#2:トラブルメーカー
今日は13日の金曜日でもなきゃ~、仏滅でも、ましてや大凶でも大殺界でもないはずだ。
けど・・・あたしにとってヤッカイ極(きわ)まりないヤツに取り憑(つ)かれちまった。
自称・正義の味方・・・・。宇宙(そら)から宇宙船に乗り、あたしン家(チ)に突っ込んできたワケのわからないエイリアンだ。
そいつは今、まるで自分の根城のようにコタツでゴロゴロして、リラックスした格好でゲームに勤(いそ)しんでいる。
それも、どこで調達したのか、得体の知れないアイドル育成ゲームだ。
ピコピコと耳をツンザくほどの大音響で軽快な電子音のリズムに合わせて、ヤツのお気に入りのアイドルたちが踊っていた。
しかも、コイツの好みだろう、踊ってるアイドルは巨乳ばっかだ。
何だ~、このあたしに当て付けのつもりか~・・・
「ルー太❗」あたしはかなり大声で喚(わめ)いた。
だが、大音響で鳴り響くアイドルソングに掻き消されてしまった。
「ル~~~太❗!!」怒鳴りながら、仕方なしに足元にあったスリッパを手に真っ赤なモヒカン頭をひっ叩(パタ)いた❗
パッコーンと乾いた音が響き、
「イッて~~?何すんだよ~~!!」後頭部を抱え、あたしを睨んだ。
「ハ~~?逆ギレか。お前の方こそ何してンだよ~~!」
「何って見てわかんね~のか。ゲームだよ。ゲーム。」
「そんなの見ればわかるわよ。」リモコンでボリュームを下げた。
このままじゃ、喚(わめ)かないと聞こえやしね~。喉が張り裂けそうだ。
「ったく、痛って~な・・オレは冷蔵庫の下を這い回るゴキブリじゃね~ンだ。」
「ルー太なんかゴキブリ以下じゃない。」
「誰が、ゴキブリ以下だよ。それから、オレ様はルー太じゃね~って言ってンだろ~が❗」
「知るか~!アンタたちの言語じゃ超音波みたいで何言ってンのか、聞き取れないンだから、しょ~がないでしょ。」
「だからって、お前の飼ってたペットの名前つけるコトね~だろ。もっとカッコい~名前にしろよ~❗」
「い~のよ。アンタなんか、充分よ。ルー太で・・・・それより、いつから、ここはアイドルお宅の聖地になったの。」
見渡せば、部屋中、所狭しとアイドルのポスターやらグッズにあふれていた。
「いっや~、だって、ホラ、殺風景だろ~。何か貼らないと~」
「は~、殺風景って、これじゃ、逆に目がチカチカするわ~。
剥(は)がしなさいよ。」
「バカいえ、華やかだろ~。これぞ、パラダイスじゃん。」
「どこが~・アンタにとってでしょ~。とにかくここは、あたしン家なのよ。勝手にベタベタ、エロい水着のポスターを貼るな~❗」
「あ~ン、お前に指図される覚えはね~❗オレ様とお前は握手した時からソウルメイトだろ~❗」
「ソウルメイト~・・・?」
「ああ、オレのモンはオレ様のモン。お前のモンもオレ様のモン❗」
「ジャイアンか~お前は❗ッザけんな~。何がソウルメイトだよ。勝手にあたしン家を侵略してきただけでしょ~❗」
「っだから、契約した時点で、オレ様とお前は絆が交わされたってコトじゃん。」
「お前な~・・・」何、その勝手な言い草は・・・、ただ単に、お前の我が儘に付き合わされてるだけだろ~。
その時、着メロが流れた。あたしのだ。
「く・・・」あたしは大きく息をつき、「ちょ、待ってて・・・」と一旦、落ち着くようにしてスマホに出た。
「もしもし・・・」かなり不機嫌な声で応答した。
<ああ、ルンか。ボクだけど、今、マズいか。>
え~~~~~・・・・?ヤバい、先輩ジャン。なのに、あたしったら・・・思いっきり不機嫌モード・・・・
「あの・・・、ゴメンなさい。ちょっと立て込んでて・・・今、変なヤツの相手をさせられていたモンで・・・」キャ~~、何とかゴマかさないと~・・・・
<そう、近くまで来たモンで・・・自宅に宇宙船が突っ込んできたって聞いて心配になって・・・>
「え、あ、はい・・・」あたしを心配してくれるンだ~~・・・・先輩・・・・・・
「何だ。彼氏か?」いつの間にか、アイドル好きのポンコツヒーローがあたしの隣りで馴(な)れ馴れしく口を挟んできた。
「え・あ、ジャマすンなよ・・・」あたしはヒジでヤツを押しのけた。
<え・・・あ、何か気に障(さわ)った・・・>
「あ、いえ、先輩のコトじゃなくって・・・」ワ~~~~、ヤバい
何言ってンだろ~~~~。あたしったら・・・
<とにかく今、近くだから、寄らせてもらうよ。何か困ったコトない?>
「え・・はい、いえ、別に・・・」困ったコトだらけよ。むしろ、困ってないコトの方が少ないくらい・・・・必死に言い繕(つくろ)った。
<じゃ、・・・>そういって、スマホを切った。あたしは、隣りで意味深に笑ってるバカヒーローを睨みつけ、
「良いコト、部屋を片付けておきなよ。」と告げ、下の階へ向かった。