「やぁ、久しぶりじゃないかね?元気していたようで何よりだねぇ!」
「お久しぶりです。ここしばらく、白瀬さんが主役でしたから、茶番でネタばれするわけにもいかなかったんで、申し訳ないです。」
ここは白瀬が普段生活している、砕氷艦『しらせ』の一室。
そこでは、白瀬と月夜野が向き合って座っている。
「主役だったから気にしていないよ、月夜野君。それより、なんか色々とやってるみたいじゃないかねぇ?『防人達の邂逅』も進んでいるし、『海の防人達』は今度は“彼女達”が主役だって聞いたんだよねぇ。」
コーヒーを一口飲むと、ため息をついて口を開く月夜野。
「えぇ、“彼女達”『も』主役です。」
「あれぇ?その言い方だと複数なのかい、月夜野君?」
驚きで目を大きく開いて、直ぐにスッと目を細める白瀬。
「それ以上は・・・」
「『いけない、白瀬さん?』だろう?月夜野君。」
ニヤリと笑う白瀬に最後の部分を奪われ、少しムッとした表情で口を尖らせる月夜野。
「セリフ取らないで下さいよ!どう思います、白瀬1尉?」
『よくないですよ?白瀬さん。あっ、そう言えば、月夜野さんとは初めてでした!よろしくお願いします!』
「こちらこそです、白瀬1尉。」
二人の脳内に直接響く、もう1人の白瀬(以下、白瀬1尉)の声。
「で?ここまで長々とはぐらかしているけど、僕と何が話したいのかねぇ?」
机に置いたコーヒーをスプーンで一周かき回すと、その流れを見つめる白瀬。
『何か言いにくいこと・・・なのでしょうか?』
「“実験作品”なんですけどね。ちょっと、『海の~』・『防人達の~』に影響しかかっているんですよ。例えば・・・」
影響の内容について説明を始める月夜野。白瀬は顎に手をやりながら聞いている。
「不味いねぇ・・・」と、深刻そうな声の白瀬。
『不味いですねぇ・・・』と、不安そうな白瀬1尉。
「不味いでしょ?」と、同意を求めるような声音の月夜野。
『そんな【海の~】って、私は見たくないですし、月夜野さんの立てた、最初の主軸から外れてしまってます。2作が落ち着くまで、考えない方が良いんじゃないでしょうか?』
「だが、白瀬1尉。月夜野君もあれらばっかりでは、考えが凝り固まってしまわないかねぇ?僕はそっちも心配なんだけどねぇ。」
二人の会話を聞きながら、バランスの取り方がいかに難しいかを実感していく月夜野。
「今の作風を、気に入って読んでくれている読者様もいます。ですから・・・、難しいんです。」
『月夜野さん・・・』
パンッ!
全員が数瞬沈黙すると、それを打ち破るように柏手をうつ白瀬。
「二人共、少し暗いねぇ。ここは一つ僕のエンペラーペンギンについての・・・」
『ダメです、白瀬さん!月夜野さん、アデリーさんの方が聞きたいですよね?ですよね?』
「それだったら、プラスチックについて話をしましょうよ!掃海艦とも関係ありますし!」
3人が3人とも話題を変えようとしたのだが、お互いに譲れない部分があり、段々と白熱していく。
「エンペラーの話が一番いいねぇ!」
『いいえ!アデリーさんが一番です!』
「いえいえ、白瀬さん、白瀬1尉、FRPとかの材料系は重要ですよ!?」
ナレーションの私は、ゆっくりかつコッソリと部屋を出るのだった。
あ・・・ヤバッ!
「あっ!ナレ君逃げたねぇ!?」
『月夜野さん!白瀬さん!追いかけましょう!』
「ナレーション!人の話も聞かずに逃げるなんて!待てぇ!」