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雨降りと真夜中の本屋 裏話


前回、推し語りに熱中してしまい、作品の話を全然してなかったので改めて。

ざっくり十年、ぼんやり考えてる話がありまして。
それに吸血鬼のラスボスが出てくるんですけど、ラスボスには姉がいて、ラスボスを倒すヒントを得る為に、主人公達は姉に会いにいく、みたいなのを本当にぼんやり。
その姉が、ミス・オールド。
設定だけの存在でしたが、今回短編を書く上で、ちょうど空いてる吸血鬼いたなと思い出し、まさかの妹より先の登場。
最初はオールド・ブレイクスミスだったりしましたが(で、子孫や知り合いからミセス・オールドと呼ばれてる)、某薔薇漫画のイケメンにどぼんした為に、お名前が変更になったと(後、オールドだけだと淋しいなってローズ付け足して)。
そいで、現代魔法少女もの書きたいと考えているのですが、その設定に、吸血鬼の涙を口にした人間は魔法が使えて、魔法使いを名乗ってる、みたいなのがあり、それも今回絡ませやした。
そっちも書ければ書きたいです。

今後の予定として、白熊と黒猫の短編集やりつつ、奇数月に一本、短編の投稿できたらと考えてます。
次のカクコンに向けての準備運動もとい、もしも書けなかった時の保険の為に。
なので一万字以内で書きたいのですが、以下の話は長くなりそうなので本編ではカット、しかしせっかく姉妹の話を書けたのでと、近況の方にて投稿させていただきました。

何となく考えてるミス・オールドの両親の話、
その後日談にして、
雨降り本屋の前日譚。

◆◆◆

 遠い遠い昔のこと。
 私の隣には妹がいて、私と彼女の手を引く女がいた。
 その女は母ではなく、私達の父に仕えていた女だったらしい。
 どういう関係なのか、深く考えたことはなく。
 女に手を引かれるまま、村から町へ、街から他国へと移動し、与えられるままに血を飲み、そして求められるまま涙を流す。

 私と妹は吸血鬼、そして女はただの人間。

 吸血鬼の流す涙は赤く、その涙には魔力が宿っている。
 吸血鬼自身で好きに魔力を使うことはほぼできないらしいけれど、人間が吸血鬼の涙を口にすると、自由自在に魔力を──いや魔法というのを使えるんだとか。
 魔法使い達に、吸血鬼の涙は高く売れるそうで、旅費を稼ぐ為に仕方なく涙を流せば、その必要がない女までよく泣いていた。
「申し訳ありません。私の涙が売れるならそうするのですが……」
 何の価値もない涙ではあったけど、宝石のように光る濡れた紫色の瞳はそれなりに綺麗で、女のことを思い出すと一番にそれが思い浮かぶ。
 私達は旅をしなければいけなかった。
「貴女方のお母様は、お父様を救う旅に出ているのです。……いつか、家族で幸せに暮らすことを夢みて」
 最初の頃は手紙を寄越してくれたらしい(全く記憶にないけれど)。
 それがいつからか届かなくなったから、私達は両親の行方を探すことになったと。
 両親の記憶はおろか、故郷の記憶もろくにない。
 暗い所に、私と、妹と、女がいたことだけしか。
 吸血鬼は狙われやすい。
 涙を、そして自由を。
 だから人目に付かないように隠れて暮らしていたけれど、そんな日々は、窮屈だったという感想しか残らず、一応素性を隠さなければいけなくても、色々な所に行って、色々なものを見れる日々は、心踊るものばかり。正直、記憶にもない両親のことはどうでもよかった。
 この楽しい日々がずっと続けばいいのにと願ってた。

 けれど、終わってしまった。

 女はただの人間で、気付いた時には皺だらけ、腰の曲がった老婆になっていた。
 ある日、寝転んだまま起きない女を妹と起こしていたら、掠れた声で「おわかれです」と告げられた。
「さいご、まで……おとも、したかったの、ですが……どうにも、できそうに……」
 私はその手を握るばかり、妹は自分の血を飲ませようとしていた。
 吸血鬼は、自分の血を人間に飲ませることで、吸血鬼に変化させることができる。
 妹は何としても女を救いたかったみたいだけど、女は最期の力でそれを拒んだ。
「……しねば、きっと、あなたに……」
 誰かの名前を口にして、女は息絶えた。
 妹がその後何をしても、駄目だった。
 妹は存外、女に懐いていたらしい。
 思えば、少し甘ったれた所のある妹を、女は時に求められるままに甘やかしていた。
 そういう時の妹は、とても嬉しそうで……。
 人は死んだら、埋めなければいけない。
 泣きながら死体にしがみつく妹を引き剥がすのは大変で、お互い、無駄に血を流してしまった。
 どうにか死体を埋めた時、妹は私を殺さんばかりに睨んでいた。
「まだ、死んだばかりなんだから、諦めなくても良かったのに!」
「……何を、言ってるの」
 どれだけ手を尽くしても意味はなかったのに。
「もっと早くに気付いていれば……ごめんなさい、母さん!」
「……」
 女は女でしかなく、母と思ったことはなかった。
『私は貴女方のお父様に仕えていた身。貴女方のお世話をするのは、私の使命なのです』
 そういうことを常日頃言っていたから、余計に。
 両親と再会すればお別れだとも言われていたし、それだけの関係と思っていた。
 妹はいつの間にか、女を母と慕っていたらしい。

 一週間か、それとも半月。
 妹と共に女の墓の傍で寝起きをしていたけれど、そろそろ旅に出たくなった。
 長い年月、女といて、旅の仕方は理解していた。
 女がいなくても大丈夫。
 妹に、いつ旅立つか訊ねた。
 ──それだけのことで、思いっきり殴られた。
「母さんを一人残すとかありえないから!」
 妹はもう、旅に出るつもりはないようだった。
 説得をすればすぐに殺し合いになり、それ以外の時間、妹は自分が住む為の家を建てていた。
「私達は両親の顔も知らない。唯一知っていた母さんも……いなくなった。目の前に現れても、もう、それが本当に両親かも分からないのに、それでも探すことに意味はあるの?」
 私は答えなかった。
 そもそも私はそんなこと、どうでもいいから。
「私はここで、母さんの墓を守る。……まだもう少し、傍にいたい」
 妹を説得するのは無理そうで、
「……なら、ここでお別れね」
 旅に戻りたい私はそう言った。
「……えぇ」
 妹が止めてくることはなかった。

 次の日、黙って行こうとした私を、妹は見送ってくれた。
「私が建ててる家、おっきいんだから」
「大変ね」
「大変だけどいいの。その分部屋もたくさん用意できるから。……だから、」
 妹は涙腺が緩い。
「淋しくなったら帰ってきて、オールドローズ」
 私も妹のことは言えない。
「そんな日、来るのかしらね、ノスタルジア」
 最後に長く抱擁を交わし、そして私達は別れた。

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