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『おっさん』非限定SS 「お盆」

『トマト畑』と同様に、こちらもタイトルはお盆《ぼん》ではなく、お盆《ぼいん》と読みます。
そうです。『トマト畑』の非限定SSのあとがきでも触れましたが……おぼいん祭りです! より正確には、おぼいんコンテストです!! 夏ですからね。やっぱり開放的なSSがいいですよね!!!

時系列としては第二章「渦中の街 イナカーン」に当たります。まだ第一章をお読みでない方はご注意くださいませ。

※非限定近況SSとは…本来はサポーター様限定公開のSSのうち、前後半、あるいは序中終盤のように数編に分かれていて、その最初の一編だけ公開したものになります。ただし、今回は限定近況SSの宣伝もかねているので、全ての読者に公開しております。この一話で完結した掌編です。


―――――


「また……この時期がやって来てしまったのか」

 イナカーンの街の冒険者ギルドでリンム・ゼロガードはそうこぼしながら一枚の羊皮紙を受け取った。一方で、受付嬢のパイ・トレランスはにっこりと笑みを浮かべる。

「はい。リンムさんには是非とも審査員《・・・》を務めてほしいと、お盆《ぼん》祭りを主催する商業ギルドからご指名で依頼《クエスト》が舞い込んでいます」
「なぜ……俺なのだろうか?」
「角《かど》が立たないからでしょう。この街には小さな依頼でもこつこつと、しっかりとこなしてくれるリンムさんに恩義を感じている人がたくさんいます」
「それはまあ、とてもありがたい話ではあるんだが……俺よりも適任者がいると思うのだが?」

 リンムはそう言って、依頼の載った羊皮紙に目を通した。

 そこには『イナカーンの街 お盆祭り おぼいんコンテスト!』なる祭事の詳細が記されていた。そのコンテストの審査員をリンムにやって欲しいという依頼だ。

 お盆とは本来、祖霊を祀る行事だったはずだが、本土《・・》にて長い年月を経て紆余曲折もあって、こちらの大陸ではいつしか……なぜか女性の|おぼいん《・・・・》を信奉する祭事となっていた。

 性的にはやや枯れてきたおっさんのリンムとはいえ、公《おおやけ》におぼいんを堪能して、自らの性癖《フェチ》を語って、さらにはおぼいんを上から目線で評価出来るとあって、普通ならば二つ返事で依頼を受けてもよいはずなのだが……

「うーん。どうしようかなあ」

 リンムの表情はどうにも曇りがちだった。

 というのも近年、王都で「女性だけが美人コンテストの対象になるのは差別である」という声が高まってきて、それならばと男性版のコンテストが始まったせいだ。

 そんな潮流はイナカーンの街にもついに届いて、結果的に毎年交互に男性と女性のコンテストをやることに決まった――つまり、リンムがこれほど嫌がっているということは、今年はよりによって野郎どものおぼいんを審美する祭事に当たるわけだ。

 だから、受付嬢のパイはいまだ煮え切らないリンムに対して滔々と説得を始める。

「適任者の件について言うならば、今年は例年よりも参加者が多様で、本来なら審査を任せたい人物も全員参加してしまったんです」
「元Aランク冒険者のオーラ・コンナーは?」
「参加です。しかも、優勝候補です」
「ならば……前回優勝したスグデス・ヤーナヤーツは?」
「今年は参加を見送っています」
「それなら、スグデスが審査員でいいのではないかね?」
「残念ながら、スグデスさんの関係者に当たるゲスデス・キンカスキーさんが参加しているので、審査員になると利益供与が疑われてしまいます」
「俺もオーラとは親しいから、利益供与とやらに当たると思うのだが?」
「そこはやっぱり、これまで培ってきた人徳ってやつですよ」

 受付嬢のパイはまたにこりと笑みを浮かべた。

「だったら、前々回のようにギルマスのウーゴ殿が審査員でよいのではないか?」
「今年はウーゴさんも参加するんです」
「何……だと? 目立つことを嫌う、ウーゴ殿が?」
「はい。今年はある人に勝ちたいと意気込んでいるぐらいですよ」
「ある人とは……?」
「神聖騎士団の副団長イケオディ・マクスキャリバーさんです。優勝候補のオーラさんの対抗馬と目されています」
「ほう。ところで、ギルマスのウーゴ殿と副団長のイケオディ殿との間には何かしら因縁でもあったのかね?」
「実は、私も詳しくは知らないのですが……ウーゴさんが近衛騎士の次席をやっていたときに何かしらあったんじゃないでしょうか? 二人はそれなりに親しいようですし」

 リンムは「ふむん」と肯いた。

 副団長イケオディの方がギルマスのウーゴよりも一回りほど年上のはずだが……たしかにここ冒険者ギルドでも二人でひそひそと内緒話をよくしていた。

 何にせよ、リンムは頭痛を抑えるかのように額に片手をやった。

「参加者は他に誰がいるんだい?」
「あとは、商業ギルドから鍛冶屋の――」
「まさかオヤジか?」
「いえ、前々回優勝者のオヤジさんは今回見送っています。その代わりにカージ兄《にい》……いえ、カージさんが出ます」
「…………」

 リンムはつい押し黙った。

 最悪、領都から戻ってきたばかりのカージに審査員役でも押し付けようかと思っていたところだ。これではたしかにリンムぐらいしか角が立たない人材が残っていない……

 ところで、ここまでリンムが嫌がるには、当然のことながら|相応の《・・・》理由がある――

 女性のおぼいんコンテストならば水着をつけて、壇上を歩いてもらって、ぼいんぼいんと揺れる、その豊穣さを称えれば済むのだが……男性となると話が若干異なってくる。

 まず、そのおぼいんの筋肉の堅牢さを確かめる為にリンムは野郎どもの胸に抱かれなくてはいけない。しかも、なぜか二本の上腕二頭筋にて首をギュッと絞められるというおまけつきである。

 鍛冶屋のカージ程度の筋肉ならばリンムも容易く堪えられるだろうが……それ以外の者となると窒息死しかねない。

 しかも、そんな触り具合による審査だけならばまだ堪えられるのだが……誰が考えたか知らないが、味覚まで試される。つまり、そのおぼいんの尖端《ちくびん》に滴るしょっぱさを堪能しなくてはいけないのだ。最早、ただの変態行為でしかない。

 最後にそれぞれの左胸に耳を当てて、美しき心音を聴覚でもって審査するのは……ここまでくると最早子供だましみたいなもので、何にせよそんなコンテストだからこそ、リンムは絶対に審査員役を避けたかった。

「なあ、パイよ。審査員は……むしろ女性でいいのではないかね?」

 リンムは一縷の望みでもってそう声を上げた。

 少なくとも女性が審査員ならば野郎どもは殺す勢いで首を絞めてはこないはずだ。それに女性の中に奇特な汗フェチでもいれば、まさに一石二鳥ではないか……

 が。

 パイはまたまたにこりと微笑を浮かべてみせる。

「もちろん、何人かに声をかけてみました」
「結果は?」
「まず、法国の第七聖女ティナ・セプタオラクル様ですが……リンムさんが参加するならば是非とも審査員をやりたいと仰っていました」
「な、ならば……今年は俺もコンテストに参加してみようかな」
「残念ながら、第七聖女と守護騎士となると、利益供与を疑われますので、私の方から丁重にお断りさせていただきました」
「くっ」
「次に、スーシーちゃんにも確認しましたが、どうやらスーシーちゃんはいわゆる美人コンテストそのものに嫌悪感を持っているようでして」
「まあ、スーシーはやや潔癖なところがあるからな」
「はい。どうせやるならば生まれたままの自然な姿――全裸でやるべきだと、むしろ過激なことを言っていたので、私の方で怒っておきました」
「…………」
「ついでに神聖騎士団の幹部のメイ・ゴーガッツさんとミツキ・マーチさんにも聞いてみたら、女性のコンテストだったら喜んで審査員をやりたいとの前向きな回答をいただきました」
「男性だと?」
「生理的に無理だそうです。そもそも、副団長のイケオディさんが参加なさっているのでこちらも利益供与を疑われます」
「……そうか。一応聞きたいのだが、他には?」
「当然、教会の女司祭のマリア・プリエステス様は聞くまでもなく無理ですし、ダークエルフのチャルさんにはそっけなく断られましたし、宿屋の元女将さんにも確認してみましたが……今年は腰がやけに痛いのでその日ぐらいはゆっくりと休みたいとのことでした」

 リンムは両手で顔を覆った。

 つまるところ、街の皆は体《てい》よくリンムに面倒事を押し付けたいだけなのだ……

 ……
 …………
 ……………………

 さて、数日後、男性によるおぼいんコンテストは実施された。

 その詳細については――さすがに作者的にもたまげた濃厚シーンはあまり描きたくないので、ここでいったん幕引きとなる。何かの機会があったときに描くかもしれないが……ちなみに優勝者は意外なことに、ギルマスのウーゴ・フィフライアーとなった。

 ウーゴの胸の尖端から滴るしょっぱさを堪能するリンムの姿は、永年にわたって語り継がれたとか何とか……

 リンム曰く、「意外に美味しかった」とのことだが……おそらく夏の暑さで頭がおかしくなってしまったのかもしれないし、もしかしたら本当に旨いのかもしれないし、ともあれ彼岸までやって来ていたはずのイナカーンの街の祖霊たちが満足したのならば、それで十分なのだろう。


―――――


というわけでおぼいん祭りでした……
ぼいんぼいんを描きたかった。『おっさん』ってもう色物作品ですよね……(´;ω;`)

2件のコメント

  • あ、作家さんが逃げた。おっさん×おっさんのシーンを描くことから逃げた。
    ……仮に書いてあっても読み飛ばしますけど。

    しかし、男性コンテストが触覚味覚聴覚で審査するなら、来年の女性コンテストでは……
    描いたらアウトですね。
  • お読みいただきありがとうございます! 逃げたのではありませぬ。回天です。これは戦略的撤退なのです。ちなみに女性のコンテストでは視覚以外の審査はありません。触覚とか聴覚とかまで駆使するのは男性だけです……なぜなんですかね?
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