このネタは。
作者久遠が盛大なあほをやらかしたため。
謝罪の代わりに、ハインツとフィディールに。
「来いよ、クレバーに抱いてやる」
と言わせることになった話です。
ギ ャ グ 1 0 0 % で お 送 り し て お り ま す 。
*
「……それで、なんでお前はその格好なんだ?」
長い金髪をうなじのあたりで一房束ねた青年が三十路手前の黒髪の男に問う。
「ああ、なんか、今回はこの格好でやれって。だからお前も長袖の白いシャツに黒のスラックスなんだろ」
「いや、そうなんだが、そうじゃなくて。僕が言いたいのは――」
そう言いながらフィディールはハインツの格好を再度見直した。
清潔な白い長袖のシャツに黒いスラックス。正装や窮屈な格好が苦手なこの男がだらしなくシャツを出して、第一ボタンを外すのはわかる。わかるのだが。
「……なんで、ボタン全部外して肌さらしているんだ?」
外されたボタンの隙間から見える、鍛え抜かれたハインツの胸板を一瞥した後、フィディールは半眼で告げる。
「台詞が台詞だし、迷惑かけた詫び。お前も全部とは言わねぇから、適当に第三ボタンぐらいまで外して、その不健康な白い肌、表にさらしとけ」
「断る」
「即答かよ。っていうか、お前微妙に着心地悪そうだな。この格好、お前の私服と大差ないだろうに」
「普段は素肌の上に直接ワイシャツ着るなんてことしないからな。どうにもすーすーするっていうか……」
言いながらフィディールは両腕を寒そうにさすった。
すると、フィディールの隣にいた栗色の髪に湖色の青年――オズウェルが当たり前のような顔をして言い放つ。
「え、僕、普通に寒いから下に一枚Tシャツ着ましたけど」
「趣旨をわかってねぇオズは、フィディールの真面目さ見習ってその下のTシャツ脱いで来い。あるいはこの場で脱ぐっていう選択も可」
「なんですかそれ!?」
驚いたように叫ぶオズウェルを無視して、ハインツは自分の隣にいるとび色の髪の女性を見た。
「しかしカヤ」
「なんですか?」
ハインツはカヤの姿を上から下まで眺め、一言。
「……お前の格好、目に毒だね」
「文句は作者に言ってください」
他と同じように長袖の白いシャツ一枚に、黒いスラックスをはいたカヤ。きっちりと白いシャツをスラックスの内側に入れているせいなのか、出るとこが出ているのが丸わかりだ。特に胸。
「ちなみに確認するが、それってシャツの下は――」
「当然オズ君と同じで着ていますけど、何か文句が?」
「……ありません」
粛々と答えてくるハインツは心なしか残念そうだ。
「それで、僕事情も何も聞かされてないんですけど、なんでこの四人が集まることになったんですか? ハーゼンクレヴァとティアじゃなくて」
「以前、この本当にどうしようもないほど馬鹿な作者が「フィディールとルーシーちゃんの共通項目はなんでしょう? 正答者には例の台詞を言わせます。女子でも言わせます」とか無責任なことを言ったんだ。で、その後「いや、これはさすがにそれは調子に乗りすぎっていうか、誰もこんなん参加しないよ(セルフ嘲笑)」って思って、昼ごろに文面削除して取りやめたんだが――」
「話の流れが読めました。既に読んでいた方々が正答を提出してしまった、と」
「そこまでならぎりぎりアウト手前のセーフってことで良かったんだが、複数回答を想定していなかった上に、とんだ勘違い旋風を巻き起こして各方面に迷惑かけまくったんだ。救いようのないアホだな、こいつ」
「お前に言われるなんて相当だな」
「つまり、私たちはその尻拭いをさせられている、と」
「そういうわけだ。親の火遊びは子供がきっちり責任を取るっていうのが決まりだからな」
「逆じゃないのかそれ……」
「つーわけで、一カメ準備!」
びしっとハインツが明後日の方向を指さすと、どこからともなくするするとカメラが降りてくる。
「……二人とも、何もないところから勝手に紐付きカメラが降りてきた件について何か言ったら駄目だと思うか?」
「駄目ではないですけど、この場は我慢してください、フィディール」
「っていうか、僕らってそもそもどこにいるんですか?」
「それは僕が聞きたい……」
「うっせーぞ外野!」
ハインツが後ろ手に三人を指さす。
それから、ハインツは前髪を掻き揚げ、武骨な手を正面に差し出しした。
微笑みながら艶のある低い声で愛しげに囁くように。
「……来いよ、クレバーに抱いてやる」
……深海よりも深い、深すぎるほどの沈黙が落ちた。
真顔でフィディールが隣のカヤに聞いた。
「……女性としてどう思う、カヤ」
「そうですね。私は普段の隊長を見てますので、色気もときめきも一切感じませんね。白々しいとしか言いようがないと言いましょうか。点数もあげられないどころかマイナスです。そういうフィディールは?」
「なんていうかあの台詞をポーズ決めながら恥ずかしげもなく言ってのけるあいつの神経を疑う。端的に言えば寒気と怖気が走る」
「ガチの反応傷つくぅっ!!」
顔面に両手を当ててさめざめと泣くハインツ。
焦った風にオズウェルが慰めの言葉をかける。
「大丈夫ですよ隊長! い、色気とかそういうのきっと出てましたから!」
「おっ前、そういうとこホントいい奴だよな!? お前とアメーリエぐらいなもんだよ、気遣っていたわってくれる奴はよ……。あいつらなんであんなに辛辣なわけ? 愛情の裏返しとかそういうレベルじゃねぇよ」
「それはきっと隊長ならきっと傷ついても立ち直ると信じているとか、そ、そう! いわゆる愛のなせる業――」
「――オズウェル、それ以上は気色悪いからやめろ」
「ホントガチの反応傷つくぅっ!! つか文句言うならフィディールお前がやってみろよ!」
急に話題を振られたフィディールが冷たい視線でハインツを射抜く。
「はぁ? 誰がそんな台詞言――」
「おぉっと、「誰がそんな台詞言うか」とは言わせねぇ。今回の件は最初から最後まであの作者に責任があるんだからな。それなら、この場で一番地位の高い執政官様が直々に言ってこそ、謝罪の価値があるってなもんだろ」
「っ!」
フィディールが口の端をひきつらせながら、忌々しそうにハインツを睨みつける。
「……カヤさん、今の隊長の台詞って謝罪の台詞でしたっけ」
「謝罪ではないですけど、世の中にはあの台詞を言われて喜ぶ女性がいるようですので。そこは突っ込まない方が無難ですよ」
「はぁ」
絶対にわかっているとは思えない生返事をオズウェルが返してくる。
フィディールが鋭い視線をハインツに向けた。
「今回の件、謝罪する必要があるというのは僕も同感だ。だが、それなら「申し訳ありませんでした」と素直に言えばいいだけの話だろう! どうしてそんな台詞を言う必要がある!」
「謝罪で済んだら警備隊と治安委員会はいらねぇんだよ! やり直すには遅すぎる! そうじゃねぇのか!?」
「な――」
フィディールが愕然を瞳を見開いたまま言葉を失う。
やはりカヤに真顔で聞いたのはオズウェルだった。
「カヤさん、今の隊長の台詞って大丈夫なんですか?」
「そうですね。アウトいっぱいぎりぎり内角セーフボールということで」
「すみません。意味がわかりませんでした」
そんな観客のやり取りを余所に、二人の応酬は続く。
「この作者、あの無責任な発言した時「そういえばフィディールがこの台詞をどういうか考えてないや。まぁ、いいや。多分、兄貴で決まりだろうから。あるいは女子キャラでもOKって言ったから、カヤさん指名してくる可能性も大きいだろうし」――なんていうお気楽ご気楽の頂点を極めたような考え持ってたんだぜ? 今頃、想定外のお前にご指名もらって苦しんでるぞ。ざまあみろ、あの作者。常日頃からオレをコメント欄外で呼び出して吊るしてるからこうなるんだ」
「それと僕が今この台詞を言うことは無関係だろう!?」
「オレ様を差し置いてコメント欄で支持されまくってるお前も同罪だ同罪! つか、実際お前今まで説教されたり叫ばれたことあっても、吊るされたこと一度もねぇじゃねぇか! えこひいきだろ!!」
「なんだその無茶苦茶な理論!?」
「ほれほれほれ。さくっと言ってみろや。ん? んん? まさか執政官様ともあろうお方がこの程度の台詞、恥ずかしくて言えねぇとは言わねぇよなぁ?」
「この……っ!」
羞恥心なのか怒りなのかわからない感情で頬を朱に染めるフィディール。
長身のハインツを下から苛烈に睨みつけているが、強がっているようにしか見えない以上、効果は薄いだろう。
「カヤさん。なんだか今日の隊長、ものすごくいきいきしてますね」
「生来、人様をからかって遊ぶのが大好きなタイプですからね。加えて言えば、性格は結構、鬼なところありますし」
「んー? どーしたのかね、お子ちゃま執政官殿?」
わざとらしくにやにやと笑いながら挑発するハインツ。
「……いつか殺す」
フィディールが俯きながら小声でぼそりと呟く。その拳は怒りでふるふると微かに震えていた。
「なんだってー?」
聞こえているだろうに、耳に手を当ててハインツがわざわざ聞き返す。
さすがに見かねたのか、カヤがすっとフィディールの方に一歩近づき。
「――今回は黙ってろよー、カヤ。フィディールも部下――しかも年上とはいえ女に助けてもらうとは情けないと思わねぇのか」
「……隊長、フィディールを挑発するのはやめてください」
どこまで本気かわからないハインツの発言にカヤが深々とため息を吐き出す。
しかし、そこは売り言葉に買い言葉。そこまで言われて黙っていられるフィディールでもなく。
「言えばいいんだろう言えば!」
「あー……」
フィディールのヤケクソ混じりの返答に、オズウェルが嘆きの声のようなものを発する。
嬉々として飛びついたのはハインツだった。
「おっし、そうこなくっちゃな執政官」
「とっととこんなくだらない舞台、幕引きにしてやる」
「言っておくが、オレにその台詞を言ったところで意味ねぇからな。そこは、カメラ目線でばっちり決めろよ」
「は!? お前じゃあるまいし、誰がそんな寒々しいことするか!」
「あと、やけくそ交じりに乱暴に言うのも禁止。しっかり女口説き落とすつもりでやれよー。それぐらいやってみせるよな? フィディール執政官殿?」
「……言ってろ!」
吐き捨ててから、フィディールが足音荒くカメラの方に近づく。
しかし踏ん切りがつかないのか、立ったまま中々台詞を言おうとしない。
そこへハインツの野次が飛ぶ。
「いい加減腹くくれー」
「うるさい!」
そう怒鳴り散らすフィディール。
なかなか覚悟を決めきれない彼の方に進み出たのはやはりカヤだった。
「おいおいカヤ?」
「別にフィディールの代わりに例の台詞を言って終わらせようと言うつもりはありませんよ。ただ、お相手役になりましょうか、と提案しに行くだけです」
「相手役?」
「役者もそうですが、相手がいる方が興が乗るということもあるでしょう?」
「まあ、そらそうかもしれないが……」
「フィディールにこの台詞を言わせたいのなら、このぐらい別にいいのでは?」
あくまで双方の立場と言い分を把握した上での上手い落としどころだとハインツは思った。
ハインツが片手をあげて了承すれば、カヤが早足でフィディールの前に立つ。
「というわけで、どうぞ」
「どうぞって……」
フィディールがどこか困った風にカヤを見やる。
そんな彼をたしなめるように、カヤが遠慮気味に声をかけてくる。
「誰もいないところに手を差し伸べてあの台詞を言うよりはマシだと思うんですが」
「まぁ……あれは確かに見ていて痛々しすぎると思った」
「でしょう?」
「おーまーえーらーなー」
「……言いたいこともあると思うんですけど落ち着いてください隊長」
そうオズウェルが苦笑いを浮かべた後、各々口を閉ざす。
フィディールが逡巡するように視線を逸らす。彼は思い悩むように目をつむった後、意を決したように瞼を開き――それでも、強引さとは程遠い、どこか切なげにも見える表情で、すっと細い手を静かに伸ばした。
眉を少し下げながら、その台詞とは真逆の懇願のような響きを持って。
「……来いよ、クレバーに抱いてやるから」
きゅん。
「え、今の効果音誰の?」
「え、僕何も聞こえませんでしたけど」
ハインツが聞き違いでもしたように声を上げ、オズウェルが答える。
それから待つことしばらく。いたたまれないように沈黙を割ったのはフィディールだった。
「カヤ、何か言ってくれ……無反応はつらい」
恥ずかしさとは異なる、今にも消え入りたいような様子でカヤから顔を背けるフィディール。
すると、おもむろにカヤが口を開いた。
「――隊長」
「おう?」
「今のフィディールの台詞を聞いて、思わず優しく微笑みながら「あなたに抱いていただけるなら、喜んで」と手を握り返したくなった場合はどうすればいいでしょうか」
「え」
「は?」
オズウェルとハインツが同時に声を上げる。フィディールも驚いたように瞳を見開いていた。
真っ先にわめいたのはハインツだった。
「お前、さっきオレの時は散々な言いようだったじゃねぇか!」
「隊長ですと白々しいことこの上ないんですが、こう……強気に見せかけて懇願するように手を差し出してくるフィディールを見てますと…その、なんと言いましょうか。こんな風にお願いされたら、抱かれてあげてもいいかな、と、うっかり思ってしまった――というより、抱かれてあげたいな、と思いまして」
「なんだそれ!?」
「そう言われましても、雰囲気的にこういう感じの男性は、女性の嫌がることはまずしないでしょうし、きっと優しくしてもらえるだろうな、とか、この人なら自分を大事にしてくれるんじゃないかな、みたいな淡い期待さえ抱いてしまいそうになるというか。もちろん、私の勝手な意見ですけど」
「待て! ただでさえ本編の第六楽章あたりでオレら三名の関係って結局どうなってるんだって疑われてる節があるのに、これ以上話をややこしくするようなこと言うんじゃねぇ! つか、前々から思ってたが、カヤお前、オレとフィディールのどっちが好きなんだよ!」
「そんなのもちろん――」
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そんな重大情報ここで発表するんじゃねぇ! そういうのは本編でやれ本編で! 答えによっちゃ、オレ真面目にこの仕事降りっからな!?」
………………………………………………………ほんとうにたいへんなことになりました(茫然)
まだ続くらしいんですけど……ついでに言えばオズが「えっと、カヤさんって年下も守備範囲でしたっけ?」とか言い出してさらにカオスなことに……もうお前ら本編放置でいいよ……一生ギャグ小説の住人でいればいいんだよ…。