東京グレイハッカーズ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885566269 本作、東京グレイハッカーズ(以下TGHと略)はカクヨムのサイバーセキュリティ小説コンテストの告知を目にして書いた作品で、2020年台の東京を舞台にしたクライムファイター・サスペンス・アクション『ブギーマン:ザ・フェイスレス』(
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880206914 、以下BTFと略)の前日譚にあたります。
書くにあたって、基本方針として考えたことは以下の3点でした。
1.受賞作はスニーカー文庫から刊行とあるため、主人公は10代の少年少女にする
2.10代の少年少女の手の届く範囲からストーリー・アイデアを逸脱させない
3.10代の少年少女に「俺(わたし)にもできるかもしれない」と思わせる
ます1.として、BTFである程度出来上がっているキャラを主人公に流用することにしました。電子工作とサイバー軽犯罪に長けた、クラスの顔面ソート順は下から数えたほうが早い女の子、羽原紅子です。彼女は人間の内面に下世話な興味ばかり持っている、歪んだ(メチャメチャ性格が悪い)人物でした。
そして紅子の相棒として、内面にはあまり興味がないが顔面には人並みならぬ興味を持つ(そこそこ性格が悪い)男の子、内藤翼を配しました。
彼らは、内面と外面という二正面作戦で、人間の裏の顔を暴いていきます。
次に2.として、10代の少年少女とサイバーセキュリティの最も身近な接点である、SNSを物語の主戦場に据えました。また、作中に登場するセキュリティホールは、複アカだらけのSNSや、そのへんにいくらでもある監視カメラ、どこにでも飛んでいるWi-Fi、数えきれないほど走っている車など、普通の高校生の生活圏内にあるものをできる限りピックアップしました。
ここでいう生活圏内とは、距離ではなく、意識の問題です。普段意識しているものに潜む意識しないセキュリティホールが、見方を変えれば、日常から浮遊した大冒険へと繋がるラビットホールになるのです。
そして3.として、身近な穴を破る手段を、ある程度本当のことが含まれる嘘によって描きました。この嘘を、TGHの世界においては真実にするために、サイバー犯罪のサプライチェーンがダークウェブに整備され、犯罪手段へのアクセスが現代よりも容易になっている、至近未来の世界を設定しました。
また、紅子と翼の持つスキルは、広義のメイカーズ・ムーブメントといいますか……要するに「ネットのなんかすごい技能を持っててSFみたいなことができるおまえら」という概念の引用です。たとえばニコニコ技術部の動画を好んで観る人の多くは、動画投稿者と自分の間に仲間意識のようなものを持っていると思います。このすごいことができる「おまえら」は、「俺(わたし)」と同じ場所に立っているんだという気持ちです。
紅子や翼が妙なロボットを作り、裏アカを特定し、美少女の私生活を追跡するのは、別世界の人だけが持っているスキルの産物では決してない。読者と同じ穴のムジナによる犯行なのだという描き方をしたかったのです。
一方、その弊害として、本職のIT・セキュリティ技術者の方が読まれると、物足りなさを感じたり嘘の部分が気になることがあると思います。この点は、解消できない反省点として残ってしまいました。
ただ、SNSをやっている人なら誰でも、一度くらいは身近な人間が密かに運用しているアカウントをうっかり見つけてしまったことがあると思います。
その時に感じたでしょう、後ろ暗く性格の悪い、灰色の高揚感を、ふと思い出してしまうような作品であれば幸いです。
以上