天海は、老いた体に鞭打ち積極的に現場へ出向き、江戸の結界づくりに勤しんでいた。その疲れを癒すように浅草寺の御堂にて仏と向き合っていた。障子から透かし入る月明かりの中、蝋燭を五芒星に形どりその中心で瞑想に耽っていた。思っている以上に疲れていたのか、睡魔に襲われた。火事を起こさぬよう蝋燭の火を消そうと立ち上がろうとすると首から下が動かないではないか。
ああ、歳は取りたくないものよ、と心の中で囁きながら、緊張を解きほぐすため、幾度か鼻から大きく胸に空気を吸い込み、唇を尖らせゆっくりと吐いた。これは金縛りではないのか。体に異変が起きたのか。不安になりながら、蝋燭の炎に眼をやるとす~と消えた。背後の炎も堂内の明かりの具合から消えているのが分かった。闇に蝋燭の炎が消えた道筋を示すように白煙が龍の如く天井へと舞い上がって見えた。