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海賊

私には90歳の叔母がいる。
子供の頃から親戚で一番好きな人だった。
父方の親戚で、父がまだ赤ん坊の頃から世話をしてくれたような人で、私のこともとても可愛がってくれた。
叔母の家はとても大きなハイカラな家で、いつ行ってもピカピカに磨かれており、家具屋を営んでいた事もあり、田舎には珍しくおしゃれな家だった。
10近く年の離れた息子さんと娘さんがいたが、なんとなく、ツンとした感じで、あまり一緒に遊んだり過ごしたりした記憶は無く、2人の部屋がある2階に上がらせてもらえる事は無かった。子供の頃は大きな階段の上にどんなお部屋があるのかと憧れて見上げていた記憶がある。

叔母は控えめだが、とても賢くなんとなく華がある人で、ここぞという時に場を締めるようなところがある。母の葬式の時も何かと知恵を貸してくれたし、父の葬式には泣きながらも立派な弔辞を愛のある長い手紙で暖かく皆の心に余韻を残してくれた。
自慢の叔母である。

私は小さい頃からこの叔母には本当にお世話になり、私が東京に来てからも。大人になって、結婚してからも。会えば紙に包んだお小遣いを「新幹線代に…」とそっとポケットに入れてくださったり。季節の果物を送ってくれたり、何よりもありがたいのはダンボールいっぱいに詰まった叔母が畑で作ったいろんな野菜が届く事だった。
私の実母が生きている頃には母が荷造りをして発送していたが、今は誰の手伝いもなく、自分で詰めて自分で集荷を頼んで私に送ってくれている。90歳になった今でも、朝の早くから1人で裏の畑に行き、水をまき、夕方陽が落ちる頃に「少しは涼しくなったべ」と野菜の収穫に行く。曲がった腰に籠を背負い、鎌を持って。
私は心配でたまらない。できればもう畑は卒業して欲しい。。。
だけど叔母は「だけど、わだし、畑が好きなの。少しずつでもできた野菜を取って。荷物を詰めるのもの好きなの」ところころと笑いながら話す。

ついさっきも電話が来た。
私がいつもの野菜のお礼にと、洋服を買って送ったのだが、それのお礼の電話だった。
「こんなに、素敵な服の一揃い…私のために、すみません」と。コロナの事もありずっとお会いしていないので、背が縮んでるかもしれないし、去年「痩せっちゃったんだよ」なんて言っていた事もあるから、サイズがどうかしらと悩んで買った服だったので、添えた手紙にその心配を記しておいたのだが、早速着てみて「ちょうど良かったよ」と嬉しい感想もくださった。

さて。
ここからがおもしろいはなしである。
先にご紹介した叔母の娘さんだが、、、
この方が曲者で。
この聡明で優しい叔母の育てた娘とは思えないほど意地悪な人物なのだが。
電話で叔母が愚痴を言う。

「もっと早く、電話しようと思ってたんだけど、さっきまでE子が来ててね。電話できなかったんだよ。E子が急に来て、私の取っといた野菜、みな持ってっちゃったんだよ。
チヨちゃんはこうやっていろいろ送ってくれるのに、うちの娘と言ったら、いつも手ぶらで来て、家にあるもの持ってっちゃうんだよ。たまに持って来るって言ったって、シュークリームの1つだよ。1年に何回あるか数えられるぐらいだ。…、しかもそれいつも半額のシール貼ってあんだよ。まったぐ、、。これが自分の娘なのかと思ってがっかりするんだよ。まるで海賊だ」

爆笑。
私、電話の受話器持ったままひっくり返って笑いました。
90歳で、この笑い取れるってすごいなぁと思って。
面白かったから、ノートに書いておきます。

叔母ちゃんには長生きしてほしいなぁ。。。
いつかこの叔母を主役にしたお話しが書きたいと思っている。

7件のコメント

  • 90歳、元気で明るいね✨
    海賊娘さんもネタ提供である意味親孝行⁉️
    ( *´艸`)ふふ
  • 事実は小説より……とてもいいお話でした。(´ω`*)
    賢い母親に鬼っ子ができて、距離のある姪にここまで慕われる。
    これだから人生は面白いと膝を打ちたくなりました。
    深夜に起きてパソコンを開いてよかった、ありがとうございます。
  • 空海様

    ウハハ←⁠(⁠>⁠▽⁠<⁠)⁠ノ
    そう、それはあると思う。
    90歳でも、ひとり暮らしをして、畑仕事をしながら自分なりにきちんとした生活を送っている。
    あっちこっち身体の不具合もあり通院しながらだけれど(通院はE子が車を運転して送ってくれるが、E子は病院の臭いが嫌いだからと、叔母を置いて帰ってしまうのだとか…。受診が終わった頃に「私も忙しい」と文句を言いながら迎えに来るらしい…)自分でできることは頑張って続けている。
    もしも優しい娘が側にいてかいがいしく世話をやいてくれてたら、やらなくなって、できなくなってしまうことは少なくないと思う。。。
    そして、叔母が声を大に不満を訴える元気があるのも、ある意味E子という存在があってのこと…。
    (´∀`*)ウフフ
  • くるを様

    本当に。こんな鬼娘、なかなか想像できませんよ。
    親戚じゅうから嫌われています。
    が、
    叔母の良い人格のおかげで誰もE子とぶつかることはありません。
    実は叔母の夫。E子の父がとんでもなくイヤな人だったので、親戚の皆はE子はお父さんの血を継いだんだなと納得しているのです。
    いつも、ウチのアイツの事を性格が悪いなんて発表しているけれど、
    E子や、E子の父の本物の悪に比べたら、なんと可愛いものか…。

    叔母も、E子と同居すれば?と親戚から言われても「絶対嫌だ!それなら施設に入った方がまし!!」というほどでして(^_^;)まあそれが90歳のひとり暮らしを支える柱になっているのでしょう。(´∀`*)ウフフ
  • これはステキなオバチャマですね。
    そして、本当に偉いなあ。90歳なのに。
    娘さんの話、ちょっと耳が痛いです。
    オバチャマが主役のお話、楽しみにしていますね。
  • レネ様

    叔母が言うには、
    「ただ毎日を、一日一日を、いっしょけんめに生きて来たら、いつの間にか90になってだ」
    そうです。
    生きていれば嫌な事もがっかりすることもあるけれど、この歳になってもまだ生きていたいと思うんだよなぁ…。と言っていました。
    その歳になってみないとわかりません。
    でも、その前に、私がもし長生きしたとすると間違いなく、、、脳が先に錆びるでしょうな。。。いろいろ壊れていることを想像しますm(_ _)m
    叔母のように若い人と話しが通じるとは、今すでに思えません…(¯―¯٥)

    それから、娘と息子は違うような気がします。母との距離というか…愛情の表し方みたいなものが。
  • チョコさま

    毎日をただ一生懸命生きることが大事なんですね。

    でも私は、その歳になっても脳が滅びないように、何とか今から特訓するつもりでいます。錆びるなんて言わないで、チョコさまも頑張ってください。

    それから娘と息子は違うという話、ありがとうございます。少し気が楽になりました。
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