• 現代ドラマ

7月29日

家に駆け込んだボク。じんわりと涙が浮かんできます。ボクはりーちゃんを追いかけたいだけなのに。りーちゃんみたいになりたいだけなのに。肝心のりーちゃんはどんどん離れていきます。なんであんな事言ったんだろう…りーちゃんの夢はりーちゃんのもの…道理です。だって、それがりーちゃんの選んだ道だから。
気付けばボクは抱き締められていました。お母さんの匂い。

「佳乃。今とっても苦しいと思うの。だけどね、りーちゃんもとっても苦しいの。佳乃が泣いてるのを見ると、りーちゃんも泣きたくなるの。佳乃がいない間、りーちゃんずっと落ち込んでたわ。りーちゃんは隠してるつもりかもしれないけれど、私達には分かるの。」

お母さんと顔が合います。

「私達が仲直りしなさいって言っても、本当に仲直りは出来ないの。佳乃も、りーちゃんも悪い事しちゃったんだよね?ちゃんと2人で話さないと意味無いの。頑張って。」
「……ぅん…ぐす…」
「お父さんにはそのまま行ってもらうように伝えておくわ。1度ゆっくりと考えなさい?そして、お昼を食べたら一緒に浴衣、用意しましょ?」
「分かった…」

お母さんにひとしきり撫でられ、ボクは部屋へと帰りました。

ボクはりーちゃんに酷い事を言ってしまった。りーちゃんの夢を、思いを無下にするような一言を。
モデルになるっていう夢はとてもいいと思う。だけどりーちゃんの個性まで奪うのは違うと思う。ボクはどう伝えたら良かったのだろう。ボクは何が伝えたかったのだろう。
りーちゃんは、何を求めているのだろう。

「佳乃、ご飯よー」
「うん!」
「スッキリした顔ね。まとまった?」
「うん。」
「そう。じゃあ後で浴衣着ましょうね?」

もう迷いません。ボクはちゃんと向き合う事にします。

浴衣を着て、お小遣いも貰って。帰って着替えたりーちゃん含めてみんなでお祭りに向かいます。やはり振り向いてくれないりーちゃんですが、ボクはめげません。
会場に着くとなにやら騒がしいです。

「え、人数が足りない…?」
「ああ、町内会の人間が風邪引きまくっててね。運営するにも人が足らん。ちょっと手ぇ貸してほしい。」
「そういう事なら分かった。悪いが大人はここで手伝いをする。悪いが2人で回ってくれないか?」
「…私も手伝う。」
「チビ乃1人にするつもりか?」
「お守りってこと?……まあ、いいけど。」

珍しく顔を顰めたおじいちゃんを見てか、りーちゃんが折れます。

「ちゃんと楽しんでこいよ!」
「……」

ここからはボクが頑張らなきゃ…
歩き始めてもボクを一瞥もせずにどんどん歩きます。

「あ、わたがし…」
「……」
「…んぅ…りーちゃん、わたがしだよ?」
「全部見てからでいい。」
「…分かった。」
「……」

た、タイミングが無い…せっかくのお祭りなのに、気分が上がりません。その後もたこ焼き、焼きそば、唐揚げに金魚すくいと色々声をかけますが、無視か否定的な意見。ちょっと心が折れそうでした。

一通り回り終えそうで、ボクもすっかり沈んでいた頃…

「お、居る所には居るもんだな。おい嬢ちゃん。好きな物買ってあげるよ、ちょっと一緒に回らねぇ?」

ガラの悪い高校生ぐらいの3人組に声をかけられました。いや、正確に言えばりーちゃんが声をかけられました。

「…いえ、従姉妹と回っているので結構です。」
「そんな事言わずにさぁ…従姉妹ちゃんも色々食べたいよな?」
「…え…と…」
「俺達お金が沢山あるからさぁ…可愛い子達にちょっとでもいい思い出作って欲しいわけ。君、良く可愛いって言われるでしょ?めっちゃ可愛いよ!」
「お金なら充分です。お世辞も結構ですから、どうぞお引き取りください。」

実際おじいちゃんから結構な額を貰ってますし、りーちゃんも断り慣れてるというか。よく声をかけられるようなのです。
だけど、りーちゃんの足は僅かに震えているのをボクだけは知っていました。

「お世辞なんかじゃないよ、君となら誰も付き合いたいって思うんじゃないの?俺達も例外じゃないけどね?まあ遠慮しなくていいからさ。」
「…結構だと何度も言ってるはずです。」
「じゃあいいや。それじゃ、花火見たいでしょ?俺達特等席取ってんだよね。結構色々買い込んでるし、そこ行こう。」
「いい加減にして下さい!嫌だと言ってるんです!」
「俺達は親切に言ってるだけだからね?君くらいの子達なら二人で歩いてたら襲われても仕方ないんだからね?危ないから俺達の安全な所に連れてってあげようとしてるの。分かる?」
「やめて!近付かないで!」
「あのさぁ…こっちもわざわざ声掛けてやってるわけ。その反応は無いんじゃないの?」
「めちゃくちゃ傷付くよそういう反応さ…いいから大人しく付いてくればいいんだから…ね?」

1歩踏み出してくる3人組。1歩下がってボクにぶつかるりーちゃん。明らかに先程よりも震えていました。ボクはそれ以上に震えていました。だけど、りーちゃんとの約束…

体を無理やり間に割り込ませ、りーちゃんの前へと出ました。

「…どうしたの?別に君には用は無いんだけどな。お母さんの所へ帰りな。」
「ボク、約束したから…」
「はぁ?」
「ボクは僕だから、弱い私のりーちゃんを守らなくちゃいけないから!」
「何言ってんだこいつ…」
「ボ、ボクが強くなくちゃ、りーちゃんは弱くなれないの!だから、ボクが…!りーちゃんを守るの!」
「よーちゃん…」
「これだから言葉を覚え始めたお子様はやなんだよ、何言ってんのか分かんねぇ。1発殴れば嫌でも分かんだろ。」
「…やっ…!」

浴衣の襟首を持ち上げられて、宙に浮きます。襟で首の締まる感覚と、改めて感じる大きい高校生に涙が出ます。
意味の無い蹴りを繰り出し、少しでも抵抗しますが力の差は絶望的。振りかぶる腕を見るしかありませんでした。

「…ってぇ!?なんだっ!」
「よーちゃん、こっち!」

いきなり腕を離して地面に降り立つボク、そして引っ張られる左腕。苦しみ悶える3人は目を抑えていました。
りーちゃんが咄嗟に砂をかけたようです。

「おいテメェら!待て!」
「クソガキ共が!」

そんな声を背に思い切り逃げます。気付けば遠く、神社の階段を登りきった境内に逃げ込んでいました。
ふう…ふう…と2人で息を整える時間だけが過ぎていきます。

「…ふう…よーちゃん。」
「…んぅ…なに?」
「…ありがと。」
「…ん。」

その時、連絡が入りました。叔父さんからでした。

「璃乃、大丈夫か!?なんか怪しい3人組が子供二人に声掛けてたって通報が…!」
「うん。無事だよ。よーちゃんが助けてくれたんだ。」
「…後で詳しい話を聞かせてくれ。無事なら良かった、安心したよ…3人組なら捕まえたから、もう大丈夫だ。」
「うん。分かった。」

通話を切ってりーちゃんは立ち上がります。

「じゃあ、わたがし…買いに行こっか。」
「…うん!」

境内を降り、階段を降りる途中。

「あの…よーちゃんごめんね。よーちゃんに酷い事しちゃった。」
「ううん、ボクもごめん。りーちゃんの夢、やめた方が良いなんて言っちゃって。」
「…うん。せっかくの夏休みなのにこんな事してちゃ勿体ないよね…」
「そうだね…あの…りーちゃん。」
「うん?」
「明日はボクと…遊んでくれる?」
「…うん。もちろん。」
「やったっ!ありがと!」
「ほんと…よーちゃんは変わらないなぁ…」

その時夜の空に大きな花が咲きました。

「きれい…」
「うん…綺麗…」
「りーちゃん。」
「…うん。」
「夢、応援してるね。」
「ありがとう…よーちゃん。」

どーん…大きな花に負けず劣らず、りーちゃんは素敵な横顔でした。きっと誰よりもカッコいい従姉妹はボクのりーちゃんです。きっとあの花よりも大きく綺麗な花を咲かせるのも、もう時間の問題なのでしょう…






はい、最後まで書くのめんど…いい終わり方にしたかったのでここで終わりです。雨降って地固まると言いますが、まさにその通り。この大喧嘩があったからこそ今の今まで仲良く出来ているのだと思います。

そして今日はお伝えしたとおりお休みとします。ちょっとやっぱりドキドキしますね…

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