「男女比が狂った世界の"女子"に転生してしまった男の話」をお読み下さり、誠にありがとうございます。
(
https://kakuyomu.jp/works/16817330656405019156)
※作品リンク
今月に入り、我ながらかなり露骨に更新頻度が落ち込んでおりますが、エタる前兆とかそういうアレではないのでまずはご安心頂ければと存じます。
ただ単純に筆が進んでおりませんでした。
具体的には本業が唐突に忙しくなったせいです。申し訳ない。
毎日更新が理想ではありますが、今後は「一週間に2話程度」の更新頻度で安定していければと思っております。
書き溜めは存在していません。プロットやネタだけはそれなりに溜まっていますので、それを上手いこと消化していければ……といった感じです。
そんな訳で相変わらず不定期更新となりますが、今後も引き続き皆様が楽しく暇を潰せる作品をご提供できればと心より思っています。
そして、どうか完結までお付き合い頂ければ幸いです。
以下はおまけです。
モブのショタ視点で失恋する薄暗い話です。あくまで番外編です。
百合要素もないです。ご注意ください。
ちなみに、今後とも番外編があれば近況ノートに投下していく予定です。
・ ・ ・
「恋だったんだ」
・ ・ ・
「あっ、おいユウタ!お前んち行っていい?」
放課後、廊下を歩いていると、後ろから声をかけてきたナツメがそんなことを言った。
三年生の頃に同じクラスだったナツメは、別々のクラスになった今でもこうして遊びにさそってくる。
それはいつもの事だ。
だけど、いつもとは少しだけ違う事に気がついた。
「え、べつにいいけど……レンたちは?」
ナツメ以外の友達が見当たらないからだ。
レンやその他の男子の姿が見えない。
それを聞くと、ナツメはあきれた顔で肩をすくめた。
「アイツら、掃除中に窓ガラス割ったの今になってバレたんだと。さっさと名乗り出とけば居残りで謝らなくて済んだのに。バカだよな~」
そういってナツメはケラケラと笑った。
「……えと、じゃあ、ナツメだけってこと?」
「うん。ソフト持ってくから対戦しようぜ!昨日の夜、妹にボッコボコにされたからちったぁ強くなってるはず!」
ナツメは当たり前のように答えた。明るい笑顔だった。
それを見て、何故か僕はドキリとした。
「……う、うん。じゃあ、まってる」
「ん!また後で!」
そう言って、ナツメはうれしそうに走っていった。
男みたいなやつだけど、ナツメは女子だ。
少し前まではそんな事を考えたりしなかったのに、どうもここ最近はナツメと話しているとソワソワとしてしまう。
笑顔を見るとこっちまでうれしくなるし、一緒にいると楽しい。
ナツメはすごくいい友達だ。
だけど少し変な気分になる事もある。
ナツメがレンと肩を組んでいるのを見るとなぜか嫌な気分になってしまう。
そのせいで、レンに冷たくしてしまった事もあった。
レンとナツメは二人ともいいやつだから、やきもちを焼いていたんだと思う。
けれど、それだけでは無いような気もした。
それがなんなのかは今でも分からない。
とにかく、ナツメと二人で遊べるのはとてもうれしいと思う。
早く家に帰って遊ぶ用意をしようと思った。
◇
『ごめん!妹が熱出してて、留守番する事になっちゃった』
「……マジか」
タブレットに、ナツメからそんなメッセージが届いていた。
正直、かなり残念に思いながら“わかった”と、返事を送る。
すると少ししてからナツメから新しいメッセージが届いた。
『ほんとごめんな。次はレンたちもつれてくから」
それを見た僕の胸に、何かが突き刺さったような気がした。
「……なんだよそれ」
どうして、そんな気持ちになったのかは分からない。
そして、どうしてそんな事をしたのかも分からない。
僕は少しムキになって、ナツメに冷たい返事を送っていた。
“じゃあ、もういいよ。バイバイ”
心臓がドキドキして、背中が冷たい。
そのままじっとタブレットを見つめていると、メッセージが届く。
『ごめんって~。また明日、学校でな!』
そんな、明るいメッセージだった。
ナツメのあの明るい笑顔が胸に浮かぶ。
なんだか嬉しくなるのと同時に、なぜか悔しい気分になった。
自分でもそれがどうしてなのかはよく分からなかった。
◇
「ようユウタ!今日こそお前んち行くぞ!」
次の日。
放課後、廊下を歩いていると、後ろから声をかけてきたナツメがそんなことを言った。
いつもの事だ。
そして、それ以外もいつも通りだった。
「ナツメ……あんまり毎日押しかけてたらユウタのお母さんに悪いんじゃない?」
レンが、ナツメの肩を握ってそんな事を言っている。
レンだけじゃなくて、いつもの友達が皆揃っていた。
それを見て、何故か残念だと思ってしまった。
「えぇ~、今更だろ。それに昨日行けなかったんだし、別にいいよな?」
ナツメがいたずらな笑顔で僕を見る。
どうしてかは分からないけど、僕はそれを見て嫌な気分になった。
「……ダメ。うちの家族が、最近、友達つれてきすぎだって怒ってる」
どうして嘘をついたのか、自分でも分からない。
むしろ、お母さんは僕が友達を沢山連れてくる事をいつもうれしそうにしていた。
「えぇ!?マジかよ。今度謝りに行かないと……」
僕の嘘に、ナツメは悲しそうな顔をしていた。
「だから言ったじゃん……ユウタ、ごめんね」
レンも、それが嘘だとは気づかなかったらしい。
僕に向かって本気で申し訳なさそうに謝った。
「……う、ううん。別に良いよ……あの、ぼく、今日は帰る」
僕はなんだか居心地が悪くなってしまい、そこから逃げるように立ち去ってしまった。
ナツメとレンの悲しそうな顔が頭から離れなかった。
◇
それからというもの、僕は暫くの間ナツメ達を避けるようになった。
いつものように遊びにさそわれても、僕は嘘の用事を伝えて断った。
その度に「じゃあ、また明日な」と言って残念そうに笑うナツメの顔に、胸が締め付けられるようだった。
それからは逃げるように、同じクラスの男子と遊ぶようになった。
学年が上がってからしばらくの間は、放課後はナツメ達とばかり遊んでいたけれど、彼らと遊ぶようになってからは距離が出来た。
そして、それはナツメからの遊びのさそいを断る理由にもなった。
ナツメが僕をさそわなくなったのは、それからしばらくしての事だった。
ある日の放課後、ナツメは僕に話しかけて来なかった。
ナツメは何故か冷たい表情で、黙ってうつむいたまま、僕の横を通り過ぎて行った。
僕はそんなナツメを見て、勝手に無視されたと思い込んで傷付いていた。
その次の日も、その次の日も。
ナツメが、僕に話しかけてくる事はなかった。
二度となかった。
◇
ナツメは、クラスの女子からいじめられていたらしい。
僕がそれを知ったのは、全てが終わった後だった。
いじめの原因はよく分からない。
けれど、ナツメが辛い思いをした事は間違いなかった。
しかも僕がナツメの事をさけるようになった時期と、ナツメがいじめを受けていた時期はほとんど同じだった。
それを知って、胸が苦しくなった。
「あ……ナツメ……!」
廊下を歩いているナツメを見かけて、後ろから声をかけた。
いつものように、明るい笑顔で返事してくれるんじゃないかと、そんな甘い期待もしていた。
「……あぁ……ユウタか」
けれど。
ナツメは別人のように、冷たい目で僕を見ていた。
背中が冷たくなった。
「……あ、の……」
何を言えばいいのか。
ナツメに謝りたいのか、ナツメを元気づけたいのか。
何がしたかったのか。
その目を見たとき、頭の中の全てが真っ白になってしまった。
ナツメはしばらく僕の事を見ていた。
けれど、僕が何も言えないのを見て、つぶやくように言った。
「……あー……ユウタ。もう、無理に声かけたりしないから。今までごめん」
心臓が、ドクン、と鳴った。
頭の上から背中まで、ぞわぞわと気持ち悪い。
ナツメは、バツが悪そうにそれだけ言い残してどこかへ行ってしまった。
そして、それが最後の会話になってしまった。
◇
僕は、中学校への進学と同時に県外へと引っ越す事になった。
仕事の都合で単身赴任をしていたお父さんと一緒に住めるようになるらしい。
お母さんは嬉しそうだったし、僕も嬉しかった。
だけど一つだけ。
心残りは、ナツメの事だった。
卒業式の日、僕はせめてナツメと仲直りがしたかった。
あの時、僕がナツメと距離を置いたりしなければ。
僕が、ナツメの事を守れていたら。
四年生からの二年半近く、そんな事をずっと思っていた。
「ユウタ。引っ越しても元気でな」
「うん……ありがとう」
レンや、その他の友達が僕の卒業アルバムの寄せ書きに別れの言葉を書き連ねてくれた。
ナツメからの言葉はない。
もし、今でも仲良くできていれば、あるいは。
そんな事を、またしても考えてしまう。
ひとしきり別れの言葉を交わし、下校するタイミングになったその時、ナツメの後ろ姿を見つけた。
誰かを探しているのだろうか。時折、周りを見回しながら歩いている。
つい、息を呑む。
僕はそのまま暫くナツメの姿を見つめていたが、意を決して歩み寄る。
すると、ナツメが振り返る。こちらを見たナツメが、何故か笑顔になった。
久々に見る、あの明るい笑顔。心臓が高鳴る。
少しだけ嬉しくなった僕は、意を決して声を掛けた。
「……あ、あの、ナツ――」
「サヨさん!来てくれたんだ!」
――が、ナツメは僕には目もくれず、後ろにいた女の人の方へと駆け寄った。
「いや、流石に来るでしょ。娘の卒業式くらいは……」
「ありがと~!サヨさん大好き~!お母さんは?」
「あっち。カヨからは"来れなくてごめん"って伝言」
「サヨさんだけ居ればいいけど、お礼は言っとくね」
「ん……」
そう言って、ナツメはその人と手をつないでどこかへ行ってしまった。
僕の事なんて、最初から見えていないようだった。
さっきの、ナツメの笑顔を思い出す。
昔見たままの、明るい笑顔だった。
既にこの世から失われたものと思っていたそれは。
二度と僕に向けられる事のないその笑顔は。
僕が介在するまでもなく、誰かの手によって取り戻されていたその笑顔は。
それを見て僕が感じていた、この胸の高鳴りは。
あぁ、そうか。
この気持ちが、そうだったんだ。
誰にともなく呟いた言葉は、誰にも届く事はなかった。
「恋だったんだ」終