林くんの短いお話です。本編も宜しくね。
『制服デート』
https://kakuyomu.jp/works/16818093089757579868 【新入生、回遊】
歩いて行ける公立高校。
僕が決めていたのは、それだけ。
「林、いいのか?」
「何がですか?」
「千葉高校、チャレンジしないのか?」
「そこ、交通費かかるんで」
「あなた、バイトするって言ってなかった?」
三者面談の風景。担任と母親に言われた。別に、近所の県立高校でもいいじゃないか。バイトは学費の足しにとか、別にそんな崇高な目的じゃない。その後進学か就職かも、まだ考えていないのに。別に……いいでしょう。
四月。
僕は希望通り、第一志望の高校へ入学した。物凄く嬉しい。友だちにもそう言ったのに、そこまで嬉しそうに見えない。そう言われた。本当に嬉しいのに。
高校生。
何が出来る? アルバイトが出来るんだ。労働基準法では、原則として中学卒業後の四月一日以降、満十五歳になった後にアルバイトが可能。僕が入学して真っ先に取り掛かったことは、両親と先生の同意。バイト先は以前から目をつけていた、近所のスーパーマーケット、惣菜コーナー。ここは、いちばん近くて、学生バイトっぽい人も見たことあるんだ。高校生もOKらしい。
勤労勤労。ふふふふふ。
惣菜コーナー、バックヤード。午後四時。
「林くん」
「はい」
「調理、やってみようか」
待ってました!
「はい!」
品出しやパッキング、値付けのサーマルシール貼付け、言われるがままの雑用。それらをこなしながら、横目で見ていた調理業務。ついに、き た わ ね !!!!
「じゃあ、私のやるの、見ててね」
「はい!!」
牛挽き肉と玉葱みじん切りをラードで炒めて、調味して、ポテトサラダに使う業務用のマッシュと混ぜて、衣をつけて揚げる。この工程…………言うは簡単。目まぐるしく指示通りに動いて、作り上げるコロッケ…………一個百円(税別)で売っていい代物じゃないだろう、コロッケよ!
「揚げ物をする時はね、油に入れるの怖いでしょ? こうやって鍋肌近くから、そうっと入れれば大丈夫だから」
「なるほどです!」
「じゃ、五時までに揚げてパッキングと値付けに陳列、頑張ろうか!」
「はい!」
うそだろ? ほんとに五時までに終わるのか?? 僕の笑顔は、凍りついていたかもしれない。
「蓮、何これ?」
「あ、母さん……今日の夕飯、おかずにして」
爆発したコロッケ(揚げてて衣に穴あいた)、焦げ焦げコロッケ(売り物にするにはコンガリ揚げ過ぎた)…………僕が旨く作れなかったコロッケ。買いますって言ったけど、値段がつけられないものだからって言われて、貰った…………悔しい。調理って、なんて難しいんだ。いや、手ごわい。絶対旨くなってやる。
林家、夕飯。
「蓮が作ったんですって!」
「……はぁ。残してもいいよ。僕が全部食べるから」
見映え、悪いよ。こんなんじゃダメだ。
「美味いぞ、蓮」
母さんも父さんも甘過ぎる。今に見てろ。
新入生歓迎会。体育館で行われたイベント。部活紹介もあった。
そうだ、部活を決めないと。
「七沢さんは天文物理学部?」
なんとなく教室で席の近い者同士で、部活巡りをしている。七沢さんたちと文化系の部活を見て回ってる。
「そうだね。林くんは?」
「僕は……あぁ、あった。ここ寄っていい?」
書道部。
「へぇ〜〜、林くん書道興味あるの?」
「もしかして習ってたりとか?」
渋いとか言われると思った。
「父さんがね、書道習いに行ってて、僕もやりたいなって」
父さんは、外資系企業のサラリーマンで、海外出張も多い。英語を筆記体で綺麗に手書き出来るのに(父さんの年代では、授業で筆記体を習ったそう……でも)、日本語の字は下手くそなんだ。(謙遜レベルじゃなくて)それで大人なのに、書道の習い事をしている。僕は小学生の頃、休みの日にいそいそ出掛ける父さんが気になって、お供でついて行くようになったんだ。
「ようこそ、新入生! ちょっと一枚、試しに書いていかない?」
「いきます」
僕は空き教室を部室にしている書道部の、床置きされた畳を見た。試し書きは、机に習字セットが用意されている。
「あの、畳の方で書いてもいいですか?」
「お! いいよ。そっちの方が落ち着く?」
「そうですね」
僕が父さんのお供で行っている先生宅では、畳に文机だけど、時々床置きで書いている。僕も椅子より、正座の方がしっくりくる。本当は、墨をすっている時に集中するんだけど…………借り物の筆を、硯で墨付けして、整えて…………
中華そば
ふむ。まぁまぁ。飛び込みの一枚目にしては、こんなもの。
「ちょ! 林くん……」
「中華そばって」
別にウケ狙いとかではない。心中をしたためる。『ラーメン』をグッとこらえて、『中華そば』にしただけのこと。
「先輩、入部届けを一枚いただけますか?」
「決めちゃうの?」
「凛もだけど、早ーーい」
ふふ。書は…………いいぞ!
【終】
なーんか短いのちょこちょこ書いてくの、楽しいかも。絶対近況ノートでやるやつじゃない気もしてきてるんだけど💦 ま、いっか〜〜🍜