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映画視聴記録/『評決のとき』

※※※基本ネタばれ全開です。※※※


 1996年の米映画。娘を強姦された黒人の父親が犯人を射殺。彼を弁護することになった新米弁護士ジェイクは、白人至上主義団体の度を越した妨害に遭いつつも、無罪を勝ち取るため奮闘する。

 部分部分には惹かれる要素があったものの、それを上回る展開の鈍さ、冴えなさがしんどい映画だった。149分は絶対要らない。

 俳優陣の豪華さ(たぶん豪華なんだと思う)はぱっと挙がる長所だろう。割かし若く見えるサミュエル・L・ジャクソン、いつもこんな感じに見えるケヴィン・スペイシー、絶対どっかで見たと思った顔はキファー・サザーランドだった。マシュー・マコノヒーのハンサムぶりたらない。豪華だというだけでなく、彼らの演技は冴えない脚本を数段底上げすることに成功している。

 本作は人種差別問題を扱っているが、「表面上は取り繕っていても、我々(白人)には差別的な考えがどうしても残っている」ということを真正面から描いたのは美点と言ってもよいのではないだろうか。主人公ジェイクがこれを認めて向き合ったことで陪審員もまた同様の気づきを得、一転無罪判決を出す流れはカタルシスとメッセージ性がきれいに調和していると思う。

 いちばんよいと感じた点は、主人公の動機がしっかり形成されている点だった。報復殺人をしたカール・リーの弁護を引き受けたジェイクは、KKKに家を燃やされたりするが決して屈しない。屈したら話が終わるので屈しない理由が必要になるが、本作では自発的な理由付けがされている。ジェイクは事件前にカール・リーから犯行を仄めかされていたが、娘を持つ彼はこれを黙認したのだ。この行為を彼は「共犯だ」と捉えており、カール・リーの弁護をすることは自己弁護することも同意なのである、という理由付けはかなりの説得力があった。

 ここから先は文句である。

 まず、全体的に冗長である。前述のとおりKKKが妨害工作をしてくるわけだが、何度もしつこくその描写が入る。そのうち数度は同じ結果をもたらすだけなので、「さっきその話しましたよね?」という気持ちになってしまった。

 次に、本作は所謂「法廷バトル」ではない点。法廷が舞台ということで、法律知識に基づいた舌戦を無意識に期待していたが、そんなものはどこにもなかった。法廷で争われるのは証人の信用問題ばかりではっきりしょうもない。巻き添えを食った保安官が検察側の証人として呼ばれるも、ジェイクの審問を受けてカール・リーを擁護する内心を吐露した場面はよかったけれども。

 類似した問題点となるが、弁護士としてのジェイクに魅力を感じない点。いっくら新米弁護士だからといって判例すら調べずに裁判に挑むのはありえないでしょ。このシーン、サンドラ・ブロック演じるヒロイン、ロアークが判例を提示してジェイクの危機を救うというものなのだが、ロアークの存在感のために結果としてジェイクの株が下がるという本末転倒ぶり。そのジェイクがロアークの手伝いを必要ないなんて抜かすのはどの口が言うんだとしか感じられないものだった。

 本作はかなり後味さっぱりふうに終幕するのだが、よくよく考えると「めでたしめでたしで終われないよね」という気がしてくる。ジェイクの法律事務所には事務員がひとりいるのだが、彼女はKKKの妨害工作に巻き込まれ夫を亡くしてしまう。彼女がジェイクに対して弁護を引き受けた影響を考えなかったことを静かに糾弾するシーンはよいのだが、カール・リーの無罪判決がでたあとそのことに触れられることはない。

 また、KKKのメンバーが殺害されているのも大きな心残りである。カール・リーの無罪放免を訴える団体とKKKが衝突してしまい、その結果KKKメンバーひとりが焼死してしまうのだが、そのことは特に大きくは扱われないのである。差別主義者は差別していいということか? それはさておいても、強姦犯ふたりを殺された報復に人殺しだの放火だのやってのけてしまうんだから、団体のメンバーを殺されたなんていったらもっと手に負えなくなってしまうことが想像に難くない。そんな中でカール・リーを無罪放免にしてしまってよいものなんだろうか……。

 そもそも無罪放免というのがおかしいのである。カール・リーは(表向きとはいえ)心神喪失で無罪となったんだから放免にできるとは思えないし、そのことは作中、検察証人の精神鑑定医の心証を悪くするトリックで指摘しているのだ。この医師は別の事件で被告人の心神喪失を否定したが、その後の再鑑定で心神喪失が認められ、その被告人はこの医師が院長を務める精神病院に収容された、という過去があり、心神喪失を否定したのに患者として受け入れているのは矛盾している、という指摘をもって心証を悪くするというトリックなのだが、彼自身が心神喪失を否定したこととその後の再鑑定の結果が裁判で採用されたことには全く関係がないだろとか諸々の突っ込みはおいておくとしても、心神喪失すなわち無罪放免ではないというのを自覚しているにも関わらずカール・リーのケースでは即日無罪放免になるのである。まぁこの辺は基本的な法知識はおろか当時の当州の法律をまったく知らないので的外れな指摘である可能性もあるけれども。そもそも白人であれば報復殺人が許容されるという話なのであればまったく違う問題になるわけだし(そんなわけあるかなあという気はする)。

 ほかにも、明らかにもっと登場人物減らして話をタイトにしていいだろとかいろいろ言いたいことがないでもないけどキリがないのでこの辺で。よさげな雰囲気に流されない訓練にはおすすめかもしれません。

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