これから、愛ちの家に行く。
ちなみに、彼女に拒否権は無い。だって、これは愛ちとアタシの問題なのだから当然だ。
結局、あれから何も進展は無かった。愛ちの状態を理解しているにも関わらず、さじょっちは何も行動を起こしてくれない。
最初から、期待なんかしていなかった。
さじょっちは、やっぱり何もしてくれなかった。
彼が、救世主だなんて肩書きを背負うのは相応しくなかった。
先週の夕方に奢ってくれたパフェなんかで、チャラにされたくなかった。
だから、芦田圭は本気で怒っていた。
彼に対してふざけたことばかり言ってきた身ではあるけれど。
今回ばかりは見過ごすことは出来なかった。
これまで、彼の横顔を見ると惚れそうになったりする時もあったけど。
それでも、絶対に許しちゃいけないと思った。
それは。あの出来事が発端であったことは言うまでもない。
あの時のさじょっちとの会話が頭の中で蘇るくらい、今振り返って見ても残酷なモノで。
どうして、あの流れになったのかは今でもよく分からないほど、意味不明で。
『東雲さんと付き合うって……何それ』
『良いだろ別に。この件は芦田の方から、夏川にも伝えておいてくれ』
『さじょっち。それ本気で言ってるの? 愛ちが今、どんな想いで――』
一発、ビンタを喰らわせようかと思った。
つい頭がカッとなって、手が出そうにもなった。
だけど、それはやっちゃいけないことだって分かった。
アタシが暴力を振るうと、きっと愛ちは悲しむだろうから。
でも、本当の親友であるならば、ここで強気に出なければいけなかっただろう。
当時のアタシはこう思っていた。
もしかしたら、愛ちの一番近くで見守ってきたアタシなら。
芦田圭であれば、この最悪な状況を覆せるのではと。
そう勘違いしていた自分が恥ずかしかった。
どうせ、彼はまた他の厄介事に手を突っ込んで一人で爆走しているに違いない。
体も心もボロボロになっているのは、愛ちだけじゃない。
それ以上に。それ以前に。
既に限界が来ていたのはさじょっちの方だったのだ。
部活で疲れた体が悲鳴を上げてるけど全然気にならない。だってこれからそんな疲れも全部吹っ飛ばすつもりだから。
「ほんっと……二人とも素直じゃないんだから」
直前で走るのを止め、目的地に到着。
そこから悩むことなく意気揚々とインターホンを押すと、家の中からパタパタと誰かが小走りする音が聴こえた。
それと同時に小さな女の子が喜ぶような声がきゃーきゃー響いて来た。間違いない、この声は――
――――――――――
誰だ。