このお話は私がとある小説を書いてジャンル分けをしようとしたときにに「これはSFだろうか?それともファンタジーだろうか?」と悩んだのがきっかけで生まれた小説です。
それで「ファンタジーっぽい題材のSFを書いてみよう!」と思い立ったのですが、これを書くのには苦労しました。
アイデアが浮かんできて書き出し、「これは面白いぞ!」と思ったのですが、いざアップするとなかなか評価はのびず……
悩んだ末Twitterで感想を募集したら「オチが弱い」「設定を盛り込みすぎ」などの意見を貰いました。
それを受けて書き直したところ、文字数はそれ程変わっていないものの、くどい描写をやめ、会話やオチにひねりを足したので大分スッキリして伝わりやすくなったと思います。
以下に書き直す前の「異世界転移SF」を置いておきますのでぜひとも参考にしてみてください!
◇ ◇ ◇
『異世界転移SF』
異世界転移の技術が実用化に向けて本格化してから早30年。
アメリカのベンチャー企業が、このたび発表した異世界転移計画に、私は興奮した。
それは、従来は使い捨てだった異世界転生機を回収し、再利用することで大幅にコストを抑え、それまで科学者や富裕層しかできなかった異世界転移を、民間人でも簡単に行えるようにしたというものであった。
異世界転移と言えば、私の祖父の世代のころにネット小説で大いに流行ったジャンルで、当時は、多くの引きこもり少年やニートのオタクたちがこれらの量産されたチープな物語に夢中になったらしい。
もっとも、我々の世代では、その「異世界転移」や「異世界転生」といったジャンルは使い古された古めかしいカビの生えたジャンル、というイメージの方が多いかもしれないが、それでも私のような一部根強いファンが残っていることは確かだ。
それに加え、最近では、その当時「低俗」で「量産型」だとされていたそのジャンルを、芸術として再評価する動きが生まれている。
文学評論家たちの間ではこの頃の異世界転生小説が「先見の明があった」「様式美を備えた小説」などとして国内外から再び注目を浴びているのだという。
異世界転移技術が本格化したのはごく最近のことだ。
我々の住む宇宙とは異なる平行宇宙、すなわち異世界に入ることが、物理法則に矛盾しない、と科学的に証明され、高性能の重力波検出器や巨大粒子加速器によって理論が解明され、何世紀にもわたって発見を積み重ねてきた物理学の知識を総動員し、「異世界転移機」は完成した。
そして異世界転移機が作り出した「次元の入口」に無人探査ロボットを送り込んだところ、そこが中世ヨーロッパ風の、剣と魔法の世界であることが判明したのだ。
それから今に至るまでの技術発展のスピードは我々の想像をはるかに超えていた。
何体かの無人探査ロボットが送り出され、そこに我々と同じ人類や、エルフやドワーフ、獣人、それに悪魔や吸血鬼、モンスターが居ることが明らかになった。
そしてそれらのロボットが、向こうの世界の珍しい鉱石や草花を採取してくると、それらは科学者たちの話題の的となった。その中には、我々が普段見ることはできないものの、宇宙に数多く存在しているとされる「ダークマター」と呼ばれる新しい物質の結晶が含まれていたのだ。
それらのロボットたちが採ってきた珍しい鉱石は「異世界の石」として万博会場でも展示されたのは記憶に新しい。
このちっぽけな一つの石を見るために多くの人間が、3時間も4時間もかけて列に並んだのである(かくいう私もその一人だ)
異世界に人間が本格的に転移できるようになったのは、それからすぐのことだ。
世界で初めて異世界転移した人間第一号は、教科書にも載っているのでおなじみかと思うが、アメリカ人の地質学者で生物学者のメイソン・J・スミス氏だ。
時空を超えるには体に大きな負荷がかかるため、毎日過酷な筋力トレーニングを行いエベレスト登山や北極や南極、深海でのトレーニングを積んだスミス氏だったが、実際の異世界の生活は過酷を極めたという。
何しろ、モンスターや悪魔や魔物がいる世界だ。それでもスミス氏は無事に帰還し、「異世界は現実である」という名言を残し、これは当時の流行語大賞にもノミネートされた。
さて、異世界転移できるのは何も外国人だけでない。皆さんご存知の通り、数年前日本人で初めて異世界転移を果たした若豪奢光音(わかごうしゃれのん)氏に、私はインタビューをすることに成功した。
『異世界転移士』はもはや世界中の若者の憧れの的であり、若豪奢さんが試験を受けた時は、3名の採用枠に、1000人以上の応募者が集まり、その倍率は300倍以上だったという。
「採用者は、元軍人や科学者が多かったですね。元ニートなんていうのは私ぐらいでしたよ。
顔も普通、学校の成績も中の下、運動能力そこそこの、どこにでもいる普通のニートだった私が受かったのは、たまたま珍しい魔法適正があったからでしょうね。全ての魔法を無効化するという、能力がそれです」
どう考えても普通ではない若豪奢さんが、自分を「普通」などというその謙虚さに、私は敬服した。
若豪奢さんはさらに続けた。
「『異世界転移士』の資格を得ても、実際に異世界転移するには数々の試験をクリアしなくてはいけません。毎日の筋トレや異世界言語の習得訓練、トラックにぶつかる訓練や、剣や魔法の訓練など訓練は本当にきつくてつらい日々でした。
しかし、魔法無効化能力の他に何のスキルも持たないごくごく普通のニートだった私はほかの元軍人や科学者たちに負けないように精一杯努力しました。そのかいあって見事、異世界転生士として実際に異世界に行くことができました」
日本人で初の異世界転移した若豪奢氏の著書『ゼロ能力者の平凡な俺が異世界でチートでハーレムして最強になったわけ』はノンフィクション部門で52週1位をキープし、親が子供に読ませたい本第1位や、世界に残すべき名著1位に選ばれた。
さらには、異世界転移もので芥川賞やノーベル文学賞を取る者まで現れた。このことを「異世界転移や転生物は低俗なライトノベルでしかありえない」といきまいていた過去の人たちに聞かせたら何と思うだろうか?
さて、そんなわけで現実の技術となった異世界転移技術であったが、私はこれをきっかけに、異世界に憧れるニートや引きこもりの青少年が、若豪奢さんのように外に出て努力するようにならないかと少し期待をしていた。
それで、実際にニートで引きこもりでオタクをしているある一人の青年に話を聞いてみたのだが、その反応は私が予想したものとは少し違っていた。
「『異世界転移』? そんなのオタク界隈では今は誰も興味持ちませんよ。ファンタジーは実現できないからこそ現実逃避できて良いのであって、実現可能になったら、それは現実となんら変わりません。
今アニメやラノベで流行っているのは『学園もの』ですね。通信教育やネット授業が当たり前になった今では学校に行く、なんてのはファンタジーと同じくらいありえないことです。だからこそ、人気がでているんでしょうね」