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「青騎士の失態」完結しました(裏話的長文あとがき付き)

「青騎士の失態」無事完結いたしました。
これもひとえに読んでくださった皆様のおかげです。
ひとりきりでは最後まで走りきることは叶わなかったと思います。
カクヨムでの応援はもちろん、ツイッターでの宣伝RTやご感想など、すべてが宝物です。
本当にありがとうございます。
物語本編はここで終わりですが、気が向いたときになにか書いていることがあるかもしれません。
そのときはまた覗いてやっていただけると嬉しいです。



◇◇◇

普段はあとがきというか、作業の裏話のようなものは書かないのですが、他のかたが書いたあとがきを読むのは大好きなので、たまには書いてみようと思います。

苦手なかたはブラウザバックをよろしくお願いいたします。

◇◇◇



【失態がうまれた経緯】
見切り発車という言葉がありますが、見切ることすらままならないなか走り出したお話でした。
そのとき書いていたお話が「裏切り」をテーマにしていたのに「裏切らない」ほうが構成がよくなることに気づき、「裏切り」欲を満たしたいがため衝動的に書いたのが「青騎士の失態」1章でした。

前の失敗を繰り返さないよう、裏切るほうではなく裏切られるほうを主人公にして、しかも物語冒頭からすでに裏切られていれば、裏切られる過程をすっ飛ばせるぞ、という安易な発想。

以下、その流れをざっとメモしておきます。

裏切りというワードがそれだけで重量過多なので、主人公は陽にしよう。
現実世界で裏切りをやるとしんどくなるから異世界。
いっそ普段書かないものにしよう、女性の一人称だ。
わたしの硬めの文章でもちぐはぐにならないような職業、軍人で。
それならわたしの好きな属性、騎士にしよう。
世界観設定を伝えやすくするために、記憶喪失?タイムトラベル?百年後に蘇生。
それなら裏切りともかみ合う。
(この時点でルーチェ、百年前にルーチェを殺した人物、蘇生の術式を施してくれた人物が生まれます。つまりテオリアとフィオーレです)
古い没ネタのなかに「青騎士の失踪」ってやつがあったなあ。
話の本筋は復讐、もしくは真実をさがす旅。
その旅につきあう男とのふわっとした恋愛ものがメリハリ付けやすそう。
敵対からの信頼がほしい。そしてもう一度裏切られてくれ。
(当初の、過程をすっ飛ばそうとしたことをもう忘れている)
(テーマを繰り返すの大好き)
せっかく異世界なのだから相手は人外だ。そういや一度も吸血鬼書いたことないな。でもガチだと行動に制限が出るから父が人間、母が吸血鬼にしよう。
ハーフとか混血って言葉はあまり合わないな。異なるものが合わさることで新しい価値観に。ハイブリッドだ。
あー、じゃあそれっぽい見た目がいいね。鴉のような濡れた黒髪に、青い瞳……、だけでは弱いな、星でも流してみようか……スカイブルーの流星の瞳、そして頬から胸にかけて刺青。
(ここで流星をいろんな言語で調べてみて、イタリア語のメテオラに決定。そこからルーチェの名前も決まりました)

これで本文作業に入りました。
正確には青騎士というワードを思い出したときには書き始めていたと思います。
なにも見切っていない。見切る対象すらそこにはない。
野球だったらピッチャーはまだ投げていないし、なんならキャッチャーとサイン交換だってしていない。
それでも1章は勢いで書ききったのですが、見切る前発車だった影響でしょう2章の推敲が本当に難産で、9章までのなかでいちばん苦労した章でした。

ラストが明確に決まっているわけではなく、登場人物がどうなるかもわからず、たとえばはじめは龍王というのは想定していなかったし、そのポジションにはテオリアが配置されていたし、あいだを取り持つために苦労したのは黒騎士だったし、フィオーレの子はテオリアとのあいだにうまれていました。
(その設定のままだとメテオラはテオリアの曾孫でもあった、と……)
この設定は7章「龍王の花嫁」を書き始めるころまで生きていたので、龍王を配置することに思い至ったときにはひやひやしました。さすがに齟齬が出そうだと。
(実際に修正したのは最序盤の魔王という言葉くらいでした。見落としはあるかもしれませんが……)

主人公ふたりについても、このふたりは本当に恋に落ちるのか……?と首を傾げながらの作業でした。
序盤やたらメテオラがべたべたしてくるのは、物語のなかで考えるとすんなり政庁へ連れていくためということになるのですが、実際のところはこのあたりの不安のあらわれなのではないかと思います。なんやよぉわからんけどとりあえずハグさせとこか。しらんけど。みたいな。
しかしルーチェは1ミリだって「ドキ……っ」みたいにならなくて、そこはもう……、メテオラが「んんんんんん?」って唸ってるときは、わたしも「んんんんんん?」って唸っていたし、本当に不憫で申し訳なかったです。
(わたしが普段書くようなお話なら1章終わりで一線こえててもおかしくない空気感なのに)


【エピソードで気を付けていたこと】
ラストは絶対にハピエン。
登場人物はたったひとりだって取りこぼさないくらいハピエン。メリバもだめ。
毎日読んでもらいやすいように、心に負荷がかかりにくい話にすること。
わたしの悪癖1位はムードだけで話を進めてしまうところ。それは絶対に封印。
エピソードをごりごりに積み重ねて、テンポでごり押し。
そしてとにかく明るく。
伏線や謎については、ラストで回収すると決めているもの以外はすぐに回収する。
そのあたりを心に定めて、あとは勢いでした。はじめから最後まで勢い。

各章のエピソードはルーチェとメテオラになにをさせたいかを軸に作っていきました。

・元騎士なら困ってる人を助けるはず(シロカネを助ける)
・メテオラは普段何してるん(エレジオを取り締まってる、けどいまは無断欠勤)
・メテオラに二面性ほしいね(特効薬はハイブリッドには効かない)
・取り締まられたらどうよ(ジャックに追われる、そして身バレ)
・飛べるなら飛びなよ(真夜中の空デート)

そんな感じで書いていたので、たとえば3章を書き始めたときには3章終わりまでのことしかわからないし、3章が終わっても4章の半分くらいまでしかよくわからない、という状態でした。
それが案外快適で楽しくて。この経験については今後も活かしたいというか、もうガチガチにプロットを作るのはやめようかなと思った次第です。

ただ、これ(あとがき)を書いている時点で、わたしはまだ一度も失態を通し読みしていないので、はたして一気読みに耐えうるものになっているのかどうか……。
そのうち悲鳴をあげていると思います。



【登場人物について】
以下、登場人物についてメモしておきます。
【】内は、拝借したイタリア語の和訳です。

◇ルーチェ【光】
23歳で殺されたのでいまも23歳。
感覚的に、実年齢よりもすこし上をイメージして書いていました。騎士学校で訓練をうけて、高い称号まで与えられ、実際に戦場に立った人なら、きっとメンタルが鍛えられ……て、いたのかなあ????
彼女の生い立ちであれば、もっと完璧なひとにする道もあったかと思うのですが、このお話の全体を考えたときには、他者からの助力をきちんと受けられる人にしたかった。それが嫌味にならない、人としての可愛げがある主人公になってほしかった。(そうなっているといいなあ)
お人好しがすぎて、終盤はほんとうに扱いに困りました。
あんたこの男に殺されてるんだよ?とわたしのほうが何度も悩みました。もうめちゃくちゃになるような取っ組み合いの喧嘩くらいしてくれと何度も試みたけれど、最終的にはテオリアの言葉が聞きたい、テオリアの心が知りたいに行きついてしまう。こらあきまへんわ。つきあいきれん。もう好きにしなはれ。
(わたしはこういう人物造形を勝手に陽の狂気と呼んでいます)
軍人に向いているような、向いていないような。でもどちらも備えていたから青騎士に任命されたのだろうとも思う。
彼女のやりかたは甘いのかもしれないけれど、それが通用する甘っちょろい世界でなにがいけないんだろう。
大切なひとを守るために騎士になった彼女の意志を貫けているといいなと思います。

◇メテオラ【流星】
25歳。実はルーチェより年上でした。
令和の世にも合うやわらかで軽やかな空気感の男にしよう。そのためにはいくらかチャラくなっても構わん、ゆけ、帳尻はあわせよう、という流れで生まれたひと。
流星の瞳はもちろん、大きな手とか、その手が冷たいとか、やわらかな声とか、作り笑いじゃないときにはちょっと紋様を歪めて笑ったりとか。たのむ読み手さんにどれか刺さってくれと祈りながら描写していました。
紋様については、ダークヒーロー物を書きたいと思ってあたためていたプロットの主人公から拝借。頬に蝶の刺青がある男。メテオラはほんとうに蝶にしてしまいました。そこまでするつもりはなかったのだけど、メルくんが勝手に剥いでくれた。めちゃ焦りました。
3章以外、なんやかんや怪我ばかりの流血ヒーロー。これはわたしの趣味。
いろいろと事情を抱えながらも、根本的には善良で、怯懦からではなく倫理観や理性の力で善悪の一線をこえないことを選べるひと。
3章終わりでの甘い香り、4章での蜜りんご運命発言、5章でのキスか負けか、6章での永遠の味方、7章でのどこか遠い街へ、8章での壜ぱりん、9章で示された新しい契約。はじめ余裕でルーチェを振り回していた男の化けの皮がどんどん剥がれていくのは、書いていてとてもいとしかった。
ルーチェの背中に関しては見たのではなく、抱えたときの感触ということです。

◇シロカネ
外見9歳くらい、推定90歳くらい。
退魔の刀ははじめシロカネの魂のうんぬんみたいにしようと思っていたので、名前もそれに寄せました。結局あずかりものになりましたが。
東西の文化が混ざった世界観がとても好きなのと、かわいいケモショタが欲しかったので生まれた子。
何度シロカネの明るさに救われたかわかりません。シロカネまじ天使。
これが乙女ゲーなら主人公の肩に乗っかって、ログインするたびログボくれるかわいいもふもふだったと思います。
うっかりするとシリアスになる場面をかならずポップなほうへ引き上げてくれました。だからこそシロカネの涙はほかの誰よりも書くのがつらかった。
毎日が楽しいこと、おいしいごはんを大好きなひとと食べること。それがシロカネの生きるということ。

◇テオリア【理論】
外見28歳。
物語の必要性から生まれた、わたしの手癖の極みのような男。書きやすくて困る。
シスコン。フィオーレに対しては過保護がすごい。
ルーチェに対しては、……作中で書いてあることがすべてです。(わたしにもよくわかりません)
もしフィオーレが聖女ではなく婿養子をむかえて家を継いでいたら、ルーチェがどこかの家へ嫁いでいたら、テオリアはいったいどちらについていったんだろう。
吐くほど悩んで悩んで悩んだ夜、庭でルーチェと出くわして、「来年も再来年も、その先もずっとこうやっておまえと肩を並べておなじ星空を眺めているんだろうな」ってめちゃくちゃ普通に言われて、だからおまえは嫌いだ!ってなればいいのに。けへへ。
姿はよいのでそれなりにモテますが、あの性格なので長続きしません。
あの性格さえなければ、それはもうスパダリもスパダリだったはず。なにもかもあの性格が……。
護衛の兵士たちのあいだでは新しい恋人ができるたびどれだけ続くか賭けのネタになっていそう。

◇フィオーレ【花】
外見23歳。
物語の必要性から生まれた、最強の存在。
老若男女問わず虜にするうつくしさと愛らしさ。わがままだってかわいげになる。ルーチェの一人称じゃないとなかなか書きづらかったかもしれない。
ねえさまが男のひとでフィオーレの恋人だったらよかったのにと、わりとずっと思っていた。従軍したころは、ねえさまが女だろうと男だろうとどちらでもいいから恋人ならよかったのに、まで進化していた。
姿と関係なく、自分を必要としてくれるひとを求めていたのかな。
(それならどうしてテオリアには冷たいのか。あれはあれで甘えてるのか……)
メルくんの嫌いなところを挙げ始めるとキリがないし、聞いてるひとにそれフィオーレもじゃんって思われちゃう。

◇コルダ【弦】
外見30代半ば。
メテオラの母親・宵闇姫ステラのことが好きすぎてカタギになった魔女。好きすぎてステラの話題になるとキャラ崩壊しちゃう。
基本的には本部の建物からほとんど出ません。森くらいには行く。なにか理由があるのかもしれないし、ただ出不精なだけかもしれない。
かつては龍王の配下のひとりだったけど、窮屈になって宮城に矢の雨を降らした。そして投獄。地上世界にあまり興味はなかったし特効薬なんてくそくらえだったけど、憧れの宵闇姫が地上に行ったと聞いてすぐに薬を打つ。
スティヴァーリ隊という名前がつく前からステラのもとでならず者をぶちのめしていた。
そんなわけでメテオラに対してはとても厳しい。

◇ソルジェンテ【泉】
28歳。
わりと早い段階からメテオラの幼馴染みを出そうとは考えていて、そういえばネイルの描写したから、それをしてくれてる子にしよう。
幼馴染みといえばピンク髪だろ。それならサキュバスだな。(思考時間1秒)
好みを詰め込みすぎて彼女が出てくる5章前半の初稿はとんでもなくとっ散らかりました。
姉が三人くらいいて、父は存在感がなく、母が最強というおうち。
家族や親族とちがって、わたしは種族にとらわれない生き方をする!と心に定めているので、恋人は5人までと決めている。

◇ディレット【楽しみ】
外見40代。
男性のキャラクターのなかでいちばんのお気に入り。
彼も元龍王配下。しかも最後まで龍王のそばにいたひと。黒騎士とかと交渉してたのも、もしかしたらディレットだったかもしれない。
とても仕事熱心で、勤勉。お客様、特にリピーターは大切に。という精神。

◇イナノメ
外見21歳。
もとは鬼神のごとく悪魔を斬り伏せていたひと。
長髪ポニテで眼帯という、なんだかド直球を書いてしまったな……と、手が震えた記憶。
たぶん死を待っていた。その念から無謀な戦い方をしていた。でも龍王の眷属になることでそれが出来なくなって、ふと故郷へ帰ってみた。そこで家族とはぐれて泣いてるシロカネと出会う。
はじめはうるさいし面倒だとしか思ってなかったけど、いつしか明日を心待ちにしながら眠りにつくようになり、シロカネとともに各地を転々とするように。
名前は、明くにかかる枕詞「いなのめの」から。

◇龍王メルクーリオ【水銀】
外見30代前半。
案外名前はひねりました。再生の象徴、そして実際の有害具合。略しやすいのも採用の決め手でした。
孤独と退屈でのたうち回っていたひと。
上でも書きましたが、物語の終盤に差し掛かってうまれたひとなので、ほかの人物とキャラが被らないように、ということには気を付けました。結果として誰とも被らなくてよかったです。
自由を得るためならフィオーレでなくてもよかったのでは?とルーチェは思っていたみたいですが、メルくんは普通にフィオーレが大好きです。
ああ、そういや聖女だった?くらいのノリで。
フィオーレのどこが好き?と聞いたら、ぼくしか知らないところ、とか答えそうなめんどくさい男です。あーはいはい、お幸せにね。

◇宵闇姫ステラ【夜】
年齢不詳。外見設定もありません。
メテオラの母。スティヴァーリ隊創設者で初代隊長。
夫とは任務の最中に知り合う。というか、助けた子どものうちのひとり。
そのときにすっかり恋に落ちてしまったメテオラ父は、懸命に勉強して家業の医者を継ぎ、ステラのもとへプロポーズに向かったとかなんとか。
たぶん何度もコルダに追い返されていると思われます。それでもめげずにご結婚。
なにをするにも家族一緒の仲のいいおうちだったんじゃないかな。メテオラを書いているとそう感じる。
手先が不器用なので夫の診療所は継げず。いまは薬学の知識をいかしたり、護身術を子どもたちに教えてたりだといいな。たまにメテオラも手伝う。
作中に出したかったなあ。無念。



【とても個人的な思い入れ】
久しぶりの長編完結となりました。ひとつ前に書いた長編となると「世界の終わりを君とおどる」で、これは2012年に書いたものなので、なんとまあ10年ぶり。
予定では2015年あたりには長編を書きあげていたはずなのですが、家族の事情や立て続けの引っ越しなどに体力精神力を割いていたため、小説にまわせるのは短編規模でいっぱいいっぱいでした。
なので、こうやって長編を完結させられたことが、ほんとうに嬉しいのです。
わたしはすぐ調子にのるので、来年のいまごろにもまたこうやって長編完結しましたとお話しできていたらいいなと考えています。



【後日譚について】
書きたいなあと考えています。考えているのですが、それを短編にするか長編にするかがまだ、覚悟が定まっていないという状況です。
具体的に打ち明けてしまうと、メテオラに「にいさん」と呼ばれるテオリアを書けなかったのがいまの最大の心残りなので、はたしてその熱量だけで後日譚が書けるかどうか、というところです。
せめてルーチェ以外の視点のお話だけでも、とふんわり考えつつ。たとえば冒頭へいたるまでのメテオラや、フィオーレに家出されたあとのテオリアとか。
しかしあまり気負うと書けないものですので、書けるときがきたら書く、という気持ちでいようと思っています。



【さいごに】
酔っ払いのようなあとがきをここまで読んでいただいたことに、まずは感謝もうしあげます。ありがとうございます。
そして「青騎士の失態」を読んでいただいたことに、深く、深く感謝いたしております。ほんとうにありがとうございます。
わたしがいたらないばかりに、読みづらいところや、繋がらない場面などが多々あったことと思います。もしこのお話を楽しんでいただけましたのなら、それは読者さまの読むお力のおかげだと思っています。
またの機会においてもみなさまとご縁が結ばれることを祈りつつ、まずはお話づくりに励むところからですね。

すべてのひとが自分の生き方を可能な限り選べる時代が訪れますよう願っております。

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