◆カイトの育成プランについて
第二章の前半は、カイトが「魔族領域に住まう者も等しく人である」というのを、市井の人々との交流を通して実感を持てるようになっていくお話です。
そして、満を持して彼は魔族の力を……「四天王の力」を学んでいきます。
彼に対してパーティー三人娘は自分達を「部品」と評しましたが、身も蓋もないメタ視点から語るならば、四天王の力はカイトの最終的な戦闘スタイルを想定した上で逆算し形作られた能力とも言えます。
「龍魔人仕込みの強靭な肉体」
「獣形遁法の身のこなし」
「森羅万世流の剣技」
「影魔法による武器、身体強化パーツの構築」
これらが噛み合ったことで、彼は五人目の四天王と言うべき「第五金環騎士」として完成します。
……とはいえ、そこは百戦錬磨の各分野のプロフェッショナル。
金環の四天王の能力の洗練や、先天的身体能力は、カイトの比ではありません。
各人の能力への理解、機転、戦闘への応用力は、明確にカイトより優れています。
その自負があるからこそ、成長途上にあるジーンたちと違い、自身の能力に劣等感を抱く面は薄かったと言えます。
(……リナに関しては、まだ若いこともあって迷いはありましたが、それでもカイトに対する理不尽な嫉妬で暴走することなく、比較的すんなりと壁を乗り越え糧に出来たのは「真の強者」たる自負があったからと言えるでしょう)
では、「カイトは所詮テトラクラウンの下位互換」と言えるかというと……実際はそうとも言い切れません。
エミリアは、類稀な魔法の使い手ですが、身体能力や火力の欠如で、鍛錬前のカイトとの戦闘で劣勢に立たされました。
アンナは、強大な膂力を持った重戦士ですが、魔法を使ったり、軽々とした身のこなしで動くことはできません。
リナは、剣さえあればアンナとも渡り合える戦士ですが、武器破壊を受けた時は著しく戦闘能力が落ちます。
ノアは、バランスの良い徒手空拳や諜報術の使い手ですが、火炎やエネルギー系の魔法による攻撃などには弱いことでしょう。
それぞれの得意不得意がある中、カイトは経験不足な面もあるとはいえ「全て」を使えます。
武器を破壊されたら影を編み、魔法には対抗魔法を使用し、剛力無双には技術で対抗します。
そしてそれは、接近戦ではエミリアを護衛したり、アンナの捉えきれない速度の敵に攻撃を当てたり、武器破壊されたリナに武器を提供したり、攻撃魔法からノアを守ったり……。
彼は全局面対応型の戦士として、あらゆる条件の敵の「弱点」をついたり、あるいは味方の弱点を「援護」によりフォローしたりと、四天王の誰と組んでも、その能力を最大限引き出せるポジションになったわけです。
……転移から追放を経て、修行による能力の完成まで約100エピソード40万文字。
なんとも気の長い導入になりましたが、ようやく彼も脚光を浴びるヒーローの資質を手に入れ、魔王軍の「万能の道化《ジョーカー》」として、タイトル回収に至ったというわけです。
なんともトレンドに逆行した牛歩進行ですが、このお話は「逆張り異世界モノ」。
じっくり書くのも逆張りの一環ということで、ここはひとつ。
◆ジャンヴォルン
森羅万世流の修行編。カイトの基本戦闘スタイルに繋がるエピソード。
当初はリナとアンナ、カイトの三人での修行を想定していました。
ですが、このエピソードを書き始めた段階で「これだと相当薄味になりそうだな…」と悩む。
ヒロインと主人公だけで物語を回すと、どうしても「閉じた世界」になると、そういう危惧がありました。
そこで生まれたキャラクターが彼、ジャンヴォルンです。
第一部での「メイドのエリス」が、カイトの人間領域での支えとして物語の軸になったのと同じように、第二部においては彼のドラマがカイトと別のもう一つの軸になったと言えるでしょう。
魔族領域は、爵位を与えられた各部族が統治しており、東西の経済・教育格差はまだ色濃いものです。
そのため、アルフィードに隣接するオーク領は、極めて好戦的な領民を抱えた厄介な地ではあったわけですが、そもそもの話として魔王グレタは「オークは野蛮で非文明的だ!」などと、見放すような王か?という疑問が、第一部を書き終えたあたりで湧いたわけです。
無論、彼女は必要に応じて冷酷な決断も下す王ですが、それでも生来のレッテルで同胞を見捨てる手合いでもない。
それを考えた時、オーク領を「第一部で壊滅させられた蛮族社会」で終わらせるのは、作品の趣旨にも合致していないように思いました。
加えて、カイト自身の言葉。
「もしかして、意外な奴と仲良くなれるかも?」という、未来への期待。
これは、筆者としては四天王や魔王を想定していたものでしたが、「……いや、彼女たちはヒロインだから、仲良くなるのは意外じゃねーだろ」と、内なるツッコミが浮かびます。
じゃあ、本作において一番カイトが友達になれなさそうな「意外なヤツ」は誰だ……?
そう考えた時に思い至ったのが「グルドンド候の息子だ!」となったわけです。
……ちなみに、第一部時点の彼の父「グルドンド候」は、「プロシューダ」という名前も決まってませんでした。
猪妖魔《オーク》の命名は「ジャンボン」「プロシュート」「ボンレス」「どんぐり」「イベリコ」が元ネタです。
調べたら、お腹がすくかもしれませんね。
ともあれ、ジャンヴォルン。冒頭は本当、いきなり殴って来るイヤなヤツでしたね。
書いてるこっちも「コイツ、仲良くなれるのかなぁ…」「読者にも『はよ死ねや』とか言われないかなぁ…」と、かなり不安でした。
でも、だからこそ書いていて面白いキャラでもありました。スリリングな爆弾クソガキ弟分。
カイトは次男坊。頼りない雰囲気の男ですが、それでも何だかんだ面倒見はいいヤツです。
姉御肌のアンナと、初期のツンツンしたリナに挟まれるだけでも、まあ次男らしいポジションではありました。
ですが、やっぱり同性のジャンヴォルンの存在があったからこそ「ああ、あっちの世界では兄貴だったんだな…」と感じてもらうことが出来たのではないか、と考えています。
あと、また女性だけの環境に居たら、彼も「うわ、俺スケベ心出してる…」と、とても気まずいことだったでしょう(笑)
……ジャンヴォルンの親子関係の結末は、「これでいいのか」と悩む部分もありました。
少なくとも、彼の母親にとってはプロシューダたち「オークの男」は、十分憎むに値する存在ではあります。
彼女の人生の理不尽は、「諦め」なくてはならないのか。
自身の犯したわけではない社会の「咎」を、子供が負うべきなのか。
唾棄すべき親兄弟に「愛」や「敬意」を抱いてしまうのは間違いなのか。
……正直、かなり難しい問題ではあると思います。
筆者の答え「妥協」は、いささか日和見に映るかもしれません。
それでも、やはり自分の人生を振り返った時、これは必要なのかも、と考えました。
SNS社会では「あなたは、怒ってもいい」という言葉をよく聞きます。
その言葉は救いのような優しさである一方、どうしようもない孤立を招くこともあります。
……だからこそ、筆者はつらい目にあった人にも、怒りを捨てるために「妥協してもいい」とも思っています。
人生、立ち止まる必要がある状況と同じぐらい、前に進まなければ道が途絶える状況はあります。
だからこそ、諦めを「選んでもいい」のは、呪いでもあり、救いでもあるんだろう、と。
……いつの日か、「選んでしまったこと」を後悔する日が来るかもしれません。
それでも、自分の意志で「選んだ勇気」は、やっぱり誇っても良いのではないでしょうか。
◆リナ=ブラウン
いよいよ、四天王の解説です。明確にカイトに「恋心」を抱いた、初めての四天王ですね。
……ジャンヴォルンのバックグラウンドが大分シリアスになったことで、本来の山場だった彼女の過去が霞まないか、ちょっと心配でした。
彼女はエルフ領で育った「ダークエルフ」。
種族名としては「悪しき者」という意味での「闇」を意図するものではありません。
この世界のエルフは「葉」を象徴する緑の瞳を持ち、ダークエルフは「樹皮」を象徴する褐色の肌を持ちます。
森の民である彼女たちにとっては、自身の身体の「草木の色」を誇りとして生きています。
彼女の姓である「ブラウン」も、その象徴と言えます。
エルフは視力に優れる黄緑の瞳「萌眼《ほうがん》」を持ち、弓による狩猟を得意とします。
ダークエルフは瞬発的な行動を起こす「樹筋《じゅきん》」を持ち、その多くは剣技に適性があります。
これは、生理的なものと言うよりも「体のどの器官に魔力が流れやすいか」の違いです。
そして、彼女は「樹筋《じゅきん》」と「萌眼《ほうがん》」両方を持った存在です。
エルフの動体視力と、ダークエルフの駆動力を持ち合わせた突然変異《ギフテッド》です。
これについては天賦の才でもありますが、魔力の内功鍛錬で同じ領域に足を踏み入れることも可能です。
そのあたりは、カイトも「森羅の剣聖」の武術を再現できたあたりにも表れています。
だからこそ、彼女は「才に恵まれなかったなら、努力で追いつけばいい」と考えています。
それは自身の才能の持つ、残酷なまでの格差から目を背けた、極めて傲慢な態度でもあるでしょう。
しかし、往々にして、人のスタートラインは平等ではありません。
現実世界においても、スポーツ選手の家系に生まれた者や、親がテックマニアでPCに囲まれて育った者、オタクの英才教育を受けた数万ブクマ中学生神絵師など……まあ、色々いますよね。
創作でも、勉学やスポーツ、格闘技と同じく「厳然たる結果」が返ってきます。
それは「勝ちたい」渇望を持つ者は、「がんばってうまく行かなかった人」の屍を乗り越えていくことでもあり。
そして、いずれは同志から「才能ある奴はいいよなぁ」という言葉が、襲い掛かって来るわけです。
……それが原因で、創作コミュニティがギスってしまう話は、枚挙に暇もないことでしょう。
どうして、自分は、自分の持った力を十全に発揮することが許されない。産まれは選べないだろ?
自分は決して、誰かを不幸にするために、持った力を使ってるわけじゃないのに。自分だって頑張ってるのに。
同じ土俵に上がって来てくれよ。劣等感も力に変えられるようなライバルとして、切磋琢磨しようよ。
……みたいな、青い気持ちを持ってる時期が、筆者にもあったわけです。
決して「絶世の天才」では無いんですが、それでも「多少優秀」でも、これはありました。
それは傲慢であると同時に、「同じ志を持つライバル」を得ることがいかに難しいか、ということです。
そうしたわけで、リナにとってのカイトは「ズル野郎」ではなく「自分に追い着いて来てくれた初めての人」でした。
その力を使う理由も、自分や、敬愛する祖母、魔王の理念のため。さらに、世界平和というより大きな視座もある。
彼を「敵」と見なくなったリナにとって、カイトはもう「愛弟子」であり「頼りになるお兄さん」であり「幼い日の自分を解き放ってくれた男の子」でした。
「魂の幼馴染」とでも言うべきでしょうか……全知剣界で存在しない記憶を満喫しました。
それを「恋」と認識する過程は詳しくは書きませんでしたが……彼女にとってそれはごく自然に、シームレスに繋がっていたことなのでしょう。
つまるところ、彼女の心の底には「生まれ育った田舎で、仲良く棒を振って遊んでくれる、やさしい幼馴染の男の子と、甘酸っぱい恋がしたいなぁ!」というピュアな欲が、ずっと燻っていたわけです。
ジャンヴォルンの言葉を借りるなら「童貞くせぇ女」です。
それを恥ずかしがる人並みにシャイな一面も見せてはいますが、彼女に負い目は特にありません。
カイトに失礼な物言いをしたことも、かつての勇者パーティーとの対立も、致命的な状況になる前に清算しましたし、後は前に進むだけ。
ある意味、エリスよりフラットに「カイト」という人間を評価しているため、遠慮なく自分の恋心を出せる立場でもあります。
……ただひとつ、「祖母リザ=ブラウンと、先代勇者イサミ=サイジョウの因縁」を除いて。
彼女が、魔王の命令でエルフ領に向かうか、あるいは彼を家族に紹介したいと考える日に、そこと向き合うことにはなるでしょうが、今はただ、年相応の恋愛のドキドキを味わっていただきましょう。
……ちなみに、リナは四天王最年少です。
本編開始時点で19歳、カイトより2歳下、カイトの後輩「ヤマジン」と同世代ぐらいです。
他の四天王はみんな40~50代なので……彼女たちは、もうちょい落ち着いた方が良さそうですね。