『火の柱』ケン・フォレット著 戸田裕之訳(扶桑社)
上中下巻からなる歴史大河小説です。めっちゃハマりました、めっちゃハマりました、めっちゃハマりました!(三回言った!)
16世紀のイングランド。商家の息子ネッド・ヴィラードは恋仲のマージェリーとの結婚を両家の職業上、政治的、宗教的な対立により阻まれる。失意のネッドは若きエリザベス・チューダーに仕えるようになる……という、政争や戦争や凄惨な宗教対立の内幕を舞台にしつつ、歴史上の人物よりもその影で暗躍する人々を視点人物とした群像劇であり、手に汗握るスパイ劇であり、冒険劇であり。魅力的な登場人物たちがそれぞれに活躍するのであっちもこっちも気になる~~って状態で、久々にわくわくしながら読みました。めっさ面白かったです!
カトリックvsプロテスタントの宗教戦争を大きな軸としているのですが、その内部でも穏健派vs過激派の戦いだったりするのです。カトリックであれプロテスタントであれ、宗教上の争いで人が殺されることがあってはならないと考える女性為政者たちや草の根で信仰活動を続ける女性たちに反して、権威主義、強権的な男性たちはとにかく暴力で他方を圧しようとするのですね。以下、盛大にネタバレしつつ萌え萌え語ります。
ネッドの恋人マージェリーも暴力的な父親の圧力に耐えてネッドをあきらめずにいたのに、衣の権威をかさにきた司教に説得されると、ころっと考えを変えてしまうんです、彼女は敬虔なカトリックなので。彼女の信仰心を父親が利用したわけです。
マージェリーの父親と兄のロロは自家の権勢を守るためにネッドの母アリスを陥れ破産させ、対立するプロテスタントの家の人物も火刑に追い込むのですね。
初めて火刑を目の当たりにしたネッドは、そこで後のエリザベス女王に仕えることを決心するんです。エリザベスの信条に感銘を受けて、ネッド自身も信仰の理由で人が殺されてはならないと考えるのです。
ネッドは、母アリスを始め、主君エリザベス、恋人マージェリー、妻となるシルヴィーなどなど、能力のある女性たちをとても評価するんです。
でも、時代が時代ですから、嫁を犯す義父とか借金に追い込んだ少女を愛人にする聖職者とか性行為まで強要される奴隷とか、胸糞なことがこれでもかと。そして女性たちは暴力で屈服させられ声を発する権利もない。
ですけど、女性為政者が活躍した時代でもあり、名もなき女性たちも大いに活躍します。シルヴィーもそのひとり。
禁書を販売していた父を、カトリックのスパイだった恋人の裏切りで失って大変な目にあうのですけど、母親を支えて立ち直り再び布教のためフランスでは犯罪行為であるジュネーヴ版聖書の販売を始めます。「男性にやるべきことを指示されないですんでいる」「幸せなのは、自由だから」と。
危険を冒して聖書を買い付けにひとりでジュネーヴまで旅をしたりします。心配する母イザベルに向けて「女に何ができて何ができないかを男の人に教えてもらう日々はもう終わったのよ」って言うセリフが最高にカッコよかったです。そして「あなたは本当に勇敢ね」とそれにこたえるお母さん(涙)
そんなシルヴィーを自分の野心のために利用した男ピエールが、クズな美男子なのですよ!! こいつぜってぇー許さーん! と怒りをこらえながら読み進めましたとも。
ピエールはフランス側のネッド的立ち位置の人物ですが、経年劣化で魅力がどんどん衰えていくんです。はっはっは、ざまーみろ。最終的に、虐げてきた継子と愛人に誅殺されるのです! はっはっは、ざまーみろ、ざまーみろ、ざ・ま・あ・み・ろーーーー!!!!(非常に大人気ない読者)
ネッドとシルヴィーが出会って結婚、という神展開にもブラヴォーーー!!! と大興奮だったんですが……………なのに、なのに、終盤を前にシルヴィーがあああ、ええええ、そんなあっさり~~~(ノД`)・゜・。 そしてネッド、そりゃないよおおおおお(T_T) なるべき展開といえばそうなのだけどー。
と、シルヴィー推しには不満の残る最終盤でしたが、最後まで読み応えたっぷりで楽しめました。登場人物が多すぎて、後日談が語られなかった人物もいたりして気になりまくり(笑)
ドラマチック、それに尽きます。ドラマチックな人間模様こそエンタメ。久々にそう思えました!
ところで、このお話にお世話になったことが他にもありまして。
私の『悪役令嬢は素敵なお仕事』第一話のキャラ名や家名は、こちらの登場人物たちから拝借したのです。ええ、私キャラ名を考えるのがメンドクサイもので(爆)