こんばんは~!
先日第一部が完結した一角乙女の薬示録(タイトル略)が☆70、700PVを突破しました!
https://kakuyomu.jp/works/16817330654312330567コメント付きレビューもいただけて、嬉しい限りです!
応援して下さった全ての方々に感謝申し上げます!
ありがとうございます!!
現在第二部を鋭意執筆中なのですが、賢いヒロインコンテストの文字数制限があと3.5万字のため、やむなく削った部分を第二部の前日譚という形でこちらに掲載します。
この前日譚を読まなくても問題はないのですが、第二部のイズユニをご堪能いただくためにぜひお時間のある時にご一読いただけると嬉しいです(*´ω`*)
なお、ルビ振りができないため()で表記しています。
それでは、第二部前日譚をお楽しみください!✨
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「その角、隠しなさい」
「へ?」
トルジカを出立して七日目の夜。
水浴びを済ませてさっぱりした顔の呑気なイズモを睨みつける。
私はお気に入りのタマモベーカリー夏季限定青白ストライプ紙袋の下で頬を膨らませた。
「立ち寄る全部の村で『黒竜様の御高名はかねがね!』っておもてなしをされてちゃ、シデ村に着くまで半年もかかっちゃうわよ!」
ここはシデ村へ向かう道中の小村。その最高級宿の一室。
……と言っても、屋根と壁がくっついていて雨漏りしていないだけの部屋。
それだけでも貧相な村では貴重な一室だった。
「だが、領民たちのせっかくの好意を無下にするのは……」
「好意だけじゃないでしょ! お人好しな黒竜の噂を聞いて、あれこれ面倒事を押しつけられてるじゃない!」
そう。
トルジカの村人の心をいたく打った黒竜の御高説は、行商人や吟遊詩人たちによってあっという間に拡散されてしまった。壮大な尾びれをつけて。
『心優しき黒竜様が、苦しむ領民を救うために極東行脚をしている』と。
「今日だって! ゴマ擦り村長にお願いされたワーウルフの討伐なんてしていなければ、とっくに次の村に着いてたのに!」
「ゴマ擦りって……たしかにあからさまだったが、困っていたのは事実じゃないか! 見過ごすなんてできない!」
「ああいうのはね、各村の狩猟組合の仕事なの! 黒竜がわざわざ出向くような国難じゃないの!」
「君だって『下痢が治まらない』ってぼやいてた村人のために、わざわざ整腸薬を作っていたじゃないか! 危ないって言ってるのに討伐にくっついてきて、戦闘中に薬材採取までして!」
「し、仕方ないでしょ、感染性の胃腸炎だったんだから! ほっといて子どもが罹患したらどうするの!?」
「まぁまぁユニファ、それにイズモ。過ぎたことはもうよいではないか」
「「よくない!」」
薄くて固いベッドの上で毛繕いをしていたオキサキに、イズモと二人で反論する。
すると。反対側のベッドに仲良く並んで転がっていたキンギンの飾り紐が、シーツの上に意味深なハート型を作り出した。
「すっかりおしどり夫婦ですねぇ、ギン」
「えぇ。まるで百年添い遂げたような息の合い様です、キン」
「あなたたちに言われたくないんだけど」
紙袋の下で、思い切り口をへの字に曲げる。
この二人、目玉まで毒で溶けたのかしら。
すっかり気力が抜けてしまって、私もオキサキのいるベッドの上に腰をかけた。
「はぁ。……ねぇイズモ。災害救助で大切なことって何だと思う?」
「助けるって気持ち」
真顔で何言ってるの、このピュアボーイ。眩しい。
「それも大切なんだけど! たとえば、目の前に膝を擦りむいて泣いてる男の子と、すぐ近くで瓦礫の下敷きになってるお母さん。あなたはどっちを助ける?」
「どっちも」
そうね。えぇ、そうでしょうねぇ。うん、わかってた。
いったい何を食べたらこんなに混じり気のない純朴青年に成長するんだろう。
「じゃあ、男の子を助けてる間にお母さんが手遅れになったらどうする? 一人だけ助かった男の子はその後どうやって生きていくの?」
「それは……」
「あなたの底なしの優しさはたしかに美徳だけど、救助の優先順位を間違うと救える命も救えないわ。シデ村の状況は一刻を争うんでしょう?」
縦線が入った柔和な竜眼が悲し気に足元を見る。
テンガン様の血を引く男が、なんて顔してるのよ。
うぅ、良心が痛む……。
「……そうだな、角は隠そう。君の言う通り、一日でも早くシデ村へ到着すべきだ」
「わかってくれてよかった」
「でも、俺が角を隠してもすぐ身バレすると思う」
「どうして?」
黒髪と竜角を隠せば、ただの旅人にしか見えない。黒竜のオーラや圧のようなものは、良くも悪くも一切感じられないんだから。
私の問いになぜか顔を赤らめたイズモは、キンギンが作ったハートの上に腰かけた。
「昼間に通りすがった吟遊詩人がどんな歌を奏でていたか知ってるか?」
「いいえ……?」
「竜が見初めしは紙袋の巫女、と……」
「はぁ!?」
思わず立ち上がってしまった私を、彼が恥ずかしそうに見上げる。
私たちを同じ部屋に案内した女将がやたらニヤニヤしてるなと思ったら、そういうこと!?
「変に誤解されるくらい、その紙袋が印象的なんだと思う。俺が角を隠しても、君と一緒に歩いていればすぐバレる」
「そ、そう……。トルジカでは誰も気にしなかったから……」
努めて落ち着いた声色で、恐る恐る紙袋を脱いだ。
前髪の隙間から覗く折れた角は、まだ生え代わっている途中。今もスークスから渡された塗り薬を欠かさず塗っている。
「でも、外で脱ぐのはちょっと……」
悪目立ちしていようとも、人前で角を見せて歩くのはまだ怖い。知らない場所だからなおのこと。
「わかってる、無理はしなくていい。言い寄られても俺がちゃんとあしらえればいいだけだ」
急に頼もしい顔になったイズモに、ぎこちなく頷いた。
なら最初からあしらってくれたらいいのに、まったく……。
それからお互い気恥ずかしくなって、部屋の明かりを消してそれぞれのベッドへ潜った。
とんちんかんな噂を聞いちゃったから妙に緊張する。
一緒に布団に潜ったスークスが小声で「お主の真っ赤な頬も、珍しくて良いのぉ」とか囁くから、寝る時も紙袋を被る羽目になってしまった。
* * *
竜角は先が細く欠けやすい。
最初に被っていた兜はモリオンの工房で造られた特注品だったが、市販品で代用しようと思うとなかなか難しかった。
店主に勧められたのは雲羊(メイシープ)の毛で織られたブラウンのターバン。伸縮性があって角への負荷も少ない。付け心地も上々。
飾り紐を肩にかけて連れ歩いていたキンギンからもお墨付きを貰えたことだし、これにしよう。
「品代は……」
カウンター脇の掲示板を眺める。そこには店主が必要としている品々のリストが載っていた。
テンガン領には通貨がなく、基本は物々交換だ。
父上が避難民を受け入れる際、金銀財宝は全て没収した。争いの元になると。
「あぁ、木材30片なら昨日の討伐時に集めたものがあるな」
「こ、黒竜様から品代など……」
「受け取ってくれなければ、俺は吟遊詩人に万引き竜と歌われてしまう」
何せ彼らは耳が早く、そしてとにかく歌を盛る。
畏まる店主に無理やり木材を引き渡し、ユニファとの待ち合わせ場所に向かった。
目印は、あの紙袋目出し帽。
あれを脱いで外を歩かれたら、彼女に見惚れた男たちで行列ができてしまう。
そんなことになるくらいなら、被っていてもらった方がマシだ。
……別に他意はないぞ。ライバルが増えるとか、思ってないからな。
それから数日も経たないうちに――
『竜は意中の姫と秘めやかな春を育み歩く。
金銀財宝が石に還る姫の美貌は、竜の新たな宝珠なり。
故に麗しの面(おもて)を隠す妙な仮面を目にしても、みだりに騒ぎ立てぬが竜の民の嗜み』
そんな風に輪をかけて過大解釈された歌が大流行して、頭を抱えたのだけれど。
そしてスムーズになった旅路が半分を超えた頃。
俺たちは極東地方最大の都市・アダンテに足を踏み入れた。
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ここまでお読みいただきありがとうございました!
第二部は極東の都会『アダンテ』から始まります。
シデ村への道中、二人が巻き込まれたとある事件とは……?
今週の水曜日か木曜日には公開したいと思いますので、ぜひよろしくお願い致します!✨