☆次にくるライトノベル大賞2023☆に
『婚約破棄され捨てられるらしいので、軍人令嬢はじめます』がノミネートされました。
皆様の応援のおかげで初紙書籍である軍人令嬢がノミネートされて、凄く嬉しいです。
12月6日まで投票が行われているので、もしよろしければ投票をお待ちしております!
そして、ノミネートの感謝とお礼をこめて短いですが日常小話を。
いくつ投稿するかは分かりませんが、よろしければ暇なときにでも覘いてみてください。
☆物理的指導が必要なとき
王都から遠く離れた辺境の領地を治める領主の大邸宅。
外観は上流階級が暮らす屋敷にしては華美ではなく素朴で古い屋敷だが、そのぶん歴史が詰まっている。
中へ入れば重圧感のあるしつらえや彫が美しい調度品の数々に目を奪われ、日差しが入るようにとゲストルームに取り付けられた大きな窓の先にある美しい庭園に感嘆の息を漏らす。
「たいれつをくずさず、ぜんしん!」
その宮殿の庭園と遜色ないロティシュ家の邸宅にある庭園では、まだ幼い少女がスプーンを空に掲げ大きな声を上げた。
「わがぐんのにんむはてきのぼくめしゅ、めちっ……ぼくめちゅである!」
途中言葉をつっかえはしたが、キラキラと瞳を輝かせ頬を紅潮させたセレスティーアがどうだと胸を張り祖母と母を見上げる。
凄く、とても凄く愛らしいのだが、孫の為に庭園で小さなお茶会を開いた祖母と愛らしい娘を着飾らせ微笑んでいた母は、その場に縫い付けられたかのように動きも呼吸も止まってしまった。
「……とても、上手だったわ」
立ち直すのに数秒ほどを要したが、かつて社交界の女帝、華と称された祖母は、そっと紅茶を口にしたあとセレスティーアを褒め、孫の隣に居る夫を冷たく見据えながら尚も言葉を続ける。
「それは、誰から教わったものかしら?」
「おじいしゃまです」
「そうよね……。私とリュミエが色々と考えながら淑女教育を行っているというのに、そんなことをお構いなしに教える人なんて、一人しかいないものね」
年齢を重ねても衰えることのない美貌を持つ祖母は、セレスティーアの頭を撫でながら淡々と口にする。声だけ聞けばとても優しいものだが、無価値なものを見るような目は夫に固定されたまま。
「つい先日も、セレスには剣の素質があると、そう喜びながら木剣を渡していましたわよね?」
「……いや、それは」
「先月は、ルジェと二人で軍人ごっこという妙な遊びをセレスに教えていましたわよね?」
「……あれは」
「あなた、少しだけ部屋でお話をいたしましょうか?」
「……分かった」
眉を下げガックリと肩を落とした祖父は、「お茶会を続けてちょうだい」と微笑んだ祖母に首根っこを掴まれ屋敷へ戻って行く。
その姿を見送ったセレスティーアはコクリとひとつ頷き、苦笑している母へと両手を伸ばした。
「おかあしゃま」
「お義母様が戻られるまで二人でお茶会をしましょうね」
「はい」
「それと、先程のような言葉は口にしてはいけないわ。あれは国を守ってくださっている軍人様だけが口にしてよい言葉なのよ」
「ぐんじんしゃま」
テーブルに置かれた甘い焼き菓子を頬張りながら頷く娘が軍人になり、祖父以上に気性が荒く言葉遣いが汚くなるとは、このときこの場に居た誰もが想像すらしていなかったである。