※※※基本ネタばれ全開です。※※※
2021年の邦画。天涯孤独の男が、『家族』を得、それに尽くし、時代に呑まれて失っていく。
綾野剛を観たくて視聴。綾野剛映画としては過去イチであった。ヤクザ姿が決まっていること決まっていること。演技も大変よいものであった。この方の感情を湛えている演技がほんとうに好きだ。加えてヤクザのかっちりした態度から子犬のような隙だらけの態度まで繰り出してくるのでギャップでやられる。
一方映画そのものの出来を語ることは難しく感じる。テンポもキャラクター造形も程よかったので楽しく観ることはできたのだが、著しく琴線に触れてくる映画だったのかというとそうではなかったのだ。
理由は結構明白で、いったい何の話をしているのか、正確にいえばなんの寓話として語られているのかということがわからなかったからだ。テーマがよくわからなかった、というのがいちばん通りがよいか。暴力団なんか入らなければよかったね、で大まかな感想が終わってしまう。自身の読解力の低さや、「一貫したテーマが設定されている」ということに対して過剰に点数をつけてしまう癖のせいではある。
ただ、シンプルにヤクザ映画として捉えると栄枯盛衰がこのジャンルの華だし、これ自体がテーマとも言えるのだろう。この視点で語れば、暴力以外解決手段を知らないが故にすべてを失っていく男の哀しさを見事に描いていたと思う。
ほかにもよかった点で言えばオープニングクレジットの入りで、賢治が男泣きを見せたと思ったら場面が急に親子盃を交わす儀式に飛んだ瞬間はかっこよくて痺れた。それに、川山の殺害へ向かうシーンのカットバックはとても切れ味が鋭い映像でよかった。
結局この映画で感動しきれなかったのは、結論がきちんとかみ砕けなかったからだと思う。賢治にとって『ヤクザ』とはなんだったのか? 『家族』とはなんだったのか? どちらもよくわからずじまいだったのだ。
まず、『ヤクザ』が賢治の『家族』だとはあまり思えなかった。賢治と組長の関係描写があまり濃くないのである。暴力団員の父を憎んでいた賢治が数年後ヤクザに染まっているというならば、考え方が変わるほどヤクザに暖かく受け入れられたという描写があってもよかったのではないかと思う。
その一方で、血縁のある『家族』を大切にしきったとも思えない。前科者の縁者として迫害を受けた由香とその娘だが、賢治がヤクザはおろか警察官まで殺めてしまったとなれば更なる叱責を受けることは想像に難くない。この行動は果たして『家族』の為を思えているのだろうか? 汚職警官に天誅! みたいなノリで扱われているのかもしれないが、それもそれでどうなのかと思う。
物語に綺麗な構図とかないのでパーツパーツを語らざるを得ず、大変感想が書きにくい映画であった。言語化の訓練にはおすすめかもしれない。