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◆詩1〜「重なりの奥」(2010.11.30)

わたしの心はかすみのよう、
どこまで深くいってもその奥は見えず
まるでたそがれの光の向こうにたなびく
黒い影のように そう
ただそれだけ

わたしの道はかすみのよう、まるで
なつかしい光たちが上からさそってもまだ、
たどりついたことのない階段のように
歩いても、どこにたどりつくのか分からない
それでも 変わらない道を歩いている
それはなぜなのか、だれも問わない
ただ、ただ それだけ


□ □ □ □

十三歳の頃の詩。当時の添えられた解説を参照するに、アルハンブラ宮殿から差し込む光、ライヤーの静かな音色を思い浮かべながら、Derry Air(ダニー・ボーイとして知られるアイルランド民謡)を下敷きに作ったようです。
はっきり覚えているのが、ある夕暮れの帰り道、この曲を頭に流しながらひとり歩いていると、心の眼に突然ぱっと、薔薇色の激しさを感じるほど美しい雲のたなびきを背景に、黒い人影のイメージが浮かんだことです。空想なのか、それともふとわたしの心に入り込んだ昔の人の幻影なのかはわかりませんが、その印象は鮮やかで、家に辿り着くやいなや、机に向かって書き上げたのが記憶に残っています。
このDerry Airは、その頃に読み込んでいた、英国の妖精学者キャサリン・ブリッグズ氏によると、どんな人間の言葉の歌詞もしっくりとこない不思議な旋律であることから、妖精のつくった曲だという説もあるようです。十三のわたしは、これは妖精にさらわれた人の歌であるという解釈をしました。自分が何者だったかも忘れ果て、ただただ歩き続ける、それだけ、という、切ないのに、光に満ちた印象の詩です。

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