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📕「飯屋のせがれ、魔術師になる。――知力ひとつで成り上がってやる。」
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📖第535話 近くにいるのに何もできない……。

「ガフウーッ!」
「いかんっ!」

 それは父娘の絆が為せる業だろうか。巨熊が走る先にはネオンがいる。クラウスの心にその光景が稲妻のように走った。

 体を縛る縄を山刀で一瞬に断ち切ると、クラウスは枝の上を走り、地上へ飛び降りた。

 「|闇夜鴉《やみよがらす》――!」
 
 クラウスには獣にも負けぬ暗視力があった。幼いころからの山暮らしで身につけたギフトである。

 片目を失い、毒に体を冒された巨熊を、暗視力を発揮したクラウスの速度が上回った。飛び出した空中で毒液を入れた小瓶を取り出し、山刀の刃に叩きつける。

「いやああああーっ!」

 裂ぱくの気合と共に、クラウスは人食い熊の背に襲い掛かった。
 走り出した熊の背に4メートルの高みから飛び乗ったのだ。衝撃で投げ出されそうになったが、熊の肩口に打ち込んだ山刀にクラウスはしがみついた。

 上空から降りかかった衝撃と、新たな激痛に巨熊は驚き、我を忘れた。

「ガ、ガウッ、グワッ!」

 首を振り、体をよじってクラウスを振り落とそうとした。クラウスはひたすら熊の背にしがみつく。
 業を煮やした熊は自ら地面に体を投げ出してクラウスを叩きつけようとした。

「くっ! させるか!」

 横倒しになりかかったクラウスは、山刀を熊の肉から引きはがしつつ、両足で熊の背を蹴った。地面すれすれを横っ飛びに熊から離れていく。

 地響きを立てて転がった後、手足をばたつかせて熊が立ち上がると同時に、クラウスも離れた地点で立ち上がった。右手の山刀を前に出して構える。

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