《God Bless You -北海道中央医科大学法医学講座 解剖記録-》
https://kakuyomu.jp/works/16817330649600139997※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
※毎日19時更新(予定)
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本日の近況ノートは2話のネタバレが含まれます。
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《本文より》
骨上げを終えた葉桐が、二人分の骨壺を抱えて外に出てきた。顔をあげると、彼の目元が赤く腫れあがっていることに気づいた。そういえば、氷見は二人が亡くなってから一度も涙を流していない。自分はなんて薄情な男なのだろうと氷見は自嘲する。葉桐はそれらを氷見に渡そうとしたとき、彼は不気味に口角をあげながらこう言った。
「いらないです。そんなもの」
そんなもの、いらない。生きていた頃の二人を返してほしい。しかしそれは、神に祈ったところで叶うことのない願いだ。
《本文ここまで》
氷見先生が家族の遺骨をいらないと言ったエピソードは、私が体験したものでもあります。それを言ったのは祖母です。祖母は祖父の遺骨をいらないと言いました。
祖父はいわゆる「ピンピンコロリ」で亡くなりました。前日まで家庭菜園の片付けをし、車を洗車しガソリンスタンドの店員さんに
「顔色悪いよ?」
と心配して、夕食時に
「血圧が高い気がするから血圧計買おうかな」
と話をして眠り、そして朝起きてきませんでした。検案を担当した医師によると脳内出血とのことで、確かに、右耳介斜め上あたりに赤紫色調の変色がありました。
死の一報を受けて、父が運転する車で祖父母が暮らす地方に向かいました。高速使って約3時間です。北海道はでっかいどう。祖父母の家に着いた時、祖母が「60年しか一緒にいられなかった」とさめざめと泣いていました。
そして、まあ色々あったけれど(勝手に戒名つけられた 等)火葬へ。あんなに元気な祖父だったので、骨もとても元気でした。大腿骨がきちんと残ってました。親戚たちは「立派な骨だね」と褒め、火葬場の職員さんにも「この人どこも悪いところないよ」と驚いていました。無事に収骨をして、さてそれを持って帰ろうと母が祖母に骨壷を渡そうとした時に言ったのです。
「いらない」
骨壷はそのまま隣にいた私が持つことになりました。
周りの人たちは「ピンピンコロリが一番」と言ったけれど、やっぱり祖母にとっては最悪の別れだったのだと思います。私のその後、メンタル病んだ時期があったのですが、「眠った人がそのまま死んでしまう」という悪夢を何度も見ました。残された人が負うダメージは、やはりその時にならないとどれほどのものがわかりませんね。