バカ昔話「桃太郎」
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが洗濯をしていると、川の上流から、大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
そうして、おばあさんは川に入っていって、桃を…
…っていうか、大きな桃って、…桃ってさ、ふつう片手で持てるくらいであって、大きな桃っていうと、まあメロンくらいだと「でけえー」って感じで、でもこの場合の「大きな桃」ってたぶん、特大のスイカくらいっていうイメージだよね。特大のスイカって、両手でようやく持てるくらいで、結構重いし、まあでも一人で持てないわけじゃないし、それが川上から今流れてきてるわけでしょ?っていうか、それ、見えてから、それを拾いに…拾いに?っていうかこの川ってどれくらい広いわけ?四万十川ほどじゃないでしょ?でも小川ってほどでもないわけで、えー、川幅、二十メートルくらい?それでいうと、真ん中くらいまで、十メートルは川の中に入って歩いていくわけでしょ?腰くらいまである?水?えっ、洗濯中なのに?腰まで着物びしょ濡れに?…まあいいか、濡れるだけだし、夏っていう設定なら凍え死ぬわけでもないし、じゃあいいよ、入るよ…っていうか結構、真ん中は流れ速くない?桃に気づいた時点で川に入ったとして、十メートル、川の中を歩くのに、何秒かかる?間に合うの?動いている点Pの時速を~キロとして…みたいな計算、間に合わなくない?っていうかもう決断の時は今なの?桃orNot桃は今?え、スイカ大の桃…まるまる一週間分のデザートだよね、おじいさんと分けてもね、美味しいと仮定するとかなりの得だよね、毎日桃三昧の今週とかイケてるし、下手すると桃の甘い香りの我が家になるじゃん?あー桃の匂いって好き…え、じゃ、やっぱ桃か、今桃か、今川に飛び出していってか、うっ、くそ、川底がさ、石ごつごつでさ、ぞうりが脱げないように気を付けないと危なっていうか、着物、水に浸かると動きにくっ…ってもう腰までまくりあげるか、誰も見てないしな、よし、何とか、桃に間に合う…
そうしておばあさんは、桃を拾いあげま…
あがんねーよ!!!
重いよ!!!スイカより中の密度が高けえんじゃねーの???え、っていうかまあ、でも水には浮いてるし、持ち上げなくてもこのまま引っ張っていくか、とりあえず浮かせたまま押していって…って、今は水が腰の高さだけど、うん、だんだん、浅瀬になるわけで、やがて、うん、ゴッて川底にぶつかるよね。やだ!桃が石にぶつかるとか、いたむじゃん!なんか茶色っぽくぐにゅぐにゅになるじゃん!まずい、雪だるまみたいに転がしていくわけにもいかないし、これ、でも、こっから、この足元から持ち上げるって、…ぜっっったい腰にくるじゃん。ぎっくり腰またやったらやばいじゃん。こんなとこで腰やられたら、川の中でぎっくり腰とかもう洗濯ものどころの話じゃないし、それで桃も流れていっちゃったらほんと目も当てられないじゃん。…桃はさ、逃げないんだから、腰が大事だよ。腰優先でいこうよ。…洗濯物の布でくるむ?そんで…あ、たらい!!たらいにいったん乗せればいいよね。そしたら川底にゴッてならないよね。うん、じゃあたらいを持ってきて…ん、…でもさ、スイカだったらさ、たらいをかたむけて、そっからゴロン!って、たらいに乗せられそうな気がするんだよね。でも、この桃、やっぱ、いたむのが嫌だから、ゴロン!をしたくないわけよ。…あ、そしたらさ、面倒だけどもう一回川の深い方へ持っていって、それで、浮かせつつ、たらいに入れればよくない?川の中で桃をたらいに乗せる作戦じゃない?これだ…、…ん、やっぱちょっと待てよ、たらい、川辺から持ってくる、たらい、水に浮く、桃と両方引っ張って川の真ん中行く、そこで、たらいを、…桃の下に潜り込ませる、…たらい、…沈む?いやこれ、沈まない?沈むよねえ、たらいぜんぶ水の中入れて桃をすくいあげて、…って、水入ってたら、沈む…いや、桃&水inたらいで、浅瀬まで持っては来れる、引っ張ってこれる…けど、水だけ、抜かないと、持てない。だってこのたらい、洗面器じゃないんだから、もっとでかいわけよ。赤子がすっぽり行水するくらいはでかいわけよ。それに満タンの水とか、何リットルって話だし、それって何キロって話だし、持てないじゃん。途中までは傾けて水を流しても、全部は無理じゃない?ただでさえ桃重いのに、水まで持てないよ。でも、どうする、スプーンみたいので汲み出す?いやいや、非効率的。…洗濯物?洗濯物を浸して、絞る?そういう水の汲み出し方?えー、どうなんだろ、…でも、たらい傾けたら、桃ゴロンって出ちゃわないかなあ、…たらいに穴?穴開いてればよくない?そっから水だけ抜けてけばいいじゃん。穴…あける?いや、キリとかないし、石で打ったりしても壊れるだろうし、あ、どっか隙間?…いや、一瞬桃持って、たらいの水捨てて、桃戻す?…いや、だから、一瞬でも片手で持てるような桃ならそもそも苦労してないじゃん。…え、おじいさん?山から呼ぶ?二人なら…たぶんいける。でも山まで呼びに行ってる間になくなっちゃうかもしれないし、遠いし、…っていうか若干、自分が桃について優先的に振るまいたいし、あくまで拾得者としてはおばあさん名義でこの桃を取り扱いたいわけで、おじいさんには「分けてあげる」というスタンスを崩したくないから、ここはおばあさんが家に持って帰りたいところなのよね。…背負うか。…洗濯物をおんぶひもみたいにして、背負う…たらいは必要ないけど、ぎっくり腰問題だけが残るな。あらかじめ背中の高さでしょった状態から歩くことは出来るけど、しゃがんでひもをセットして、立ち上がるところがやばいわけじゃん。で、桃を落としてほとんど食べらんないみたいな状態になるか、自分の腰かっていう一瞬の判断をせまられる可能性があるじゃん。そんとき、これ、もちろん腰ファーストではあるんだけどさ、でもこの機会をみすみす逃すっていやじゃない。だからたぶん、それゆえ、腰ファーストが崩れる危険性があるじゃん。…とするとやっぱり、腰問題を抱えずに、桃を抱えたい…。…あ、やっぱり川中か、もっと、もっと深い所で、あらかじめ背中の高さに桃が浮いていて、それでおんぶひもをセットして、それでそのまま浅瀬に歩き出せば、しゃがんだ状態から重いものを持って立ち上がるというリスクを冒さずに済むじゃん。…問題は、川中がそこまで深いかどうかなんだけど、さっきは腰までの高さで、どうかな、もっと向こうなら深い?でも背中と腰のあいだくらいならこの作戦いけそうじゃない?
…そうして四苦八苦の末、おばあさんは桃を拾いあげ、うちまで持って帰りました。
…そうして、おじいさんが割ってみると…
え、ちょっと待って、大きな桃を、食べようって時に、割る?ふつうまず、ちょっと皮をむいて、味見してみるよねえ。
…なに、もしかして、おじいさんと協議の末、なぜか最初から半分こにしようってことになったの?おばあさんが拾得者なのに?二分の一?ここまで運んできたのに?
…まあ、何か、今月洗濯ナシとか、いい条件が付いたならそれでもいいか。折り合いがついてるっていうならいいよ、半分こで。完全に最初から半分このほうが、食べ方とか、いろいろ、お互い文句つけずに扱えるもんね。それでいいかも。
…割ってみると、なんと、中から赤ん坊が出てきました。
まじでーーーーーーーーー!?!?!?!?
えっ、こちとらおばあさんだよ!?今からちょ、このおんぶひも、現役で?いや、そんなつもりない、桃が食べたかっただけ、…っていうか人間の赤ん坊が桃の中(種の中なのか?それとも種がくりぬかれて?)から出てくるってちょっと異様な光景じゃない?押し込んだの?トリックなの?それとも桃から自然発生的に?え、桃人間?やばくない?
…っていうか、これ、扶養義務?生じてる?
…お、男の子か…
んー…
その後、桃太郎と名付けた子どもは、すくすくと成長しました。
…ってか、成長すっごい早い。あれかな、おじいさんとおばあさんが死ぬ前に成人しようっていう魂胆だろうけど、いや、まあ助かるからいいんだけどね。
…って、いうか。
…結構イケメンだよね。イケメンな少年だよね。自分の子どもじゃないからさ、客観的に見れるし、血も繋がってないから、ちょっとくらいそういう目で見たっていいわけじゃん。親切で扶養してる立場なんだしさ。
…すごい、凛々しいよね。しかも、まっすぐでいい子だしね。「おばあさん」って呼びかけてくるのだけやめてほしいけどね。おじいさんがそう呼ぶからしょうがないのかもしれないけど、っていうか、昔でいうおばあさんって、そんな年寄りじゃないからね。下手すると、孫はいるけどまだアラフォーとか、ざらだろうしね。っていうかアラフォーなんだよね。だからそんな、十五歳くらいの見た目で、凛々しい顔で剣なんか振って、「ぼく、きびだんごが好きです」とか、かなり目の保養なんだよね。「え、そう?じゃあまた作るね」とか言っちゃって、ごめん、おじいさんには作る気しないんだけど、桃太郎のためなら作ってもいいわ。
そして桃太郎は、鬼ヶ島に鬼退治に行くと言いました。
えっ…
まじで?
鬼とか…あんたに何の関係があるの?えっ、ヒーロー目指してる系ってこと?いや、まあ、別にいいけどさ。気を付けてね?
…えー、すごい、年頃になって、そろそろ恋人とか…っていうか、男友達とか…男友達の恋人とか…出来るの楽しみにしてたのに…
…バディものでヒーローやらない?一人で行くの?えー残念だわー…またおじいさんと二人暮らしかー…
そして桃太郎は鬼を退治し、財宝を持って帰ってきました。
ええーーーー絶対死んだと思ってた!!鬼とかにかなうわけないじゃん!いや、良かったけど…その財宝、ちょっとくれたりする?誰かが鬼にぶんどられた財宝だよねそれ…っていうか、鬼、それ何に使うとこだったんだろうね。食べ物や酒ならともかく、財宝って鬼的にも価値があるのかね。あるか、鬼同士の抗争で、自分たちがどんだけ人間から何かをぶんどったか、っていう強さの目安になるもんね。抑止力にもなるかもしれないよね。
…いやそんなことはどうでもよくて、いや、今まで扶養した分くらいはもらってもいいと思うんだけど、
…犬、サル、キジだよね。
喋ってるしね。
いや、こっちはわかんないよ?ワンワン、キーキーしか聞こえないよ。…たぶん、桃人間だからでしょ?動物とも話せるんだ…うん、いいと思う。そういうの、いいと思う。慕われてるしね。良かったよほんと、友達いないからさ、心配だったし。
…でもその三匹いたら、男の恋人できにくくないかな。どうかな。いや、むしろ動物好きのピュアな少年とか、寄ってこないかな。
…探してこなきゃか。
これまでは謎の少年だったけど、とりあえず鬼退治して社会貢献してるし、イケメンだし、動物と話せるし、取りようによっては、すっごいポイント高いともいえるじゃん?出自はわかんないけど…人間かどうかも微妙だけど…でもイケメンだし。
…財宝の返還申請もあるし、ちょっと出かけて、いい感じの友達候補を見繕ってくるか。
…え、ちょっと、橋渡ってるけどさ、川上から、何か流れてきてない?何だろうあれ、え、マンゴー!?すっごい大きなマンゴーじゃない?マンゴーすごい好きなんだけど…、…え、まさか、マンゴー太郎出てくる!?成長早いから、桃太郎とくっつけられる!?っていうか、マンゴー太郎が生まれた時から桃太郎が世話してて、そっから同い年くらいになるシチュエーションて、え、どうなんだろう、萌えなのかな、自分で育てたような少年が同い年になって「お慕いしておりました」とか…も、桃太郎は受け止められるのかな、「ぼくがおむつを替えてやったのに、そんな風には思えないよ…」とか言い出さないかな…秘密にする?しばらくは秘密にして、もう少し少年になってから引きあわせるか?それとも桃太郎の趣味を聞いてから?それとなく年上好きか年下好きか確かめてから?おばあさん、どうする?…あっ、でも早くしないとマンゴーが流れていく…!!!
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ここまで読んだ方、貴重なお時間をどうも、申し訳ありませんでした…。
仕事が嫌でなぜかふいに、「桃を拾うっていっても、そう簡単にはいかなくないか?」と思い…そこから書き始めてしまい…
いやほんと、すみません…仕事します…