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賊。(フィクション)

 私は医療人であるが、同時に賊でもある。どういう意味かと申せばそれはあまりに脱法で、無責任で、不埒で、淫乱で、不健康なのである。
 私は仕事が終わると帰る家の他にも拠点が数か所ある。山奥に建てられたスタジオ。高架線のしたに佇むコンテナハウス。栗農園にどどんと建てられた小屋など。
 私がよく扱うのは高架線下のコンテナハウスだ。そこには一人で作業することもあれば、友人(これも賊である)と集まり、肉を焼き、煙草で肺を病ませ、酒を飲み、酩酊したところに更にハッパをかける。
 混沌と幻惑により滅茶苦茶にされた私の脳味噌はもう機能停止にまで追い込まれ、そこで誰にも覚られず、静かに眠る。そのまま死んでしまうのかとされ思う。
 私はジャンキーである。そのくせ普段は病院で人々を救う。そんな奴に救われたくないと思うだろうが、それは視野の狭せを露呈させているだけなのである。多くの経験を積まずに大人になった者の末路を知っている。それは非常に悲しいものである。性の良さを知らず、女を知らず、世界の広さを知らず、窮地での冷静さをただ欠き、自身を追い込むことだけに長けた人間。
 それが悪いとも良いとも言わぬ。それを言うと、今の世はここぞとばかりに火矢を放つ。赤壁よろしく、だ。
 私は私の生活に誇りを持っている。それを他人にトヤカク言われる筋合いもないのである。
 そんな私は賊である。年を重ね、幾分か落ち着きは得たが、それでも根底にはギラつき、尖った心根が脈々と根深く潜んでいる。

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