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SS バレンタイン:カロルス様

執務室へ飛び込むと、カロルス様はいつも通りやる気の欠片も見られない態度で書類をめくっていた。
「カロルス様! 今日は何の日でしょう?!」
その首へ飛びついて満面の笑みを浮かべると、気怠そうな顔にもぱっと大きな笑みが浮かぶ。
「んー? またお前の国のイベントか? お前の国は常に何かしらイベントがあるんだな」
大きな手がオレの身体を支え、ぐりぐりと顎でオレをくすぐった。きゃあっと悲鳴をあげて足をばたつかせると、書類がひらりと遠くへ舞い落ちていく。
「分かった、今日は働き者を手伝う日だ! いや、感謝する日だったか?」
ちら、と書類に視線をやってブルーの瞳がオレを見つめる。手伝ってほしいんだね、書類仕事。それは勤労感謝の日かな?
だけど、ハズレ!
「チッ……じゃあ、俺を甘やかす日だ!」
それは父の日。それもハズレ!

「あー、他は何の日だったか……」
うーんと唸りながら、ひょいとオレを持ち上げて腹に顔を埋めた。すうっと深い呼吸がくすぐったい。
オレもチャトや蘇芳にやるけど、これって人にやっちゃあいけないんじゃないかな。
「お、いつもより甘い匂いがするな。分かった、菓子の日だ!」
「うーん? 正解、かなあ??」
オレ、お世話になった人に感謝する日って伝えていたはずなんだけど。どうやらお菓子をメインで覚えているらしい。まあ、日本のバレンタインだってそんなものだ。
「お、なら正解のご褒美があるんだな?」
にんまりしたカロルス様が、オレを机に座らせた。
「そう! 特別なご褒美だよ!」

オレもにんまりして、すぐ側までカロルス様をたぐり寄せる。
「じゃあ、お目々を閉じて!」
目の前のブルーの瞳が、素直に閉じられた。整ったお顔の造形は、本当に彫刻みたい。ごそごそとお菓子を取り出すと、ぴくりとカロルス様が反応した。
「まだ! まだ開けちゃだめ! ほら、良い香りがするでしょう?」
改良を重ねたガトーショコラ改め生チョコは、カロルス様用にアルコールをきかせて香り高い。
「おう、すげえいい香りだな? けど、何か分からん」
「だって、食べたことないもの」
くすくす笑いながら、生チョコをひとつフォークに刺した。

「お口を――あ、お目々は閉じたままで、お口開けて!」
だってカロルス様、結構見た目で好き嫌いするもの。真っ黒だからマズイって先入観を持たれちゃ嫌だ。
「大丈夫だろうな? 食える虫とかじゃないだろうな?」
やや不安げな声に吹き出した。よっぽど海蜘蛛あたりが引っかかってるんだろう。でも、結局カロルス様は食べられるなら大丈夫な気がするけど。
「虫じゃないよ! ちゃんとお菓子だよ。オレの国では、好きな人にあげるお菓子だよ」
「……おう。そうか」
ちょっぴり照れくさそうな顔に心がほっこりする。
そして、ちゃんと開けてくれたお口が嬉しい。
無防備なお口へ、慎重に生チョコを運び入れ、そっとフォークを引いた。

「もう目を開けていいよ!」
ぱっと弾けるように開いたブルーの瞳が、驚きをもって煌めいている。
「どう? 美味しいでしょう?」
にっこりした途端、身体が高々と掲げられた。
「おお、なんだこりゃあ……美味いな! 甘くてほろ苦くて、とろけて消えていく菓子か!」
良かった、ちゃんと気に入ってくれたみたい。
「まだあるよ?」
言外に下ろしてくれと言うと、すぐさま椅子に座り直してオレを抱えた。
再び生チョコを差し出そうと見上げ、きゅっと目を閉じたカロルス様に思わず笑った。
「もう閉じなくていいよ! 見て、こんなお菓子なの」
「そうなのか? へえ、見た目も変わってんだな」
しげしげと眺めてぱくりと食いついた。そして、催促するようにすぐに口を開ける。

もう自分で食べてもいいんだけど、まあいいか。
口を開けてくれるのが、なんだか嬉しいから。
半分ほど食べたところで、ふいにカロルス様が生チョコをつまみ上げた。
「あ、手で持つとすぐ――」
溶けちゃうから、と言いたかった口に、むぐっとそれが詰め込まれた。
思いがけず広がった甘みに目を丸くしていると、カロルス様が指を舐めてにやりと笑った。
「……甘いな」
甘く、ほろ苦く、とろけて、洋酒の香りにくらりとする。
こくりと頷くと、カロルス様はオレの口周りを指で拭って、またぺろりとやって笑ったのだった。




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皆さま!!片岡とんち先生が、Twitterでもふしらのバレンタインイラストを投降して下さったんですよ!!嬉しすぎる……幸せなバレンタインになりました!!!皆さまもぜひご覧になって、お礼を込めてリツイートかイイネを押しましょう~!!

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