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奇跡のねむり酒

今日、先輩からお酒を頂きました。

  株式会社吉村秀雄商店
  奇跡のねむり酒 〇秘 MARUHI

 裏のラベルと見ると次のように記載されています。

  十五年常温熟成古酒
  アルコール度 19度

 日本酒で、且つ、長期貯蔵。これまでに口にしたことはありません。この日の晩ご飯は、子供のためにクリームシチューを作っていまいた。

 シチューでは、日本酒は飲めない、ましてや、長期貯蔵の日本酒……合うわけがない。
 アルコールに必要なのは、マリアージュだ。相性だ。どんなに美味い酒でも、アテが悪けりゃ、美味くはない。

 だいたい、世界各国のアルコールは、その土地の食物と合わせるようにして育ってきた。フランス料理やチーズに、ワインが合うように、ドイツのソーセージにはビールが会う。日本酒には、やっぱり魚が良い。

 ただ、今回の日本酒は、15年もの長期貯蔵を経てきた日本酒だ。いったい、どんなアテが会うんだろう。想像するに、きっと癖が強い日本酒に違いない。であるならば、同じ魚でも刺身は駄目だ。癖が強いものは、癖が強いものと合わせるのが、鉄則だ。

 近所のスーパーに僕は走った。陳列台を見る。

 ホッケの干物
 金目鯛の干物
 イワシの丸干し

 この三点に、絞られた。さて、どれにする?

 一番高いのは、ホッケだった。味は知っている。
 次に高いのは、キンメダイ。まだ、食べたことはない。
 イワシの丸干し。安いし、美味い。

 悩んだ末に、金目鯛にした。食べたことがないというのが、最大の理由だ。

 素早く、家に帰り、子供たちにシチューを振舞う。お風呂に入り、ゆったりした僕は、問題のお酒と、金目鯛を前にして、心を落ち着ける。大ぶりなぐい飲みに、MARUHIという日本酒を注ぐ。

 まっ抹茶色の液体だった、琥珀を通り越して、濃い茶色。匂いは、絡みつくような甘さだった。口に寄せて、含んでみる。甘い。カラメルの様な甘さだ。日本酒を寝かすことで、このような味になるなんて、想像だにもしなかった。嫌味はない。思いの外、スッキリしている。泡盛の様な、口に残る癖ではない。スッと消えていくような、濃い甘さだ。

 この日本酒に、魚の干物は、とても合う。というよりも、干物以外に、合うアテはあるのか?
 そのくらいに、相性が良かった。

 先輩。
 ありがとうございました。

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