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忌み子として処分された子供。千年後に再転生し無双する(仮)②

うん? ここはどこだ?
何だか暗いんだけど……。
えっ? 暗いのは目を閉じているせいだって?
ああ、なるほど……それじゃあ目をって。

――あ、痛たたたたっ……!
何だこれっ!?
死ぬ。死ねないらしいけど、何かに圧迫されて死ぬっ!?
何だかよくわからないんだけど、暗いし怖いし呼吸ができないっ!?
というより、粘性の水の中にいるみたいなんですけどっ!?

そんな苦痛に耐えていると、急に圧迫が治まり宙吊りにされてケツを叩かれる。

「――さあ声を出してっ!」

えっ? っていうか誰っ? 何やってんのって――ぎゃっ!?
何しやがるんだこの|●●●《ピー》めっ!
――ぎゃっ!?
止めて、もうケツを叩かないでっ!
――ぎゃっ!?
止めろって言ってんだろ! この|●●●《ピー》めっ!

「うえっ……」

あっ、何だか声が出た。声が出たからもうケツ叩くのを止めて下さい!
――ぎゃっ!?
止めろって、言ってんだろうがこの|●●●《ピー》で|●●●《ピー》な|●●●《ピー》めっ!

「おめでとうございます。元気な赤ちゃんが生まれましたよ!」

生まれましたよじゃねーよ。散々、ケツぶっ叩きやがって!
赤ちゃんの痛覚なめんなよっ!
大人の数倍あるんだからな。ケツが割れたらどーすんだっ!
えっ? 元々、割れてる?
それじゃあ、仕方がないか。
うえっ、しかし、何だか体がベタベタして気持ちが悪いな……。
体に付いた匂いも最悪だ。何か臭くね?

――うん? ちょっと待て……声は出ないけど思考はできる。

――と、いう事は?

もしかして、ボク……地獄よりも地獄見たいな世界に産み落とされてしまったってこと?
薄っすら目を開けてみるも、ぼんやりとした風景しか認識できない。
仕方がない。視覚野から情報を得るのは一旦諦めよう。
幸いなことに、閻魔大王に書類地獄に突き落とされた際、手に入れた知識により、人間たちが話す言葉は理解できる。

あれ?
そういえば、一緒にこの世界に転生した火の原初精霊はどこに行ったんだ?
感覚で辺りを探ってみると、近くに火の原初精霊がいることが分かる。
どうやら、ボクのことを守ってくれているみたいだ。
しかし、何だか存在が小さく感じるな……。
地獄にいた頃は、もっと大きい存在だったはずなんだけど。

宙吊りにしていた人間は、ボクのことをベッドに置くと、ボクを産んだ女性の下に戻っていく。

ああ、意外とまともな所に生まれることができたんだな。
しかし、どうやって地獄に戻ろうか。閻魔大王によると、ボクの体には不死性が付与されてしまった見たいだし……。
そんなことを考えていると、先ほど、ボクのことを宙吊りにしてケツを叩いた人間が素っ頓狂な声を上げた。

「た、大変ですっ!? 奥様のお腹の中に二人目の子が――」

へっ? 二人目?
双子だったってこと?

目まぐるしく変わる状況に、出産現場が慌ただしくなってくる。
そして、しばらく待っていると「おぎゃあ」という声が聞こえてきた。
どうやら、本当に双子だったようだ。
しかし、双子か……。そういえば、ボクの前世の死亡原因もそれだったような……。

それにしてもなんだか眠いな。
こんな状況にも係わらず、急に眠気が襲ってくる。

ダメだ。眠い。眠たすぎる。
一旦、眠ろう。ちょっとだけ眠ろう。

これが地獄と現世との違いか……。
急に眠気に襲われるなんて、恐ろしい世界だ。地獄ではそんなことなかったのに……。

その思考を最後に、ボクは危機的ピンチの中、意識を失った。

◇◆◇

由緒正しい伯爵家に生まれた二人の赤子を前に、男と老婆は話し合いをしていた。
男の名は、ジェン・インリード。老婆の名は、エリザベート・インリード。
インリード伯爵家の当主と祖母に当たる者である。

「まさか、忌み子が生まれるとはな……」
「畜生腹じゃ、畜生腹じゃ。だから、あの女は止めておけと言ったのじゃ」

畜生腹とは、動物が、一回に二匹以上の子を産む所から派生し、女性が一回の出産で二人以上の子供を産むことを罵った言葉。
今回、伯爵家に生まれたのは男と女の双生児。
この世界で男と女の双生児は、前世で心中した者の生まれかわりとして忌み嫌われていた。

「……そう言っても、産まれてしまったものは仕方がないだろう」
「ではどうするのじゃ。由緒正しいインリード伯爵家に生まれたのが忌み子だと知れたら大変なことになるぞ?」

老婆の懸念に男は少し考え込む。

「……仕方があるまい。忌み子は最初から産まれなかったことにする」
「それで、どちらの忌み子を残すのじゃ?」
「当然、男の方だ……家系を途絶えさせる訳にはいかないからな、可哀想だが、女の子は生まれなかったことにする。リーチェも納得してくれるだろう」
「ふむ……。まあ、それがいいじゃろ」

老婆はそう言ってほほ笑むと、赤子に視線を向けた。

◇◆◇

あー、やっぱりこうなったか……。
ボクの名前は、ステラ。ステラ・インリード伯爵家に生まれた忌み子だ。
なんで、ステラなのかって?
そんなことは決まっている。いつの間にか森に捨てられていたからだ。
捨てられたから、ステラ。自虐が利いていい名前だろう?

え? そんなことはないって?
というより、お前、女の子だったのかだって?
そうだよ。どこからどう見ても女の子だろ。
それも超絶可愛らしい地獄に帰りたい系女子だ。

そんな超絶可愛らしい地獄に帰りたい系女子が何をしているのかって?
そんなこと、決まっているだろ。

火の原初精霊、ファイア・オブ・プロメテウスに世話してもらっているんだよ。

ファイア・オブ・プロメテウス?
火の原初精霊の名前だよ。火の原初精霊なんて呼びにくいじゃないか。
プロメテウスは天界の火を盗んで人類にもたらした存在。今のボクが火の原初精霊に名付けるのにピッタリの名前だろ。現に閻魔大王からパクってきたんだし。
そんなことはどうでもいいんだよ。

こちとらまだ産まれたばかりの赤子だよ?
筋肉が発達していないから思うように動ける訳が……。と思ったら動けたわ。
それ所か二足歩行で歩けるみたいだわ。なんで?

ファイア・オブ・プロメテウスに視線を向けると、念話で教えてくれた。
どうやら閻魔大王が一度寝たら地獄にいた頃の体に戻るようセッティングしてくれたらしい。
普通は魂を母体に宿らせ転生させるが、ボクの場合、魂の強度が強過ぎて魂だけ転生させることができなかったとのことだ。
余計なことを……。
まあ、でも理解はできる。
地獄にいた頃の強靭な体じゃ産まれるのに苦労しそうだからね。主にボクを産む母体となった人が。
それこそ、メルエムしないと腹から出ることができなくなってしまう。
まあやらないけど。
それじゃあ、声も出せるのかな?

「あー、あー。テステス。あっ、喋れるわ。それじゃあ、ファイア・オブ・プロメテウス。ここにお湯を持ってきて」

そうお願いすると、ファイア・オブ・プロメテウスが薪と桶を持ってくる。

えっ?
何でそんな物を持っているのかって?
決まっているじゃん。パクってきたからだよ。実家から……。なんなら服もタオルもあるよ?
火の原初精霊であるファイア・オブ・プロメテウスはお願いに弱いからね。
実家から子育てに必要な物を取ってきてってお願いしたら、すぐに盗ってきてくれた。

ファイア・オブ・プロメテウスは桶にお湯を満たすと、ボクの前に桶を置く。
手をお湯に浸すと、丁度いい湯加減だった。
大体、百度位だろうか?
血の池地獄と比べるとかなり温いが、地獄生まれの新生児が浸かる温度としては丁度いい温度だ。

流石はファイア・オブ・プロメテウス。
ボクのことをよくわかっている。

えっ?
普通の子供が間に受けるから悪質な冗談言うのをやめろって?
いや、冗談じゃないし?
血の池地獄に浸かったことのあるボクなら余裕だし?
ならお前はあるのか?
血の池地獄に浸かったことがあるのか?
ないだろ。ないよな?
ボクはあるぞ?
それにフィクションかノンフィクションかも分からないような人なんて流石に……。
あれ、いるかもしれない?
じゃあ、この話は棚上げしておこう。

桶に張られたお湯にゆっくり浸かると、体の汚れを落としていく。
地獄にいた頃は、歓喜の声を上げる時以外、老廃物なんて体から出なかったからなんだか新鮮な気分だ。超面倒臭いとも言う。

しかし、困ったな。これからどうしよう。
閻魔大王の余計な茶々により地獄に戻るためには、勝手に付与された不死性を取り除く必要がある。しかし、現状、それを取り除く手段はない。

さて、どうしたものか……。

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