皆様こんにちは。
今日は2月の14日、バレンタインデーですね。
自作品に素敵なカップルがいらっしゃる方は、きっと限定SSなど投稿されて盛り上がっていらっしゃるのではないでしょうか?(私も後程巡回させていただきますね)
実は私も、イベントに乗っかって『ノーリグレットチョイス』の二人でバレンタインSSを書きましたのでここに載せておきます。
……え、いや、現代軸のお話ってこれくらいなので。
ちなみに甘さの欠片もございません。
藍銅鉱の二人がわちゃわちゃしているだけです。
今回は近況ノートに書きましたが、またこういう小ネタが増えたときには作品集にしてまとめさせていただこうと思っております。
本編のネタバレを含みますので未読の方はご注意を。
ちなみに本編はこちら↓
https://kakuyomu.jp/works/16817139558809109616それでは、お楽しみいただければ幸いです。
皆様よい1日を!
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「はい、タイクウ、これどうぞ」
ある日、いつものように、カフェ&バー『桜』で寛いでいたタイクウとヒダカ。店主であり、姉のような存在である淡海桜(おうみさくら)が笑顔で差し出したのは、喫茶店のメニューがすっぽり入りそうな大きさの箱だった。薄桃色の包装紙にストライプ柄のリボンがかかり、一目見てプレゼントだと分かる。
「僕だけ? え、これ、何?」
隣のヒダカを気にしつつも、タイクウはそれを受け取る。一瞬、自分の誕生日のことを考えるが、今は冬。自分が生まれた季節とは真逆だ。
首をかしげるタイクウと、訝しげに眉を寄せるヒダカに、桜はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「バレンタインよ。バレンタインのチョコレート。この前、材料を仕入れてきてもらったでしょう?」
「そうだったね。そっか、今日がバレンタインデーなのかぁ」
例によってここ、天空都市ではチョコレートなどが手に入りにくいためピンと来なかったのである。ここではすっかり成りを潜めてしまったイベントだが、桜が常連さんだけでも楽しんでもらえればと、張り切っていたことを思い出す。
「じゃあ、これチョコレートなんだ!? 僕がたくさん食べたいって言ったから、こんなに?」
「タイクウ、甘いもの好きだもんね。トリュフとか生チョコとかたくさん入ってるから、しっかり堪能してね」
「わ、すごい! ありがとう、桜さん!」
ヒダカはそんなタイクウの様子を、戸惑ったような眼差しで見つめている。自分が貰えないことが不満なのだろうか。そんな彼にも、桜は笑顔で声をかける。
「ヒダカは甘いもの駄目でしょ? だから、夜にいらっしゃい。ビターなチョコレートリキュールでも作ってあげるから」
「あー、そこまでチョコにこだわんなくても良いんじゃねぇ?」
「何言ってんの、ヒダカ。イベントだよ、イベント!」
ノリの悪い相棒の肩を叩き、タイクウは手の中のチョコレートを見て嬉しそうに微笑んだ。
桜の店から藍銅鉱(アズライト)の事務所へと戻り、タイクウは目に見えて浮かれていた。椅子に背中を預け、机に置いたチョコの箱をニコニコと見つめている。
成型された生チョコやトリュフチョコが、箱の中で綺麗に鎮座していた。その数、数十個。卓上に並んだウササギくんフィギュアも、どこか嬉しそうに見えてくるから不思議だ。
「チョコレートなんて久しぶりだよね。えーっと、どれから食べようかなー?」
「あー、なぁ、タイクウ」
どうもヒダカの様子がおかしい。気まずそうに目を泳がせ、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回している。どことなく覇気のない表情だ。
「あー……その。テメェ、チョコ食えんのか?」
「えー、どうしたのヒダカ? ヒダカと違って、僕は甘いもの大好きだし食べられるに決まってるじゃない!」
「いや、だから」
そこで痺れを切らしたようで、ヒダカが吠えるように言った。
「今のテメェの食いモンが何だって話だよ!」
タイクウはそこでやっと気がついた。
自分の今の体質に。
「……………………あ」
今までチョコレートを食べる機会がなかったので、気がつかなかったのだ。
「と、溶かしてチョコソースにしてみる、とか……?」
「あ? 何にかけんだよ」
「き、機械?」
「…………あ?」
スクラップのチョコソースがけ。
ヒダカが顔をひきつらせた。
「……正気か?」
「ごめん、忘れて! 流石にないよね! あああああー! こんなことなら、調子に乗ってたくさん頂戴なんて言うんじゃなかった⁉︎ どうしよう、このチョコレート」
嘆きの声を上げて、タイクウは机の上に突っ伏した。とりあえず食べてみるという手もあるが、今までの傾向からしてこう言ったものは吐いてしまう可能性の方が高い。それは桜にもチョコレートにも申し訳ない。
「いっそ、観賞用ってことにしとく? それか別の誰かに」
「ああ⁉︎ 何言ってんだ、食いモンだぞ⁉︎ 無駄にしてたまるか! そんなんするくらいなら、意地でも俺が食う!」
「そういうところ、やっぱりヒダカは育ちが良いんだなぁって僕思うよ」
「あ? 育ちは関係ねぇ。材料を調達したのはこっちだぞ」
怒りの声を上げるヒダカを、タイクウは微笑ましい気持ちで見守る。
「でも、結構甘めのチョコだし、ヒダカ食べられないんじゃない?」
「そこは、アレだ。料理に混ぜちまえば良いんだよ」
相棒の言葉に、タイクウはポンと両手を打つ。
「ああ、なるほど! そう言えば、カレーの隠し味にチョコを入れるって聞いたことある」
「カレーなら、元の味が強えからイケんだろ!」
「そうと決まれば早速!」
二人は夕飯のメニューをカレーにすることに決め、いそいそと作り始めた、のだが。
「はい! できたよヒダカ、試食してみて!」
「アホか⁉︎ 適当に鍋にぶち込んでんじゃねぇ! それじゃあ溶けきれねぇだろうが⁉︎ ちょっとでも欠片が残っててみろ、口に入った瞬間俺が死ぬ!」
「えー大袈裟だなぁ。胃の中に収まっちゃえばおんなじなのに」
「テメェのその意外な大雑把が、後々テメェの後悔の原因になるってことをいい加減学習しろ」
刻むか溶かしてから入れろ、との相棒からのアドバイスに、タイクウは渋々頷く。
それからも試行錯誤は続いた。チョコレートの量が多く、辛党であるヒダカの好みに近づけるのが困難なのである。
味見をしてはルーを足し、また味見をして。
そしてようやく、その瞬間は訪れた。
「……イケる!」
「本当に? やったぁ! ついにできたー!」
万歳、と両腕を勢いよく振り上げるタイクウ。ニヤリと犬歯を見せつけるように笑うヒダカ。藍銅鉱の事務所はどこもかしこもカレーの香りが溢れていて、正直立っているだけでお腹がいっぱいになってくるのだが。
それでも二人の心は、心地よい達成感で満たされていた。
それを目にするまでは。
「――ねぇヒダカ」
「――ああ?」
「昔いた学生寮のさ、学食みたいな量のカレーができちゃったんだけど。これ、ヒダカ一人で食べられる?」
「は?」
ヒダカ好みの味にするため、調整に調整を重ねた結果が、ご覧の通りである。
「何かの役に立つかもって、こんな大きい鍋貰ってくるんじゃなかったね」
「いや、そこじゃねぇだろ、後悔するポイントは」
「やっぱり僕手伝おうか? こう、カレーがけスクラップとかにして」
「は?」
「え?」
想像したのか、額を押さえヒダカは力なく項垂れて言った。
「俺が全部、食う……」
「頑張れ!」
その瞬間、ヒダカの一週間分の献立が決定した。
了