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物語が始まらない『ペナルティ』

「ペナルティ10ポイント。30ポイントを超えたため、ペナルティが執行されます」

 生き物の温かさを感じさせない女性の声が流れる。
 ペナルティ執行。自分も先ほどの彼のようになってしまうのだろうか。

 人の姿を失い、全身に鱗を生やした恐竜のように。言葉も忘れ、かろうじて二足歩行であることだけが人であった証明のように。

 私はぶるりと身を震わせた。どんな生き物になるか分からないし、変身範囲は人によって違うから、と慰めてくれる人もいたが、気が気ではなかった。

 足に違和感を感じる。支給品のスリッパいっぱいに足が膨らんでいる。慌ててスリッパを脱ぎ捨てるとぶるんと平たい足が現れた。横幅は人間のものよりずっと広く、焦げ茶色の短い毛、指の間には水かきが見える。

 始まったのだ。私はペナルティとして人ではなくなる。
 固唾を飲み見守るものの、一向にそれ以上の変化は起こらない。

「終わっ・・・・・・た?」

 自分へのペナルティはここまでらしい。安堵と同時にぐぅとお腹が鳴った。こんな状況でも腹は減るのか、と自分の図太さに笑えてくる。

 仲間の一人に、君はたぶんラッコだね、と教えてもらった。ラッキーだ。かわいいし、いくら食べても太らないじゃないか。そう笑いつつ、仲間と共に食堂へ向かう。

 ビュッフェ形式の食堂には昼夜問わず常に大量の食事が運び込まれている。トレーをあらゆる料理で山盛りにしながらふと思う。

 ラッコはその大きさに見合わず大食漢だと聞く。施設内では食事は自由だ。何を食べようといくら食べようと自由。でもこの施設を脱出できたら?その後の食費って・・・・・・。

 私はぶるりと身を震わせた。


240904 夢日記

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