒めた。なんだろうな、この言葉にしづらい感情は。お前に止められていなかったら、もっと頭の中に引き出しができていたかもしれないのにな。
ちなみに両親も私の作品を楽しく視聴してくれている。親は私が何をしても薄めの反応で濃いめに応援してくれるので、夢小説を書いていた当時だってバレたところで特に何のお咎めも無かっただろうなぁ。そもそも咎められることではないし。当時は嫌だったよね、頭の中の世界を、誰にも伝えたいことなんて無い、自分一人が楽しむためだけの世界を明るみに出されることは。
今は、自分だけじゃなくて、人を楽しませたい気持ちで物作りをしている部分がある。言いたいことがある、聞いてほしいことがあるとそれそのものが原動力だよね、と思いました。乱筆失礼しました〜。