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蟲を捕まえていた。
手のひらいっぱいの蟲である。
赤茶けて翅を硬く閉ざした蟲である。
手のひらの血潮から生まれた蟲である。
わたしの左の手のなかの蟲である。
嫌悪、恐怖。
理解と思考を止め悪手を選び続ける手。
逃げたいのだ。
逃げられないならば努めて冷静に。
た頭の後ろの皮の裏に流れ込む声を聞いて。
虚偽と詐称に塗れた夢の中で。
左の手に蟲を捕まえていた。
嫌悪。
それは自らの血潮に対してだったはずだ。
この血を送る心の蔵へのものだった。
わたしのからだの中心に、わたしだけがいない。

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